本論文は超臨界圧水を冷却材として用いる発電用原子炉の安全解析について記述したものである。論文は7章より構成されている。 第1章は序でありまず超臨界圧水を原子炉の冷却に用いると相変化がないので気水分離や再循環が不要で小型化と性能向上が期待できることが述べられている。過去の研究では過渡事象発生時の超臨界下での伝熱劣化の防止を熱設計の条件として用いていたが、亜臨界圧のバーンアウトほど激しい現象でないため合理化の余地があると述べている。研究の目的は超臨界圧水冷却炉の安全上の特性を解析により検討するとともに伝熱劣化の防止にかわる合理的な過渡事象判断基準を開発することであると述べている。 第2章は超臨界圧軽水冷却炉の事故事象と過渡事象を列挙し、その判断基準について述べている。次に安全確保の方針、安全保護系と補助系の設計と設定値について記述し、伝熱劣化を考慮する従来の過渡解析基準で解析を行っている。 給水加熱喪失事象はBWRような再循環水と給水の混合がないのでより厳しくなること、一方負荷喪失事象は超臨界圧下では加圧時の冷却水密度上昇が大きくないこと、貫流型のこの原子炉では冷却水が停滞し、燃料からの伝熱で冷却水密度が下がるため出力上昇が抑えられることによりBWRほど厳しくならないとしている。外部電源喪失時には伝熱劣化を防止するためには主給水ポンプにフライホイールをつけコーストダウン時間を10秒とする必要があるとしている。 第3章は超臨界圧水の熱伝達率をk-モデルを用いた乱流数値解析により求めテーブル化している。これを用いると伝熱劣化後も被覆管温度を評価できるとしている。さらに計算結果を整理して熱伝達相関式を提案している。 第4章は燃料棒の設計について述べている。燃料被覆管に座屈、クリープ破壊、過圧破損、PCI破損をおこさせないこととし、過渡事象時の健全性を考察し、超臨界圧軽水冷却炉の設計条件では座屈と設計応力比の基準が支配的であるとしている。具体的には過渡事象判断基準として肉厚0.52mmのステンレス被覆管とニッケル合金被覆管についてそれぞれ610℃以下、840℃以下を導きだしている。 第5章は超臨界圧軽水冷却炉過渡解析コード、SPRAT-Fの開発について述べている。まず、給水ポンプ、蒸気加減弁、原子炉停止系、補助給水系等の特性について記述し、次に解析コードの概要、計算手順、その検証について述べている。 第6章は超臨界圧軽水冷却高速炉の事故、過渡事象の解析結果を述べている。外部電源喪失時には伝熱劣化は生じるが、最高被覆管温度は536℃と上記の判断基準を満たしているとしている。これにより主給水ポンプのフライホイールは不要になり、補助給水系の容量も合理化されるとしている。またニッケル合金被覆を用いる高温の高速炉心についても解析を行いあまり冷却水密度係数が小さい炉心では冷却材流量の全喪失事象が厳しくなり、密度係数がBWR程度の炉心では給水加熱喪失事象が厳しくなることを示している。 第7章は結論で本研究の総括を述べるとともに、伝熱劣化防止を条件とはしない過渡事象判断基準が作られたことにより、冷却水流量を低減し、エンタルピ上昇の大きい炉心を設計できるようになり、プラントの高温化と合理化が可能になると述べている。 以上を要するに本論文は超臨界圧軽水冷却炉の安全解析を行い、その特徴を明らかにするとともに、合理化された過渡事象判断基準を作成している。これらの成果はシステム工学、特に原子炉設計工学に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |