本論文は「異種半導体基板の常温接合とその半導体レーザへの応用」と題し、表面活性化による常温接合法を用いて、異種半導体材料間の常温接合に適用し、本手法の半導体集積化への適用可能性を検討することを目的で、表面活性化過程としてのAr-FAB(Faat Atom Beam)照射の異種半導体ウエハの表面に及ぼす影響、異種半導体ヘテロ接合の常温接合体の接合強度、異種半導体ヘテロ接合界面の高分解透過電子顕微鏡によって界面形成過程と界面構造、異種半導体ヘテロ接合わいての電流-電圧特性を調べた結果とGaAs系OEICの集積化の可能性を検討するためにGaAs基板とInP系レーザダイオードの常温接合を行い、フォトルミネセンス強度、半導体レーザと基板材料の電流-電気特性(I-V)、半導体レーザの電流-光特性(I-L)について調べた結果であり、十章から構成されている。 第一章は「緒論」であり、ここでは本研究の目的と意義を明確にしている。 第二章は「総論」であり、本研究に関する背景、ウエハ直接接合の動向について述べている。 第三章は「表面活性による常温接合」であり、表面活性化とは、常温接合の現状、表面活性化とイオン衝撃の効果について記述している。 第四章は「半導体レーザ」であり、半導体レーザの発振原理を述べている。 第五章は「実験の方法」であり、本研究に使用した材料、真空装置、実験方法を説明している。 第六章は「活性化による表面の影響」であり、Ar超高速原子ビーム照射による表面の影響、理論的な表面粗さのクライテリオンを説明している。実験により、表面活性化による常温接合での試料表面の活性化というのは、少なくとも試料表面の自然酸化膜の除去であり、今回のAr-FAB照射による表面の活性化にはシリコンの方は60sec、化合物半導体の方は30sec程度で十分であることが示されている。Ar-FAB照射による表面の粗さはある程度のAr-FAB照射は有効であるが、Ar-FAB照射時間とともに表面の粗さは増加し、特に、Ar-FAB照射によりInPでは、激しい表面になるということが示されている。 第七章は「接合体の強度および界面の観察」であり、超音波顕微鏡による接合界面のボイドの有無、接合体の引張強度、透過電子顕微鏡による界面での微細構造を観察、表面に働く力と接合メカニズムについて述べている。かなりの強度と奇麗な界面を持つこと、Si-GaAs,Si-InP,GaAs-InPの接合が常温で実現できることで、接合強度は引張強度で約10MPaであったこと、き裂は接合端から化合物半導体側へ進展し、脆性破壊したことを示している。接合界面では、SiとGaAsの接合の場合、Ar-FAB照射時間の依存性はなくボイドは観察できず2-3nm程度の中間層が存在することと一部分ではダイレクトな接合界面が形成していることと2-3nm程度のアモルファス層にはSi,O,Cが存在することを示している。また、SiとInPの接合の場合は、Ar-FAB照射時間の依存性はなくボイドは観察できず200-300nm程度厚さのアモルファス層が存在することを、InPとGaAsの接合の場合は、Ar-FAB300secの照射ではボイドは観察できずSiとInPの接合の場合と同様に300nm程度の中間層が存在することを示している。 第八章は「p-n接合の電流-電圧の特性」であり、表面活性化による常温接合法により接合したp-nヘテロ接合体の電流-電圧特性は順逆方向とも整流特性を示し、接合界面に電気的障害となるような高抵抗層はなく、界面を通して電流注入が可能であることを示している。 第九章は「半導体レーザへの応用」であり、表面活性化常温接合方法のOEICへの適用可能性を図ることで、ブロードエリア型レーザでの特性評価より、表面活性化による常温接合は電気的、光学的特性の劣化はないことと、InP基板上にMOCVDにより結晶成長したレーザのしきい値電流密度と等しいことが示している。 第十章は「結論と展望」であり、本研究の結論と表面活性化による常温接合方法の応用面について述べている。 以上をまとめると、本論文では、従来の熱処理(1000℃以上)の高温での接合とは違って、表面活性化常温接合(SAB)は、接合に必要なエネルギーのうち、結合にかかわらない部分をなるべく物理的な表面活性化処理によって代替することで、接合時のエネルギーを低減しようとするものであり、異種半導体基板の直接接合法として世界初の研究で、光電子集積回路のモノリシック製作に有効になると思われる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |