本論文はチタン含有モレキュラーシーブの新しい合成法の開発と酸化反応への応用に関する研究をまとめたものである。 第一章では、Ti含有モレキュラーシーブの合成、酸化反応への応用について従来の知見をまとめるとともに本研究の目的が述べられている。 第二章では、ナイロン-6の原料であるシクロヘキサノンオキシムの、より環境負荷の少ない合成プロセスを開発するための基礎研究として、粒子径とSi/Ti比を異なるチタノシリケートTS-1(5.5Å程度の細孔径を持つ)を触媒として環状ケトン類のアンモキシメーション反応を行われている。反応活性を制御する因子、拡散の影響と反応サイトについて検討が行われ、反応がTS-1細孔中で進行すること、反応が基質のサイズの違いにより触媒細孔内への拡散の影響を受けること、粒子径が0.3mより小さい場合、酸化活性は骨格中のTiの量により支配されるが、粒子径がそれより大きくなると拡散が反応活性を支配することを見いだしている。 第三章では、ミディアムポアのTS-1で反応しにくい大きな分子の酸化を行うため、新しいラージポアのゼオライトの合成について検討している。これまでに報告例がない12員環細孔のゼオライトSAPO-37の骨格中にTiを導入したTAPSO-37の合成に成功した。TAPSO-37ではTiが骨格中に孤立した、四配位状態で存在し、SAPO-37と同様に熱安定性が高く、水に対する安定性が低いことを明らかにしている。 第四章では、12員環細孔を持つTi-betaが水熱合成(HTS)法による合成では収率が低いという欠点を克服するため、新しい合成法を探索し、ドライゲルコンバーション(DGC)法を開発した。原料比、Si源、Al源と昇温パターンなどを変えることにより、骨格にTiを導入したTi-betaを高収率で得ることに成功した。 第五章では、DGC法で合成したTi-betaの酸化活性、溶媒効果について詳しく検討を行い、TS-1では酸化されにくい、かさ高い環状アルケン、アルコール、アルカンの過酸化水素酸化に高活性を示すこと、TS-1の場合と同じくプロトン性溶媒メタノールを用いた時に高活性を示すことを見いだしている。 第六章では、DGC法で合成したTi-betaと従来の水熱合成法(HTS)で合成したTi-betaの物性の差異と酸化活性にあたえる影響について詳細な検討を行っている。DGC法で合成したTi-betaの粒子径が20-30nmと小さく、疎水性であることが明らかにされている。DGC法で合成したTi-betaは、シクロアルカンの酸化反応において活性ならびに過酸化水素の選択率がHTS法で合成したTi-betaより高いことを見い出し、Ti-betaがより疎水性になったために、疎水的なシクロヘキサンの吸着、配位が容易になったためと結論づけている。 以上のように、本論文は、チタン含有モレキュラーシーブの触媒としての可能性を拡げ、高酸化活性なゼオライト物質設計における基本概念、新しいゼオライトの合成と開発方法を提案したものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |