No | 113417 | |
著者(漢字) | 内一,哲哉 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ウチモト,テツヤ | |
標題(和) | 高温超電導体とトカマクプラズマとの電磁相互作用 | |
標題(洋) | Electromagnetic Interaction between High Tc Superconductors and Tokamak Plasmas | |
報告番号 | 113417 | |
報告番号 | 甲13417 | |
学位授与日 | 1998.03.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4135号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年発展の目覚しい高温超電導体は、低温超電導体に比べ高温での使用が可能なことから、冷却が容易であること、熱的に安定であること等の特長を有する。このことから、従来の低温超電導材では不可能とされていた様々な応用が、高温超電導体により実現可能となり、その工学的応用は多岐に渡って考えられている。一方核融合研究に於いては、高温超電導体の応用は現在のところ、電流リードとしての使用が一部検討されているに過ぎない。確かに、高温超電導体の核融合炉応用を低温超電導体にて既に適用されている磁場コイル、電流リード等の枠内で考えれば、その魅力はあまり大きいものではない。しかし、高温超電導体の特長を勘案してその適用を図れば、従来の低温超電導体の用途とは違った応用が考えられ、核融合炉における高度な電磁場制御が可能になると期待される。 本研究では、高温超電導体およびプラズマの電磁的相互作用を明らかにし、それに基き磁気閉込め方式核融合炉に対する高温超電導体の応用を検討する。プラズマと高温超電導体の電磁相互作用という観点から、具体的な応用として、(1)高温超電導体によるプラズマ位置不安定性の改善、(2)高温超電導体によるトロイダル磁場リップルの抑制、の2点について改善策を提案する。いずれも、これまでに検討されたことのない新しい超電導体の応用であり、従来の低温超電導体では実現不可能なものである。これらは、現在設計が進められている国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor:ITER)の体系に対してその有効性から工学的な適用可能性までを検討する。さらに、高温超電導体を用いたコンパクトなトカマク炉を設計し、高温超電導体応用による核融合炉の性能向上への効果を明示する。 第1章においては以上のような研究背景・目的と本論文の概要が述べられ、さらには最近の高温超電導体の開発及び応用の現状について概観している。 第2章においては、高温超電導体による電磁力の力学的安定性に着目し、プラズマ及び高温超電導体の相互作用について議論した。MHD的に不安定なプラズマの常電導体に対する応答には、Alfven時間及び導体の電気的時定数で特徴づけられる二つの時定数が存在し、前者の時間スケールでは安定、後者では不安定であることが知られている。また、完全導体を考えた場合には、Alfven時間に基づく時定数のみが存在し、系は安定限界である。そこで、高温電導体・プラズマからなる系を考え、プラズマの応答を単純化したモデルにより評価したところ、Alfven時間及び超電導体の電気的時定数、いずれの時間スケールについても安定であることが分かり、高温超電導体によるプラズマ不安定性改善の理論的可能性が示された。 第3章においては、高温超電導体によるプラズマ位置不安定性の改善に関する有効性、及びその炉工学的適用性を、図1に示されるITER工学設計体系を例に取り上げ検討を行った。修正インダクタンス法に基づくプラズマの動的平衡計算及び磁束フロー・クリープモデルに基づく超電導遮蔽電流計算の連成解析を実施した。その結果、図1に示される様に高温超電導コイルを配置した場合、ITERの設計において想定される最も深刻な擾乱(p=-0.2,li=-0.1)を加えたとしても、プラズマセパラトリクス上の参照点の動きは図2の通り最大22cm程度に抑えられ、プラズマは高温超電導体により充分安定化されていることが確認された。また、高温超電導体に働く電磁力、核発熱量等の評価を行ない、高温超電導体の適用可能性について検討を行なった結果、現在製造可能な高温超電導線材を使用したとしても電磁力、核発熱による超電導特性の劣化は問題にならないことが確認された。以上より、高温超電導体によるプラズマ不安定性改善は可能であることが検証され、且つ現在開発されている高温超電導線材を大型トカマクプラズマの安定化に適用することは十分可能であるとの結論を得た。 第4章では、第3章での既存の設計体系を仮定した議論に対し、高温超電導体を適用した炉を新たに考え、高温超電導体の応用が如何に炉の性能向上につながるかについて議論した。高温超電導体によるプラズマ位置安定化手法を適用すれば、高非円形度のプラズマ配位が可能となり、高い閉込め性能と炉の小型化を図ることが出来る。さらに、高温超電導体により従来のプラズマ制御機構を簡素化することが可能となる。以上の点を基本概念に据えたトカマク炉の炉心設計を行なった結果、表1に示されるパラメータの炉が設計可能であることが確認された。現在設計が行われているITERと比較して、炉の性能については遜色のない非常に小型な炉であることが分かる。以上の成果は炉の経済性の向上につながるものと考えられる。 第5章においては、高温超電導体の他の核融合炉応用として、トロイダル磁場リップル抑制手法を提案し、その有効性を検証した。これはプラズマ閉込めに悪影響を及ぼすトロイダルコイルの非軸対称漏洩磁場を超電導体の反磁性を応用して整形するものである。ITERの工学設計を例として取りあげ、高温超電導バルク集合体を図3に示される様に配置した場合のリップル抑制効果を数値解析により調べた。その結果、図4のリップル値等高線に示される様に、高温超電導バルク集合体を配置することによりリップルは大幅に改善され、設計許容値を満たすことが示された。 最後に、本論文の結論が第6章にまとめられている。本研究によって得られた重要な結論をまとめると次のようになる。 1.高温超電導体が存在する場合のプラズマの電磁的応答をモデル解析により求めた結果、高温超電導体によりプラズマの位置不安定性を改善できることが理論的に示された。 2.上記手法を大型炉体系に適用した場合の有効性及び炉工学的適用性について検討した結果、高温超電導体によりプラズマは充分安定化することが検証され、且つ現在開発されている高温超電導線材を大型トカマクプラズマの安定化に適用することは可能であるとの結論を得た。 3.高温超電導体によるプラズマ安定化手法を適用した高非円形小型トカマク炉の設計を行った。その結果、高温超電導体の適用以外に先進技術を仮定せずとも、炉心性能の向上が期待でき、自己点火可能な小型炉が可能であることが示された。 4.高温超電導体によるトカマク炉の炉内磁場整形手法を提案し、その有効性を大型炉体系にて数値解析により検証した。 | |
審査要旨 | 本論文は、高温超電導体およびプラズマの電磁的相互作用を明らかにし、それに基き磁気閉込め方式核融合炉に対する高温超電導体の適用可能性について研究したものである。具体的な応用として、プラズマと高温超電導体の電磁相互作用という観点から、(1)高温超電導体によるプラズマ位置不安定性の改善、(2)高温超電導体によるトロイダル磁場リップルの抑制、の2点について種々検討し改善策が提案されている。いずれも、これまでに検討されたことのない新しい超電導体の応用であり、従来の低温超電導体では実現不可能なものである。これらは、現在設計が進められている国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor:ITER)の体系に対してその有効性を確かめ更に工学的な適用可能性までを検討している。これから得られる知見を基礎に、高温超電導体を用いたコンパクトなトカマク炉を設計し、高温超電導体応用による核融合炉の性能向上への効果が明示されている。本論文の構成は以下の通りである。 第1章においては以上のような研究背景・目的と本論文の概要が述べられ、さらには最近の高温超電導体の開発及び応用の現状について概観している。 第2章においては、高温超電導体による電磁力の力学的安定性に着目し、プラズマ及び高温超電導体の相互作用について議論している。MHD的に不安定なプラズマの常電導体に対する応答には、Alfven時間及び導体の電気的時定数で特徴づけられる二つの時定数が存在し、前者の時間スケールでは安定、後者では不安定であることが知られている。また、完全導体を考えた場合には、Alfven時間に基づく時定数のみが存在し、系は安定限界である。そこで、高温電導体・プラズマからなる系を考え、プラズマの応答を単純化したモデルにより評価したところ、Alfven時間及び超電導体の電気的時定数、いずれの時間スケールについても安定であることが解明され、高温超電導体によるプラズマ不安定性改善の可能性が理論的に示されている。 第3章においては、高温超電導体によるプラズマ位置不安定性の改善に関する有効性、及びその炉工学的適用性を、ITER工学設計体系を例に取り上げ検討を行っている。修正インダクタンス法に基づくプラズマの動的平衡計算及び磁束フロー・クリープモデルに基づく超電導遮蔽電流計算の連成解析を実施している。その結果、高温超電導コイルをブランケットのバックプレート外側に配置した場合、ITERの設計において想定される最も深刻な擾乱を加えたとしても、プラズマは高温超電導体により充分安定化されている。また、高温超電導体に働く電磁力、核発熱量等の評価も行なわれ、高温超電導体の適用可能性について広く検討している。その結果、現在製造可能な高温超電導線材を使用したとしても電磁力、核発熱による超電導特性の劣化は問題にならないことが示されている。以上より、高温超電導体によるプラズマ不安定性改善は可能であることが検証され、且つ現在開発されている高温超電導線材を大型トカマクプラズマの安定化に適用することは十分可能であるとの結論を得ている。 第4章では、第3章での既存の設計体系を仮定した議論に対し、高温超電導体を適用した炉を新たに考え、高温超電導体の応用が如何に炉の性能向上につながるかについて検討されている。高温超電導体の適用により可能となる高非円形度のプラズマ配位を採用すれば、高い閉込め性能と炉の小型化を図ることが可能となる。さらに、高温超電導体により従来のプラズマ制御機構を簡素化することが可能となる。以上の点を基本概念に据えたトカマク炉の炉心設計を行なった結果、現在設計が行われているITERと比較して、炉の性能については遜色のない非常に小型な自己点火炉が可能であることが示されている。以上の成果は炉の経済性向上に資するものと高く評価される。 第5章においては、高温超電導体の他の核融合炉応用として、トロイダル磁場リップル抑制手法を提案し、その有効性が検証されている。これはプラズマ閉込めに悪影響を及ぼすトロイダルコイルの非軸対称漏洩磁場を超電導体の反磁性を応用して整形するものである。ITERの工学設計を例として取りあげ、高温超電導バルク集合体を配置した場合のリップル抑制効果を数値解析により調べている。その結果、高温超電導バルク集合体を配置することによりリップルは大幅に改善され、設計許容値を満たすことが示されている。 第6章は結論であり、本論文で得られた知見についてまとめられている。 以上の成果は、高温超電導体とトカマクプラズマの電磁相互作用を解明し、さらに高温超電導体をトカマク炉へ応用することを提案しその有効性を検証したものとして、高く評価されるものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54009 |