学位論文要旨



No 113448
著者(漢字) ジァッパル,ニザミディン
著者(英字) Jappar,Nizamidin
著者(カナ) ジァッパル,ニザミディン
標題(和) Ti含有モレキュラーシーブの新しい合成法の開発と酸化反応への応用に関する研究
標題(洋) A study on selective oxidation propersity of Ti-containing molecule sieves synthesized by anovel method
報告番号 113448
報告番号 甲13448
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4166号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 辰巳,敬
 東京大学 教授 御園生,誠
 東京大学 教授 藤元,薫
 東京大学 教授 篠田,純雄
 東京大学 助教授 水野,哲孝
内容要旨

 ゼオライトのシリカ骨格の一部のSiをAl以外の金属原子で同型置換したメタロシリケートにおいては、骨格中のこれらの金属は≡SiOによって囲まれ高度に孤立化していることからユニークな触媒特性を示す。中でもTi,Vを骨格に含むと考えられるメタロシリケートは液相酸化反応に高い活性を有することが見いだされ、活発な研究が続いている。本研究ではナイロン-6の原料であるシクロヘキサノンオキシムのより環境負荷の少ない合成プロセスを開発するための基礎研究として、TS-1を触媒として環状ケトン類のアンモキシメーション反応を行い、反応制御因子、拡散の影響と反応サイトについて検討を行った。さらに、ミディアムポアを持つTS-1はかさ高な分子の反応には使用できないため、ラージポアゼオライトの合成について検討した。これまでに報告例がない12員環細孔のゼオライトSAPO-37の骨格中にTiを導入するための合成条件を検討し、キャラクタリゼーションを行った。また、Ti-betaの水熱合成(HTS)法による合成では収率が低いという欠点を補うため、新しい合成法の開発を目指してドライゲルコンバーション(DGC)法によるTi-beta合成の条件の検討を行い、生成ゼオライトの水熱合成法によるものと物性の差異を調べた。

1.TS-1を触媒とした環状ケトンのアンモキシメーション反応における反応支配因子

 TS-1を触媒に用い、分子サイズが異なる環状ケトン類のアンモキシメーション反応を行ったところ、反応が細孔内で進行すること、反応速度が基質の触媒細孔内への拡散により影響うけることが明らかになった。

 骨格内に導入されたTiの量を評価するために、TS-1の骨格内Tiに帰属される960cm-1の吸収強度とペンタシル構造に特有の骨格振動に基づく550cm-1の吸収強度の比(I960/550)を用いた。Ti濃度の尺度としての各サンプルのI960/I550比とシクロヘキサノンオキシム収率の関係をFig.1に示す。サンプル(1)から(5)まで、オキシムの収率はI960/I550比に比例した。SEM写真観察によるとサンプル(1)-(5)の平均結晶子径は0.1-0.3mで、サンプル(6)、(7)、(8)のはそれぞれ0.3-0.5m、1.5-3.0m、>5.0mであった。この結果から結晶子径が<0.3mの場合、酸化活性は骨格中のTiの量により支配されることが分かった。r2/D(r:結晶半径、D:拡散係数)に比例するパラメーターt0.3を8種のTS-1について測定し、アンモキシメーションのターンオーバーナンバー(TON)との関係をFig.2にプロットした。t0.3が小さいサンプルを触媒に用いた場合、t0.3とTONとの間には明瞭な相関は見られなかった。拡散による支配をうけていないものと考えられる。t0.3が大きい(>180s)サンプルを触媒に用いた場合、t0.3の増加にともなってTONは減少した。このことから結晶子径が0.3m以上の場合シクロヘキサノンもしくはそのオキシムの拡散が反応速度を支配することが分かった。

Fig.1 Relationship between oxime yield and I960/I550Fig.2 Relationship between t0.3 and activity in ammoximation of cyclohexanone
2.TAPSO-37の合成とキャラクタリゼーヨン

 TAPSO-37構造をアエロジルシリカとTi(OBu)4を原料として合成することに成功した。600℃で2時間酸素中で焼成し、型剤を除去したTAPSO-37とSAPO-37のXRDはFAU構造を示し、その強度は焼成前のサンプルより僅かに高くなった(Fig.3)。シリカ源としてコロイダルシリカやSi(OEt)4を用いると、結晶化度とチタン導入量は低くなった。UVスペクトルによりチタンの存在状態を調べた。アエロジルシリカとTEOSを用いな場合、骨格内に孤立した、四配位のチタンに帰属される220-230nmの吸収を示した。コロイダルシリカをシリカ源に用いた場合、骨格外のチタンによる270-310nmの吸収が現れた。これはコロイダルシリカ中のNaの影響によるものと考えられる。型剤が除去されたTAPSO-37はSAPO-37と同様に熱安定性は高いが、水分に対する安定性が低いことが分かった。

Fig.3 XRD patterns of TAPSO-37 and SAPO-37
3.Ti-betaの新しい合成法、キャラクタリゼショーンおよび酸化反応への応用

 原料比、Si源、Al源と昇温パターンなどを変えることにより、骨格にTiを導入したTi-betaのDGC合成法を確立した。HTS法で合成したTi-betaゼオライトの収率はシリカベースでほぼ15%であるのに対して、DGC法では95%に達した。Ti-betaのUVスペクトルは骨格中に孤立した四配位チタンに帰属される205-230nmのピークを示した。DGC法Ti-betaの粒子径は20-30nmで、HTSで合成したTi-betaの粒子径200-400nmに比べて非常に小さかった。DGC法で合成したTi-betaの吸着水は12-13%であったのに対し、HTS法で合成したTi-betaでは19%に達した。DGC法でより疎水的なTi-betaが合成されたと言える。IRスペクトルからも同様なことが確認された。

 Ti-betaの水熱合成ではアルカリ金属イオンがあるとゼオライトの結晶性が低下するという問題点があるが、DGC法ではNaがないと結晶は得られない。従って少量のNaの存在が核形成に促進効果を示す一方で、Tiのゼオライト骨格への挿入には影響を及ぼさないものと言える。シクロヘキサンの酸化反応を行った結果をTable1に示す。DGC法で合成したTi-betaを触媒に用いたところ、シクロヘキサンの転化率、TONはHTS法で合成したTi-betaを触媒に用いた場合より高くなった。DGC法のTi-betaを硫酸で洗浄することによりAlとNaの量は大きく減少しTiの量が若干減少したが、TONは向上した。TS1ではNaの量が増えると活性が低下するとの報告があり、DGC法のTi-betaでも同じ傾向があることが確認されたが、Naが1mol%程度では活性に対する著しい効果は見られなかった。過酸化水素の選択率もDGC法で合成したTi-betaの方が高くなった。これはTi-betaがより疎水性になったため、シクロヘキサンの吸着、配位が容易になり、過酸化水素の非生産的な分解が抑制出来たものと考えられる。

Table 1. Oxidation of cyclohexane with H2O2 on Ti-betaa
審査要旨

 本論文はチタン含有モレキュラーシーブの新しい合成法の開発と酸化反応への応用に関する研究をまとめたものである。

 第一章では、Ti含有モレキュラーシーブの合成、酸化反応への応用について従来の知見をまとめるとともに本研究の目的が述べられている。

 第二章では、ナイロン-6の原料であるシクロヘキサノンオキシムの、より環境負荷の少ない合成プロセスを開発するための基礎研究として、粒子径とSi/Ti比を異なるチタノシリケートTS-1(5.5Å程度の細孔径を持つ)を触媒として環状ケトン類のアンモキシメーション反応を行われている。反応活性を制御する因子、拡散の影響と反応サイトについて検討が行われ、反応がTS-1細孔中で進行すること、反応が基質のサイズの違いにより触媒細孔内への拡散の影響を受けること、粒子径が0.3mより小さい場合、酸化活性は骨格中のTiの量により支配されるが、粒子径がそれより大きくなると拡散が反応活性を支配することを見いだしている。

 第三章では、ミディアムポアのTS-1で反応しにくい大きな分子の酸化を行うため、新しいラージポアのゼオライトの合成について検討している。これまでに報告例がない12員環細孔のゼオライトSAPO-37の骨格中にTiを導入したTAPSO-37の合成に成功した。TAPSO-37ではTiが骨格中に孤立した、四配位状態で存在し、SAPO-37と同様に熱安定性が高く、水に対する安定性が低いことを明らかにしている。

 第四章では、12員環細孔を持つTi-betaが水熱合成(HTS)法による合成では収率が低いという欠点を克服するため、新しい合成法を探索し、ドライゲルコンバーション(DGC)法を開発した。原料比、Si源、Al源と昇温パターンなどを変えることにより、骨格にTiを導入したTi-betaを高収率で得ることに成功した。

 第五章では、DGC法で合成したTi-betaの酸化活性、溶媒効果について詳しく検討を行い、TS-1では酸化されにくい、かさ高い環状アルケン、アルコール、アルカンの過酸化水素酸化に高活性を示すこと、TS-1の場合と同じくプロトン性溶媒メタノールを用いた時に高活性を示すことを見いだしている。

 第六章では、DGC法で合成したTi-betaと従来の水熱合成法(HTS)で合成したTi-betaの物性の差異と酸化活性にあたえる影響について詳細な検討を行っている。DGC法で合成したTi-betaの粒子径が20-30nmと小さく、疎水性であることが明らかにされている。DGC法で合成したTi-betaは、シクロアルカンの酸化反応において活性ならびに過酸化水素の選択率がHTS法で合成したTi-betaより高いことを見い出し、Ti-betaがより疎水性になったために、疎水的なシクロヘキサンの吸着、配位が容易になったためと結論づけている。

 以上のように、本論文は、チタン含有モレキュラーシーブの触媒としての可能性を拡げ、高酸化活性なゼオライト物質設計における基本概念、新しいゼオライトの合成と開発方法を提案したものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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