学位論文要旨



No 113360
著者(漢字) 倉林,大輔
著者(英字)
著者(カナ) クラバヤシ,ダイスケ
標題(和) 移動ロボット群による掃引作業の計画
標題(洋)
報告番号 113360
報告番号 甲13360
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4078号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 新井,民夫
 東京大学 教授 井上,博允
 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 鈴木,宏正
内容要旨

 本論文では、与えられた領域を覆い尽くす"掃引作業"を、移動ロボット群により遂行するための動作計画手法を構築する.

 移動ロボットが適用される作業は、その作業におけるロボットの目標状態により分類される.掃引作業は、目標状態が2次元の領域で与えられる作業である.掃引作業では,有限時間内に領域を確実に覆い尽くすこと,ロボット群に対し、適切な作業量分配を行うこと,が不可欠である.このため,従来の反射行動型ロボット群では対処できない.一方で、数理的な計画のみでは、実環境への適応能力に欠け、現実のシステムとして構築することができない。そこで本論文では,モデルベースの計画を基本とし、これに反射動作を組み込むことにより、掃引作業の動作計画手法を構築する.また、実際に全方向移動可能自律移動ロボット群を製作し、本論文での掃引作業の動作計画手法を組み込むことで、手法の実現可能性を示した.

 掃引作業では、掃引対象領域を表す地図をモデルとして用いる.しかし、地図と実環境との間には、地図の数値誤差、あるいは未知の障害物の存在などにより差異が生じる.このため,事前に与えられた地図に基づき、全領域の掃引を行う経路の生成と、ロボット群に対する作業量分配をオフラインで計画し、オンラインにおいては個々のロボットの自律的な判断により掃引作業を行う動作計画手法の構成をとる.

 オフラインでの掃引経路生成では、与えられた地図に基づき,2次元である掃引対象領域を1次元の曲線分集合に変換する.変換された曲線分の集合より、掃引経路の生成と作業量の分配を行い、掃引動作全体の最適化を行なう.前者に対しては(i)領域の骨格線および輪郭線を平行移動して得られる曲線群と,グラフ理論による解析を適用し,準最適な掃引経路を生成する.後者に対しては,ロボットの作業量を経路長により評価し,経路を分配することで作業量分配を実現する.掃引経路生成シミュレーションにより、本論文の手法において

 ・領域形状とロボットの掃引能力に応じた掃引作業量の評価

 ・任意台数のロボット群に対する、掃引作業量の分配

 を実現可能であることが示された.

 オンラインでの動作では,個々のロボットが自律的に、地図と実環境との差異に対処する手法を構築する.ここでは、冗長な動作の排除と、高速な(計算量の少ない)経路修正の実現という背反する要求を満たすことが求められる.実環境と地図との差異には、地図を構成する領域形状の位置のずれ、歪み、細かな凹凸といった計量的な誤差と、地図に記載されていない未知障害物の存在といった位相的な変化に大別される.

 前者に対しては,計画された経路に反射行動を組み込むことにより、計算時間を費やすことなく動的に適応を行う.このために(i)経路に対し、障害物に沿った動き、骨格線上の動きといった、意味づけを与える情報を付加,(ii)付加された情報に基づき、実環境の計測を行いながら経路を修正、(iii)計測された実環境から、対応する地図情報の修正、を行う.シミュレーションおよび実験により、従来の数理的な計画のみでは得られなかった環境適応能力が、掃引作業において実現されたことを証明した.

 後者に対しては、未知障害物の存在を発見したさいに、その全形状を知ることなく、逐次対処可能な手法を構築した.ここでは、ロボットの環境計測能力を"一定範囲内の障害物の辺を認識可能"と仮定し、発見された部分的な情報のみにより、経路の再計画を行う.具体的には、(i)経路再構成が必要な部分を局所的に決定,(ii)グラフ理論のスタッカクレーン解法を適用し再構成経路と以前の経路を融合する.これにより、必要な部分に限定して計画が行われるため、計画に用いる要素数を限定することで、ロボットの冗長な動作を縮減し、かつ計算量の爆発を防ぐことが可能となる.シミュレーションにより、従来のルール等による未知障害物回避動作と比較し、最大30%以上ロボットの動作量を減少させることが可能であることを示した.また、実験により、実際にリアルタイムで再計画を行うことが可能であることを示した.

 以上により、本論文では、

 ・掃引対象領域の作業量評価に基づく、ロボット群への掃引経路生成

 ・計画結果への反射動作組み込みによる、環境への適応

 ・逐次・局所的な再計画による、未知障害物を回避した掃引

 を実現し、移動ロボット群により掃引作業を達成する手法を構築した.また、実際に自律移動ロボット群を製作し、動作計画手法を適用することにより、本論文での提案手法が実際に高い応用可能性を備えていることを示した.

審査要旨

 工学修士倉林大輔提出の本論文は,「移動ロボット群による掃引作業の計画」と題し,全9章から成る.本論文では,与えられた領域を覆い尽くす「掃引作業」を,移動ロボット群により遂行するための動作計画手法を構築した.これにより,移動ロボット群によって,高効率かつ確実な掃引作業の達成が可能となった.

 第1章および第2章においては,移動ロボットによる掃引作業の必要性,従来研究および本研究での目的を述べている.移動ロボットが適用される作業は,その作業におけるロボットの目標状態により分類される.掃引作業は,目標状態が2次元の領域で与えられる作業である.掃引作業では,有限時間内に領域を確実に覆い尽くすこと,ロボット群に対し適切な作業量分配を行うことが不可欠である.このため,従来の反射行動型ロボット群では上手に対処できない.一方で,数理的な計画のみでは,実環境への適応能力に欠け,現実のシステムとして構築することができない.そこで本論文では,モデルベースの計画を基本とし,これに反射動作を組み込むことにより,掃引作業の動作計画手法を構築することを述べている.

 第3章では,移動ロボット群による掃引作業の定式化を行い,動作計画手法の構成を決定している.掃引作業では,掃引対象領域を表す幾何学的な地図をモデルとして用いる.しかし,地図と実環境との間には,地図の数値誤差,あるいは未知の障害物の存在などによって差異が生じる.このため,全領域の掃引を行う経路の生成と,ロボットに対する作業量分配といったロボット群全体の最適化については,事前に与えられた地図に基づき,オフラインで計画する.一方,オンラインにおいては,個々のロボットの自律的な判断によって問題に対処する.このような動作計画手法の構成をとることが必要であることを述べている.

 第4章では,掃引作業達成に要する時間を評価指標とし,ロボット群全体を最適化する掃引経路の生成手法を構築している.オフラインでの掃引経路生成では,与えられた地図に基づき,2次元である掃引対象領域を1次元の曲線分集合に変換する.変換された曲線分の集合より,掃引経路の生成と作業量の分配を行い,掃引動作全体の最適化を行なう.前者に対しては領域の骨格線および輪郭線を平行移動して得られる曲線群と,グラフ理論による解析を適用し,準最適な掃引経路を生成する.後者に対しては,ロボットの作業量を経路長により評価し,経路を分配することで作業量分配を実現する.掃引経路生成シミュレーションにより,領域形状とロボットの掃引能力に応じた掃引作業量の評価と,任意台数のロボット群に対する掃引作業量の分配を実現可能であることが示された.

 第5章では,第6章,第7章に先立ち,掃引作業を実行するための自律型移動ロボットシステムの構築を行っている.自己位置および他のロボットや位置標識からの相対位置を認識可能なカメラシステム,壁面にそって動作可能な接触センサシステム,ロボット自体で情報処理が可能なコンピュータシステムのすべてを,全方向移動台車に実装し,実環境内において動作計画手法の検証を可能としている.

 第6章,第7章では,作業中に個々のロボットが自律的に,地図と実環境との差異に対処する手法を構築している.

 第6章では,地図を構成する領域形状の位置のずれ,歪み,細かな凹凸といった計量的な誤差に対処する手法を構築している.計画された経路に反射行動を組み込むことにより,計算時間を費やすことなく動的に適応を行う.このため,(i)経路に対し障害物に沿った動き,骨格線上の動きといった意味づけを与える情報を付加,(ii)付加された情報に基づき実環境の計測を行いながら経路を修正,(iii)計測された実環境から対応する地図情報の修正,を行う.シミュレーションおよび実験により,従来の数理的な計画のみでは得られなかった環境適応能力が掃引作業において実現されたことを明らかにした.

 第7章では,地図に記載されていない未知障害物の存在に対処する手法を構築している.未知障害物の存在を発見した際に,その全形状を知ることなく,逐次対処可能な手法を構築した.ここでは,ロボットの環境計測能力を"一定範囲内の障害物の辺を認識可能"と仮定し,発見された部分的な情報のみにより,経路の再計画を行う.具体的には,(i)経路再構成が必要な部分を局所的に決定し,(ii)グラフ理論のスタッカクレーン解法を適用し再構成経路と以前の経路を融合する.これにより,必要な部分に限定して計画が行われるため,計画に用いる要素数を限定することで,ロボットの冗長な動作を縮減し,かつ計算量の爆発を防ぐことが可能となる.シミュレーションにより,従来のルール等による未知障害物回避動作と比較し,最大30%以上ロボットの動作量を減少させることが可能であることを示した.また,実験により,実際にリアルタイムで再計画を行うことが可能であることを示した.

 第8章では,第4章から第7章までの定式化・設計の有用性を検証するため,従来用いられてきた反射動作に基づくロボットとの比較を行った.比較において,掃引対象領域の形状の複雑さを,非整数次元であるフラクタル次元を導入することにより,定量的に表現した.これに基づき,掃引作業を達成するために必要なロボットの移動量を比較した.この結果,提案手法は掃引対象領域形状が複雑であるか否かの影響をほとんど受けずに作業を達成可能であることが示された.

 第9章では,結論として,移動ロボット群により掃引作業を行うための動作計画手法が確立されたことを述べている.本論文で構築された手法により,高効率な動作と柔軟な環境適応性を併せ持つロボット群の作業への適用が可能となった.

 以上を要するに,複数の移動ロボットにより,2次元領域を覆い尽くす作業の動作計画手法を構築し,実環境での動作を実証したことから,この論文は精密機械工学のみならず,工学全体の発展に寄与するところが大である.

 よって,本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる.

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