No | 113379 | |
著者(漢字) | 時松,宏治 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | トキマツ,コウジ | |
標題(和) | トカマク型核融合動力炉の経済性及び環境適合性に関する定量的評価研究 | |
標題(洋) | Quantitative Analysis of Economy and Environmental Adaptability of Tokamak Fusion Power Reactors | |
報告番号 | 113379 | |
報告番号 | 甲13379 | |
学位授与日 | 1998.03.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4097号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 核融合研究が開始して以来約50年間、核融合開発研究は臨界プラズマ条件を目指して研究開発を進めてきた。最も研究開発が進展したプラズマ閉じ込め方式はトカマク型と呼ばれるもので、プラズマ中に電流を流すことにより生成されるドーナツ状の磁力線による"かご"の中にプラズマを閉じ込める方式である。入力パワーと出力パワーが等しくなる臨界プラズマ条件は世界の3大トカマク実験装置のうち、ECのJET(1991年)と日本のJT-60U(1996年)で達成された。JETと米国のTFTR実験装置では1993年から、実際の核融合反応を模擬して重水素と三重水素を用いたDT実験を行っている。 また自己点火条件(即ち外部からの加熱入力無しに核融合反応によって生じた粒子による加熱のみで核融合反応を持続する状態)を目指した国際熱核融合実験炉ITERの詳細設計が1998年に完了する予定である。現在までの実験的に得られた物理データベースや工学的知見を基に過去になされた研究よりも高い確度で、実験炉の次の原型炉や動力炉など、あるいは材料開発のデータベースを得るための体積中性子源等の概念設計を構想することが出来る段階まできた。 核融合界はその研究開発がスタートした当初から、核融合はクリーンで安全で、半永久的にエネルギーを供給できる『夢のエネルギー』と喧伝してきた。また最近の地球温暖化問題に対する社会的関心の高まりのなか、通産省が提唱した地球再生計画では革新的エネルギー技術として核融合は期待されている。それと同時に核融合炉のエネルギー収支や温暖化ガス排出量、さらに放射性廃棄物量等の環境適合性についての客観的定量的評価を社会の側から問われるようになった。核融合炉研究開発側では経済性や環境適合性についての要素を考慮して、今後の核融合炉開発戦略を描く必要性が出てきた。 臨界プラズマ条件を達成し、実験炉の詳細設計が完了し、動力炉の概念設計まで可能になったトカマク型核融合炉の現段階において、トカマク型核融合炉の経済性と環境適合性に関して評価することは時節に適っている。この様な認識に基づき、本研究では今後のトカマク型核融合炉の経済性と環境適合性の定量的評価を通じて、トカマク型核融合炉同士の運転方式の比較や現時点で利用されている他のエネルギー源との比較について論じた。 本研究では先ず「通常アスペクト比」トカマク炉(プラズマ大半径/小半径で定義されるアスペクト比A=3から5程度)の中で炉型選択の議論を行った。対象とした炉型は送電端出力100万kWのDT燃焼方式トカマク型核融合炉で考えられている第1安定化領域(FS)での運転、第2安定化領域(SS)での運転、逆転シア配位(RS)を用いた運転という3種類の運転方式を取り上げた。それぞれの運転方式において発電原価最小化を行う際に、物理・工学の設計パラメータがどのような値をとるべきかを評価した。さらにそれぞれの運転方式において発電原価最小化を行った核融合炉の相互比較を行った。比較評価の際には比較基準として、実験炉ITERをトロヨン係数(磁場による圧力でプラズマ圧力を閉じ込める効率を表す指標)とプラズマ温度のスケールアップのみで、送電端100万kWにした動力炉ITER-likeを用いた。 発電原価最小化の結果、FS炉ではMHD安定性のためトロヨン係数が3程度に制約された。このため自発電流割合は0.58と低いため、自発電流割合を高めるべくアスペクト比が制約上限の4.5まで上昇した。この高アスペクト比化による装置の大型化を相殺し炉心プラズマサイズの小型化を図るため、TFコイル最大トロイダル磁場を制約上限の20Tまで向上させる結果となった。一方SS炉ではトロヨン係数4.85、自発電流割合1.01と高いためアスペクト比は制約下限の3まで下げることで装置の小型化を図った。しかしMHD安定性のために安全係数を8.6まで高める必要が生じ、それにより核融合出力密度が低下したため、出力密度の向上を図るためにTFコイル最大トロイダル磁場を17Tまで向上させる結果となった。RS炉ではトロヨン係数4.95、自発電流割合0.94と共に高くすることができ、安全係数も3.75と低くすることができるためTFコイル最大トロイダル磁場は13Tと低くてすむことが判明した。 さらにこれら3つの運転方式で発電原価最小化された炉の総建設費の比較を行った。図1に示すようにRS型が総建設費で最小であり、発電原価も最小であった。