本論文はポストATMネットワークアーキテクチャと題し、最近まで活発に研究されてきたATM交換技術を基本とした通信ネットワークの次世代のネットワークについての考え方のひとつの方向を論じたものであって全9章から成る。 第1章は「はじめに」と題する本論文の序論である。ATM方式は大容量交換方式として開発され、マルチメディアトラヒックを透過的に扱う能力があるが、同時にマルチメディアの各トラヒックに対して必ずしも最適ではないとし、マルチメディアの各トラヒックに対してより適切なスイッチを形成する必要があることを述べている。 第2章は「交換技術、マルチメディア通信技術に関する従来の研究」と題し、交換技術特に各種の大容量の交換通信路形成に関する従来の研究について整理している。高速信号の交換のためにはバッファの扱いが重要であるとし、特に交換能力を大容量化するためには各種の多段構成と、多段化に伴う損失率の増大を防止するための従来の研究について述べている。 第3章は「ポストATMネットワークアーキテクチャ」と題し、従来のB-ISDNのようにすべての通信をひとつのスイッチファブリックによって扱うのではなく、多様なスイッチファブリックを組み合わせた複合形の交換ネットワークの優位性を述べている。この中で高速大容量パケットスイッチと高性能ビデオスイッチについて研究することが述べられている。 第4章は「高速大容量可変長パケットスイッチング方式の検討」と題し、ATMに見られるような固定長セルによる交換に対して、可変長による大容量交換方式が実現できる可能性を示している。インタネットのパケットに見られるような可変長パケットをそのまま扱う場合と、ATMセルに分割して扱う場合につき比較し、ATMセルに分割することはセル損失、セル遅延の点から不利であることを示している。さらに可変長パケットを扱うパケットスイッチにつき、パケット損失率を小さくしながら、大容量化を実現するための各種の方法について述べている。 第5章は「Ring Banyan網の提案」と題し、パケット損失率を低く保ちながら、大規模な多段パケット交換ネットワークを形成する新しい方式について提案している。この方式では多段のバニヤンスイッチをリング上に配置し、パケットを転送できないときには、他の経路に転送し、これを次のバニヤンスイッチで正しい経路に戻すものであり、4段程度のスイッチで大幅な改善が可能になる。 第6章は「可変長パケット用共通バッファスイッチ」と題し、スイッチファブリックの基本となる共通バッファ形スイッチの基本的ハードウェア構成について論ずると共にゲートアレイによる実装について述べ、このようなスイッチが実現可能であることを確認している。 第7章は「高性能ビデオスイッチに関する検討」と題し、MPEG2に代表される可変長ビットレートの信号を扱うことができる新規な時分割多重交換の原理を拡張した交換方式について提案し、その性能を評価している。この方式は時分割のフレーム構成をビットレートの変化に応じてダイナミックに変化しながら時分割交換を行う方式であり、従来の交換方式にない融通性を実現するものである。 第8章は「ポストATMネットワーク・アクセス網の検討」と題し、このような複合交換網とその加入者を接続する大容量アクセス網について検討している。アクセス網としてはスター形とループ形が検討され、各種のトラヒックは多重化されて加入者側から交換網に与えられる。 第9章は「まとめと今後の課題」と題し、研究を統括すると共に残された課題を整理している。 以上本論文はマルチメディア時代の交換ネットワークの構成として、従来の研究の枠組みを越えて新たな考え方を示し、その中で可変長パケット交換と可変ビットレート交換の新規な方法を提案し、その有効性を示したものであって、電子情報工学上貢献することが少なくない。よって本論文は東京大学大学院工学系研究科電子情報工学科専攻における博士(工学)の論文審査に合格と認められる。 |