本論文では、地球環境問題である地球温暖化防止における二酸化炭素削減のための方策に関して検討を行なったものである。すなわち、持続可能性を脅かす貧富の格差を縮小し、なおかつ地球温暖化に対する環境改善を行なう国際的な枠組として、環境比較優位に基づく産業再配置と共同実施活動とといった方策を提案し、このような方策に関して比較分析を行なったものである。 まず第1章では、地球温暖化における温室効果ガスの特徴とそのガスのもっている地球温暖化指数などを紹介している。 第2章では、地域別人口と化石燃料消費量の推移等に関して文献調査を行ない、環境改善のための国際的な枠組において地域問題と平等性の仮定と二酸化炭素許容排出量及び評価基準と公平の仮定などについて既存の理論を踏まえて整理している。また、環境規制に関する経済学的な考察を行なっている。環境規制の経済理論であるビグ的最適公害税金、汚染排出権去来制度、政策手段の選択問題、環境規制の経済的影響などに関して従来の研究として紹介を行なっている。 第3章では、二酸化炭素排出量の推計手法を開発し、それに従って、一国における二酸化炭素排出量を推計し、削減の方策を考察している。しかし、一国だけの対策では、積極的な方策の投入が考え難く、つまり、規制されたものに関しては外国から輸入してしまい、その分外国で排出してしまう可能性があることを結果として示している。 第4章では、二酸化炭素の問題は全地球的な問題であると考え、具体的には、これに関わる二カ国間のGNPと雇用に与える影響を最小限度に留めた上で、CO2排出量を削減できるような両国の産業構造を明らかにしている。さらに、南北問題も同時に解決できることに着目して理論展開をしている。したがって、ここでは環境比較優位の概念を考え、付加価値あたりの二酸化炭素排出が相対的に少ない部門(環境比較優位部門)に生産を特化し、これと反対の環境比較劣位部門については、専ら相手国からの輸入に頼ることにより、国際的に二酸化炭素排出の少ない産業再配置を実現することができるとの示唆を得ている。 第5章では、地球環境改善を目指すもう一つの戦略である共同実施活動(AIJ)に関して分析を行なっている。これに関しては経済的に温室効果ガスを削減するためだけでなく、先進国から途上国への技術移転を促進し、南北格差を是正すると言う点からも期待の大きい方策であることに着目し、ゲーム理論を用いて日中の実データを使い共同実施活動の可能性などを評価している。 第6章では、第4章と5章の方策の特徴を踏まえた上で、両者を融合した望ましい方策の考案を行なっている。これを本論文では融合方策と呼んでいる。この融合方策を分析する為、動学分析をおこなっている。その結果、融合方策では、上述した環境比較優位の静学分析の結果と共同実施のゲーム分析の結果を考慮し、拡張された共同実施ゲームの均衡点まで、資本援助がおこなわれるものとした前提の下に、2010年までのCO2発生量の推移を算定した結果、融合方策がより優れた対策であることが示唆されている。 第7章では、全体のまとめとして第2章、3章、4章、5章、6章の結果が要約されており、また、本論文の成果と今後の課題について述べている。 以上の論旨により、本論文では現在、地球温暖化問題の解決においてネックになっている南北問題の格差と協力に関する困難な問題に着目して、環境比較優位と融合方策といった方策を提案し、それぞれの方策に関して詳細に解析を行なっており、日本と中国をモデルとして取り上げ実際の政策としての実現可能性を分析するなど、一定の成果を上げており、地球システム工学の発展に寄与するものと認められる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |