審査要旨 | | 本論文は「自動化設備におけるチョコ停の防止に関する研究」と題し,全6章から成っている.近年,品質向上,生産性向上,コストダウンなどの要請に伴い,自動化生産や無人運転を目指して,製造現場に自動化設備が数多く導入されている.ところが,作業員が介在すれば短時間に復帰可能ではあるが設備が一時的に停止する「チョコ停」が,自動化・無人化運転のねらいを阻害する大きな問題となっている.チョコ停は小さな問題に見えるが,実は経営の立場からは大きな問題であり,これまで製造現場において熱心に改善が行われてきた.しかし,これらの改善を通じて得られた知識は個々の事例にとどまっており,他の自動化設備におけるチョコ停低減に再利用できる形に一般化されていないのが現状である.本論文は個々のチョコ停改善事例から本質を抽出し,これらをチョコ停防止に関する構造化された"知識"とすることを試みたものである. 第1章は序章で,チョコ停という問題の背景,チョコ停の定義,チョコ停防止におけるこれまでの取り組みの問題を整理し,この課題をどうとらえるべきかを論じている.また,様々な自動化設備で起きたチョコ停の個別改善事例で得られた知見を再利用可能な知識として構造化するために,チョコ停の発生メカニズムおよびチョコ停対策に関わる一般的知識となるように分類・整理するという,本論文において採用した研究方法について述べている. 第2章では,チョコ停改善事例約330件を発生メカニズムの類型という観点で分折し,経験を再利用可能な一般的知識とする方法について論じている.その結果,まずチョコ停の"現象"を,自動化設備が持つ「方向姿勢決め」「分離」「移動」[加工」「組立」「計測・検査」という6つの作業機能に着目して一般化することができることを示している.次に,チョコ停の"原因"を,「ワーク」「位置姿勢保持部」「作業端」「伝動部」「駆動部」「検出制御部」という6つの部位に着目して一般化することができることを示している.さらに,発生原因は,原因→作動条件の乖離→作業機能の失敗→作業機能の失敗の影響,という4つの連鎖によって"チョコ停の発生メカニズム"として一般化できることを導いている.そして,これら一般化したチョコ停の現象と原因を「一般化したチョコ停現象と原因の2元表」と「一般化したチョコ停の発生メカニズム」としてまとめている. 第3章では,第2章と同じ事例を用いて,個々の事例でとられた対策の本質を,チョコ停対策を立案する際に基本的なよりどころとなる考え方として一般化するための方法について論じている.その結果,「廃除」「仕様の適正化」「性能の復元」「異常の隔離」「原因の影響緩和」「作動条件の乖離の影響緩和」「作業機能の失敗の影響緩和」という7つのチョコ停対策の"原理"を導いている. 第4章においては,第2章および第3章で得られた知識を用いて,「既存設備におけるチョコ停の再発防止法」を提案している.すなわち,すでに稼働している設備においてチョコ停が問題となったとき,発生メカニズムが明確になっていないチョコ停原因を,「必要なデータの収集」「チョコ停現象の解析」「2元表に基づくチョコ停原因候補の列挙と絞り込み」の3つの方法で解明する手順を与えている.さらに,対策の案出のために,「対策の原理に基づくチョコ停再発防止対策の立案」「実施のための再発防止対策案の選定」の方法を提案している. 第5章では,「設備設計の段階におけるチョコ停の未然防止法」について論じている.第4章と同様の考え方で,一般化したチョコ停の発生メカニズムと対策の原理をふまえて,「設計中の設備部位で起きうるチョコ停の予測法」「予測したチョコ停の未然防止対策法」「対策の原理に基づくチョコ停未然防止対策の立案法」「実施のための未然防止対策案の選定法」を提案している. 第6章は,本研究を通じて得られた成果をまとめ,今後の展開の方向を示している. 以上要するに,本研究は,既存設備で起きた多数のチョコ停の個別改善事例に基づき,帰納法的なアプローチによって,チョコ停防止のための原因解析および対策のために有用な再利用可能な知識の構造化の一つの形態を提示するものであり,これまで断片的に行われてきたチョコ停への取り組みに新たな視点を与えるものである.本研究で得られた"知識"の実体は,研究対象とした自動化設備と類似の設備にはほとんどそのままの形で活用できるものと認められる.さらに,本研究が対象とした設備とは異なる特徴を有する設備,例えば化学的プロセスにおけるチョコ停や設備トラブルへの取り組みにおける方法論をも示唆するものであり,工学的に価値の高いものである. よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |