本論文は、低侵襲外科手術を発展させるために必須な医用画像統合について、統合ヒストグラムを利用した画像相関度評価関数の導入により、術前および術中を通じた複数種類の医用画像を半自動的に統合する手法を実現し、MRI(磁気共鳴画像)等の医用画像による脳外科手術への臨床応用を通じて評価しこれらの手法の有効性を明らかにしたものである. 近年注目されている低侵襲手術の代表例に、術前又は術中に撮影された画像を参照して外科手術を行う画像誘導下手術がある.ここで利用する医用画像として、術前の画像は画質が高く様々な情報が得られる反面、手術中の臓器の変形には追従できないという問題がある.また術中画像は臓器変形などの実時間情報を得られるが、画質や撮影範囲が劣っている.そこで本論文では、術前医用画像と術中医用画像を情報を変形させ統合する手法を開発し、両者の利点を併せ持った画像の提供による手術支援システムの構築を目的としている. 本論文では、まず医用画像の変形統合について具体的な応用を考察し、術前についてはX線CTやMRIなど複数のモダリティが各々に提供する高画質な画像情報を、全体的な座標変換によって統合し、一つの手術支援画像とすることが有効であること、術中ではさらに臓器変形のようなリアルタイムかつ局所的な変形を行う必要があることを述べた.そして各々において扱う変形統合操作を、画像全体の座標変換による「剛性変形」および局所的な変形も含めた「弾性変形」として分類した. 次に「剛性変形」すなわち複数の医用画像を座標変換により統合するための変換行列を求める新しい手法を述べている.従来は患者身体にマーカと呼ばれる標識物体を埋め込んで画像を撮影し変換行列を求めていたが、患者への侵襲度が高く手続きが煩雑であった.そこで本研究では画像の濃度分布がどのくらい一致しているかという相関度を統計学的に求めることで、マーカを用いず簡便な操作で変換行列を求める手法について研究した.具体的には、「統合ヒストグラム」を新たに導入した.これは二つの画像上の同一位置のピクセルの輝度の組み合わせに基づいた、2次元のヒストグラムである.この統合ヒストグラムの分布エントロピーを二つの画像の相関度の評価関数とし、一方の画像に座標変換を施したものと他方の画像との一致を計算する.この相関度を最大化するような座標変換行列を求め、二つの術前医用画像同士の統合を行う.この相関度関数の計算量は大きなものとなるが、近似計算を行わず並列処理と計算アルゴリズムの最適化により高速かつ高精度の相関度計算を実現した. さらに術中の臓器の局所的な変形に対応するための「弾性変形」の実現について述べている.ここでは断層画像を格子状に分割し、各格子単位での座標変換として局所的な変形を考えている.そして各格子単位の変形が画像全体で整合して行われるために、変換行列の最適化に際して変形制御項を加えた.これにより、組織全体の形状の連続性を保ちつつ変形するような変換行列を求めることができる. 開発された手法の評価として、頭部MRI画像を用いて人為的に移動、回転を行った画像を作成し、元画像との間で統合処理を行った.その結果、統合後の画像の元画像に対する誤差として、最大位置誤差1.3mm×1.3mm×4.6mm、回転誤差3.9度を得た.これは画像分解能が0.78mm×0.78mm×1.5mmであることから誤差として許容できる結果であった.更に臨床画像データを用い、描出される臓器が異なるT1強調MRI画像とT2強調MRI画像の統合、および頭部全体を撮影した術前MRI画像と、部分的に撮影された術中MRI画像の撮影範囲の異なる画像間での統合をそれぞれに行い、統合後の画像が臨床に十分応用可能であることを示した. さらに開発された手法を用いMRI画像誘導手術への応用を行った.ここでは、術前に撮影されたMRI画像や、それから得られた患者臓器の三次元再構成モデルと、術中に得られたMRI画像を統合し、それらの相対関係を参照することで医師の手術を支援するシステムを構築した.具体例では、術前において得られる医用画像情報として、T1強調MRIから得られる患者頭部全体の形状、MR血管造影像による血管形状、SPECT(核医学画像)による癌組織形状を用い、これらを統合した術前統合医用画像を作成した.これをグラフィックスワークステーションにより立体表示し手術中に参照することとした.さらに、術中に得られる患部周辺のMRI画像との変形統合により、術前、術中の情報を合成して表示することで、効果的に手術を支援できることが示された. 考察において、画像一致度による評価関数を導入した本手法では、従来のマーカを用いないために患者に対する低侵襲性と統合操作の半自動化を実現できただけでなく、機能画像や血管造影像等これまで変形統合の適用が困難であった医用画像についても統合対象として扱えるようになった点を挙げ、そのために臨床の現場という条件下でも有効に利用できる方法となったことを述べている. 以上から本論文では、手術支援のための統合医用画像の提供のため、統合ヒストグラムの分布エントロピーを相関度関数とする医用画像の変形統合手法を実現し、この手法は低侵襲治療に適しており十分な精度を有し操作も半自動で行えること、さらに術前、術中の様々な医用画像に対して従来よりも広い範囲で適用可能であることを明らかにした. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |