翼型上に存在する層流剥離泡の挙動は翼の失速特性を決定づける要因と言われる。境界層が翼型表面から層流剥離して生じた剪断層内ではKelvin-Helmholtz不安定による周期的変動、さらには乱流遷移が生じ、これによってその後急激に圧力回復した乱流が翼型表面に再付着して層流剥離泡を形成する。再付着点の下流において、流れは充分に発達した乱流境界層へ漸近する。これらの剥離泡内部にみられる乱流を含む複雑な流れのメカニズムの理解は、これまでになされた多くの研究にも関わらず未だ未解決の問題として残されている。 本研究では、レイノルズ平均Navier-Stokes方程式に渦粘性モデルを適用して数値的に解くことにより層流剥離泡を再現することを試みた。特に渦粘性モデルの能力や適用範囲を検討し、実験によって知られた翼型上に生ずる層流剥離泡の流れ場と比較して考察を行った。 Boussinesqの等方渦粘性に基づく代数モデル、1方程式モデル、さらには2方程式モデルは比較的単純な流れ場においては多大の成果を上げている。しかし、工学分野で取り扱われる複雑な流れ場では、これらは一般に精度の高い解を与えることはできない。特に、局所エネルギー平衡が成り立たない場合に、渦粘性モデルを適用することには問題がある。Chapter3の理論分析により、非平衡の流れ場では代数モデル、1方程式モデル、あるいは2方程式モデルがいずれも適当でないことが示される。そのひとつの原因は、渦粘性の無次元係数が簡単な代数関数で近似することができないためである。ここでは、その無次元係数が満たす輸送方程式を導出した。非平衡の流れ場に対する渦粘性は ただし と書くことができる。この無次元係数2の輸送方程式が得られた。これと同様に、1方程式モデルあるいは2方程式モデルの無次元係数の輸送方程式が得られる。例えば、2方程式k-モデルに対して と置くと の形になる。これより2方程式k-モデルの無次元係数の輸送方程式は次のようになる 式(4)と(5)を見ると、渦粘性の無次元係数は簡単な代数関数では近似出来ないことが分かる。 Chapter4では代数モデルを用いて、層流剥離泡の数値計算を行う。これまでの多くの研究では遷移関数を経験的な間欠係数と仮定しているが、ここではChapter3の理論分析によって得られた非平衡の遷移モデルを提案した。非平衡の渦粘性は式(5)より と置き遷移関数はこの無次元係数とする。非平衡因子は次の式 から得られる。計算の結果は図1、及び図2に示される。 Fig.1Comparison of transition functions.―――non-equilibriurm model;…………intermittency factorFig.2.Comparison of results of turbulence models of Airfoil B1.―――Cebeci-Smith model;…………Baldwin-Lomax model;------Non-equilibrium model. 遷移過程に見られるovershoot現象がこの非平衡の計算で再現されでる(図1)。また図2.bでは最大レイノルズ応力の発達過程の傾向が実験結果によく対応した。しかし、全体的に、非平衡の特性をもつ層流剥離泡には代数モデルが満足な結果を与えない。 Chapter5ではさらに精度の高い低レイノルズ数型k-モデルを用いて層流剥離泡を解析し、実験結果と比較検討した。ここで使用した代表な乱流モデルは低レイノルズ数型のJones-LaunderモデルとLaunder-Sharmaモデルである。結果としては、低レイノルズ数型モデルが非平衡乱流遷移過程を基本的に再現できるが、計算の結果は一様流の乱流強度に対して敏感であることが分かった。計算結果と実験値の比較を図3に示す。 Fig.3 Results of 2-equation models:solid line,Jones-Launder model dash line,Launder-Sharma model. 本論文の結論として、1)等方的な渦粘性に基づく代数モデル、1方程式モデルおよび2方程式モデルは、いずれも非平衡の乱流に対して流れ場の特性を適切に再現出来ないことが認識された。そのモデルのもつ欠点を補う指針が提案された。2)層流剥離泡を数値的に解析する場合、代数モデルあるいは低レイノルズ数型k-モデルによる結果としては、定性的に実験結果と対応するが、レイノルズ応力の成長は実験値に及ばず、過小評価に止った。 |