このRS炉は基準とするITER-like炉の総建設費の約半分である。この理由としては(1)外部から加える電流駆動パワーが小さいこと、(2)プラズマ体積が小さいこと、(3)TF coilの体積が小さいことである。RS炉は(1、3)の条件でFS型より、(2、3)の条件でSS型より有利であった。 次にこのRS炉とは別途に研究が進んでいる「低アスペクト比」トカマク炉(A=1.1〜2.0程度)であるST炉も対象として、経済性とエネルギー収支、CO2排出量、放射性廃棄物量に関する評価を行った。経済性については実験炉ITERでの建設費の見積もりに用いられたデータを利用した。また現段階で出来るだけ最新のエネルギー原単位、CO2排出量原単位のデータを用いた。炉型式、構造材と他のエネルギー源との定量的な比較評価を行った。炉型と他のエネルギー源との比較についての結果を表1に示す。 炉型の比較ではRS炉、ST炉ともITER-like炉と比較して、上記いずれの特性についても倍程度向上させてた。即ち、単位電力当たりの直接建設費をRS炉で61[万円/kW](ST炉で53、以下同様)、発電原価21(20)[円/kWh]、単位電力量当たりのCO2排出量22.5(24.0)[g-CO2/kWh]、放射性廃棄物量4893(6101)[m3]と半減させ、エネルギー比28(28)と2倍向上させた。RS炉と比較してST炉は装置の更なる小型化により装置本体に関係するコスト、エネルギー投入量、CO2排出量は小さくなるが、中性子壁負荷の増大が定期交換頻度の増加を招くことで定期交換に占めるコスト、エネルギー投入量、CO2排出量が多くなり、結果としてRS炉とほぼ変わらない結果となった。 他のエネルギー源との比較ではITER-like炉は経済性、エネルギー比、CO2排出量いずれをとっても他のエネルギー源よりも特性が悪い。即ち核分裂炉と比較してコストは4倍(直接建設費で121[万円/kW]、発電原価で44[円/kWh])、CO2排出量原単位は2倍(46.5[g-CO2/kWh])、エネルギー比は半分(12)である。コストが4倍という時点でITER-like炉がエネルギー源として競合性を持つとは考えにくい。またRS炉やST炉でも、仮定した75%の設備稼働率が達成可能であっても、現時点では分裂炉の2倍であり経済的競合性を持つとは言い難い。しかしRS炉、ST炉はエネルギー比、CO2排出量原単位は他のエネルギー源の中でも優れているワンススルー・ガス拡散方式による核分裂炉や水力発電と同程度のエネルギー比28、CO2排出量原単位23前後と優れていることが明らかになった。 核分裂炉と比較して、構造材料にフェライト鋼を用いたRS炉では放射性廃棄物量を2桁削減できること、また長寿命核種の全誘導放射能レベルに占める割合はほぼ無視しうる程度であることは、核融合炉が放射性廃棄物を廃棄するとは言え十分魅力的なことである。ただし核分裂炉からの放射性廃棄物の大半はフロントエンド、即ちウラン採掘に伴う残滓で放射能レベルは108[Bq/m3]であり、いわゆる高レベル放射性廃棄物の放射能レベルは1015〜1016[Bq/m3]である。一方で構造材料にフェライト鋼を用いた核融合炉からの放射性廃棄物の誘導放射能レベルは、炉から取り出した直後で1015〜1018[Bq/m3]、100年間の冷却後でも1010〜1016[Bq/m3]と核分裂炉からの放射性廃棄物のレベルと比較して低くはない。ただしバナジウムやシリコンカーバイド等を用いると誘導放射能レベルの大幅な低減が可能である。また核分裂炉と核融合炉を包括する、放射性廃棄物の高、中、低レベルの分類基準が必要である。 以上により今後の核融合開発は(1)炉形式では高物理性能のRS炉やST炉を目指すこと、(2)更なるコストダウンを目指すこと、(3)構造材の開発では低コスト、低エネルギー投入量の低放射化材料の研究開発を進めること、が必要である。これにより、他のエネルギー源との比較で核融合炉の短所である高コストと放射性廃棄物を克服することで、(A)コスト面で将来の核融合炉ユーザーとなり得る電力業界やエンドユーザーである消費者に受容されやすく、(B)放射性廃棄物の面で社会に受容され易い、核融合炉を開発するべきである。 またエネルギー供給源の開発という政策的観点からは次のように述べる。(1)現在は高物理性能化の兆しが実験的研究、シミュレーション研究により現れ始めた初期的段階である。(2)この研究成果を踏まえた高物理性能を利用したRS炉やST炉は現時点では経済性を有していないが環境適合性は有している。ここで経済性、エネルギー比とCO2排出量の各特性について、現在利用されている他のエネルギー源の範囲にあれば経済性及び環境適合性を有していると考えている。(3)またトカマク型核融合炉は核分裂炉よりも放射性廃棄物量を少なくとも2桁、構造材料の開発によりさらに削減可能であるという魅力を有している。今後更に物理性能や工学技術の性能の向上、材料開発等によりコストダウンや放射性廃棄物の放射能レベル低減の可能性があるため、トカマク型核融合炉の研究開発を継続することは価値があると結論づける。以上が本論文の要約である。 | |
審査要旨 | 核融合エネルギー研究はトカマク型磁気プラズマ閉じ込め方式を中心に展開されており,核燃焼実験の段階にまで到達している.この将来における実用化見通しを得るにあたって,経済性と環境適合性を評価する必要がある.本論文は「Quantitative Analysis of Economy and Environmental Adaptability of Tokamak Fusion Power Reactors」(トカマク型核融合動力炉の経済性及び環境適合性に関する定量的評価研究)と題し,全体は5章より構成される. 第1章は序であって,エネルギー資源問題における核融合エネルギーへの期待,磁気プラズマ閉じ込め方式の原理,トカマク型核融合炉のシステムの構成,等について述べ,本論文の背景を概説している. 第2章は「トカマク型磁気閉じ込め実験の歴史と動力炉設計研究の動向」と題して,トーラスプラズマの大半径と小半径の比で定義されるアスペクト比Aが3から5程度を有する従来型トカマク研究の今日までの進展,自己点火条件を目指した国際熱核融合実験炉(ITER)計画の現状,最近注目され始めた球形トカマク研究の現状,また,これらの進展と平行して行われてきたトカマク型動力炉の概念設計研究および経済性評価研究の現状が説明されている. 第3章と第4章が本論文の主部であって,まず第3章では「水冷却方式を用いたDT燃焼トカマク型核融合動力炉のコスト評価に関する研究」と題し,従来型トカマク炉に関して,3種類のプラズマ閉じ込め運転モードに対して炉設計パラメータの最適化を行った結果を述べている.対象としたモードは第1安定化領域運転(FS炉),第2安定化領域運転(SS炉),逆転磁気シア配位運転(RS炉)であって,それぞれの運転モードの物理特性には既存のデータベースを用い,送電端出力を共通の100万kWとした場合に対して,将来の動力炉を想定して提案された改良形ジェネロマックモデルに基づいて,炉構成要素の容量規模を算出している.そしてそこから計算される発電原価を最小化すべく,設計パラメータサーベイを行っている.FS炉ではMHD安定性のためトロヨン係数が3程度に制約され,自発電流割合を高めるべくアスペクト比が制約上限の4.5まで上昇して,TFコイル最大トロイダル磁場は制約上限の20Tまで増大させる必要がある.一方SS炉ではトロヨン係数4.85,自発電流割合1.01と高くできてアスペクト比は制約下限の3まで下げることで装置の小型化を図れる一方,MHD安定性のために安定化係数を8.6まで高める必要が生じて,TFコイルの最大トロイダル磁場を17Tまで増大させる必要がでる.RS炉ではトロヨン係数4.95,自発電流割合0.94と共に高くすることができ,安定化係数も3.75と低くすることができるため,TFコイル最大トロイダル磁場は13Tと低くてすむ.このようにして発電原価の最小化を行ったそれぞれのトカマク炉の経済性を,現実的なITER炉と同規模のITER-like動力炉を基準として相互比較を行った.その結果,上述のRS型が総建設費,発電原価とも最小で,基準とするITER-like動力炉の約半分程度であることが判明し,その優位性が結論された. 第4章は「トカマク型動力炉の経済性とエネルギー収支及び環境負荷関する研究」と題して,第3章で優位性が指摘されたRS炉に加えて,近年その高性能特性が明らかにされつつあるアスペクト比が1.3〜1.5と低い球形トカマク炉(ST炉)を考慮にいれた諸検討結果を述べている.すなわちこの二つを基盤とした先進的核融合炉を対象として,ITER炉と同規模の炉であるITER-like動力炉,および他の各種エネルギー源との比較の下で,それ等の経済性の評価,エネルギー収支,CO2排出量,放射性廃棄物量,等に関する評価を行っている.ここでは対象とする核融合炉の価格見積りについては,ITER実験炉での建設費見積りに用いられたデータを利用している.またエネルギー原単位,CO2排出量原単位等については最新の入手可能なデータを用いている.この結果,RS炉,ST炉ともにITER-like動力炉と比較して,上記いずれの項目についても倍程度の性能向上が図れることが判明した.次に,他のエネルギー源との比較ではRS炉やST炉は,発電コストは現時点では分裂炉の約2倍となるものの,他の特性,例えばエネルギー収支,CO2排出量原単位は,他のエネルギー源の中で優位にあるワンススルーガス拡散方式による核分裂炉,および水力発電と同程度となることが明らかにされた.将来,核融合炉構造材料にフェライト鋼等の低放射化材が安価に使用できれば,放射性廃棄物量をさらに2桁削減できること,また長寿命核種の全誘導放射能レベルに占める割合はほぼ無視しうることから,核融合炉が十分魅力的なエネルギー源になりうることを指摘した. 第5章は「結論」であり本論文の成果をまとめている. 以上これを要するに,本論文はトカマク型核融合動力炉に関して,プラズマ閉じ込め運転モードとして性能の異なる各種モードを前提とした場合の最適設計を比較検討し,その経済性評価をおこなうとともに,それらを基盤とした核融合炉の発電原価,エネルギー収支,環境負荷等を他の各種のエネルギー源と比較検討することによって,トカマク型プラズマ閉じ込め方式の実用化研究に対する方向性を示したもので,電気工学,特に核融合エネルギー工学に対して貢献が大きい. よって本論文は博士(工学)請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/1820 |