学位論文要旨



No 113384
著者(漢字) 李,継峰
著者(英字)
著者(カナ) リ,ジフォン
標題(和) 連接符号の繰り返し復号
標題(洋) Iterative Decoding of Concatenated Codes
報告番号 113384
報告番号 甲13384
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4102号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 青山,友紀
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 助教授 瀬崎,薫
内容要旨

 1993年のターボ符号(並列連接畳込み符号とも呼ばれる)の誕生は近年の符号理論における画期的な出来事と言っても過言ではない.ターボ符号がシャノン限界に近づく特性を持つ,多くの符号理論研究者は,はじめ半信半疑であった.しかし,その特性が実証され,認知されるにつれ,その疑いは驚嘆に変わった.その後,ターボ符号に関する研究開発が盛んに行われ,既に数多くの研究成果が発表されている.

 本論文では、ターボ符号及び軟判定入力/軟判定出力繰り返し復号法に基づいて,その問題点である計算量,エラー・フロア現象及び遅延を低減するために研究を行なう。また,繰り返し軟判定復号とアルゴリズムについて提案研究も行なう.実用的に最適な特性を達成し,またその実装が容易である手法について提案を行なう.更に、繰り返し軟判定復号法のCDMAなどの分野における応用に関して、具体的な符号の構成及び復号法を検討している。

 本論文は7章から成り立っている.具体的には,

 ●第1章では研究背景,動機,及び論文の構成などについて述べる.

 ●第2章では,本論文の基礎であるターボ符号の構造,MAPアルゴリズム及びSOVA,軟判定入力/軟判定出力繰り返し復号法などについて紹介する.

 ●第3章では,混合状態ターボ符号について検討を行なう.従来のターボ符号では,同じコンポーネント畳込み符号を用いる場合がほとんどである.異なる符号(異なる拘束長の畳込み符号に限らず,ブロック符号も含んでいる)をコンポーネントとするターボ符号を混合状態ターボ符号と呼ぶ.本研究では,計算機シミュレーションの結果を示し,計算機探索によって,幾つか良い混合状態ターボ符号が見つかった.混合状態ターボ符号によって,与えられた誤り率に対し,復号の措置化を減らすことができる.

 ●第4章では,多次元ターボ符号の特性及び簡易化された復号器の構造について検討する.従来のターボ符号を拡張し,二つ以上の畳込み符号をコンポーネント符号とする符号を多次元ターボ符号と呼ぶ.本章では,一様インタリーバを用い,多次元ターボ符号の平均的な誤り限界の理論的な解析を行なう.m次元ターボ符号のインタリーバ利得は1/Nm-1に比例していることが明らかになった.与えられたPb(e)に対して,多次元(大きいm)によって,短いインタリーバ,すなわち小さい遅延が可能となる.従って,遅延に敏感な音声通信の場合は,多次元ターボ符号が一つの有望な選択と考えられる.また,簡易化された復号器の構造を提案し,計算機シミュレーションによって,多次元ターボ符号誤り率特性を示した.多次元ターボ符号のインタリーバ利得が大きいため,短いインタリーバで良い誤り率を示した.

 ●第5章では,CDMAのための低レート直交連接符号及び繰り返し復号について検討する.従来のCDMAシステムでは,畳込み符号,或いは畳込み符号とリード・ソロモン符号の連接符号が良く用いられている.符号化利得がCDMAシステムの容量に直接関連しているため,強力なターボ符号をCDMAシステムに応用することによって,システム容量が大幅に増やすことができる.但し,従来のターボ符号は遅延が大きいため,CDMAに応用するとき,遅延を減らす研究が重要な課題となった.そこで本研究では,低レート直交ターボ符号,低レートシリアル連接直交符号及び畳込み符号とアダマール符号の連接を提案し,計算機シミュレーションによって,短いインタリーバで良い誤り率特性を示した.繰り返し復号技術によって,我々の提案する符号は従来のIS-95標準に採用された畳込み符号とアダマール符号の連接より,誤り率特性が大幅に改善されることを確認した.

 ●第6章では,ランダムパンクチャドパターンを提案し,パンクチャドターボ符号(RCTC)の誤り率特性の解析を行ない,計算機シミュレーションの結果を示す.高符号化率が要求される応用の場合は,パンクチャドターボ符号が有望な選択と考えられる.最後に,パンクチャドターボ符号の混合ARQシステムにおける応用を検討する.

 ●第7章で,本研究をまとめ,今後の研究課題について述べる.

 以上のように,本研究はターボ符号に基づいて,一般的な連接符号について論じており,軟判定入力/軟判定出力繰り返し復号技術の実用化に寄与するものである.

審査要旨

 本論文は,「連接符号の繰り返し復号(Iterative Decoding of Concatenated Codes)」と題し,移動体通信,放送等に用いられる誤り訂正符号化について論じたものである.近年,符号理論の分野では,畳込み符号の並列連接で構成されるターボ符号及びその軟判定入力/軟判定出力操り返し復号法がシャノンの示した限界に近い特性に達する方式として注目されている.しかし,この方式には,繰り返しに伴う計算量の多さ,復号誤りに下限を生じるエラー・フロア現象及び遅延の大きさという問題がある.本論文は,これらの問題の解決を目指したものであり,実用的に最適な特性を達成し,またその実装が容易である手法について提案を行なっている.更に,繰り返し軟判定復号法のCDMAなどの分野における応用に関して,具体的な符号の構成及び復号法を検討している.本論文は7章から成る.

 第1章「序論」では研究の背景,動機,及び論文の構成について述べる.

 第2章「ターボ符号と軟判定入力/軟判定出力繰り返し復号」では,本論文の基礎であるターボ符号の構造,MAP(Maximum A Posteriori Probability)アルゴリズム及びSOVA(Soft Output Viterbi Algorithm),軟判定入力/軟判定出力繰り返し復号法などについて紹介する.

 第3章「混合状態ターボ符号」では,新たに定義した混合状態ターボ符号について検討を行なう.従来のターボ符号では,要素符号として同じ畳込み符号を用いる場合がほとんどであった.これに対し,ブロック符号まで含め,異なる符号を要素符号とするターボ符号を混合状態ターボ符号と呼ぶことにする.この符号を用いると,与えられた誤り率に対し,復号の装置化を簡単化することができる.本章では,計算機探索によって,幾つか優れた混合状態ターボ符号を見出した.

 第4章「多次元ターボ符号」では,従来のターボ符号を拡張し,二つ以上の畳込み符号をコンポーネント符号とする多次元ターボ符号の特性及びその復号器の簡単化について検討する.本章では,深さXの一様インターリーバを用い,多次元ターボ符号の平均的な誤り限界の理論的な解析を行なう.この結果m次元ターボ符号のインターリーバ利得は1/Nm-1に比例することが明らかになった.与えられたビット誤り率に対して,mを大きくすることによって,インターリーバの短縮,すなわち遅延の減少が可能となる.従って,遅延が大きな問題となる音声通信の場合は,多次元ターボ符号が一つの有望な選択肢と考えられる.また,簡単化された復号器の構造を提案し,計算機シミュレーションによって,多次元ターボ符号の誤り率特性を求め.多次元ターボ符号のインターリーバ利得が大きいため,短いインターリーバでも良い復号特性を示すことを明らかにした.

 第5章「低レート直交連接符号の繰り返し復号」では,CDMAのための低レート直交連接符号及び繰り返し復号について検討する.従来のCDMAシステムでは,畳込み符号,或いは畳込み符号とリード・ソロモン符号の連接符号がよく用いられている.誤り訂正符号の符号化利得がCDMAシステムの容量に直接関連するため,強力なターボ符号をCDMAシステムに応用することによって,システム容量を大幅に増やすことができる.但し,従来のターボ符号は遅延が大きいため,CDMAに応用するとき,遅延を減らす研究が重要な課題となっていた.そこで本研究では,低レート直交ターボ符号,低レートシリアル連接直交符号及び畳込み符号とアダマール符号の連接を提案し,計算機シミュレーションによって,短いインタリーバで良い誤り率特性を示すことを明らかにした.さらに,繰り返し復号によって,提案する符号は従来のIS-95標準に採用された畳込み符号とアダマール符号の連接より,誤り率特性が大幅に改善されることを確認した.

 第6章「レート・コンパチブル・ターボ符号」では,パンクチャドターボ符号の誤り率特性の解析を行ない,計算機シミュレーションの結果を示す.高符号化率が要求される場合は,パンクチャドターボ符号が有望な選択と考えられる.また,パンクチャドターボ符号のハイブリッドARQシステムにに対する応用も検討している.

 第7章「結論」で,本研究をまとめ,今後の研究課題について述べる.

 以上のように,本論文はターボ符号に特有な問題を解決するために,ターボ符号の構造を一般化し,優れた特性を示すいくつかの新しい符号の構成法およびその軟判定入力/軟判定出力繰り返し復号法の提案と検討を行ったものであり,電子情報通信工学に寄与するところが大きい.

 よって,本論文は博士(工学)の学位論文審査として合格と認められる.

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