本研究は生物活性を有する複素環式化合物の合成に関するものであり4章からなる。 著者は、興味深い生物活性と特異な構造を有する複素環式化合物について生物学的、化学的に大きく貢献できると考え合成研究を行った。 まず第1章において、N-アルキル置換基を有するフェナジノン系化合物の構築法の開発に関する研究について述べている。 2,3のように複雑な側鎖を有する化合物にも対応出来る一般的な方法を確立するべく、以下の検討を行なった。 再現性、汎用性がある、反応系内で発生させたアリルトリフラートをアルキル化剤に用いる方法(A法)、高圧下(15kbar)でハロゲン化アリルをアルキル化剤に用いる方法(B法)の二法で天然物の合成を行うことにした。なお分子軌道計算を行った結果、実験結果と同様に5位窒素に選択的にアルキル化が進行することが示唆された。 第2章において抗腫瘍活性、酵素(テストステロン5-レダクターゼ)阻害活性を有するlavanducyanin(WS-9659A、ハマトシアニン)の全合成について述べている。 図示の経路により調製した側鎖を用いてA法、B法で反応を行いそれぞれ2工程8.4%、3工程30%の収率で初めてlavanducyanin(2)を得ることが出来た。 第3章において抗腫瘍性抗生物質であるphenazinomycinのラセミ体、両鏡像体の全合成について述べている。酵母還元によって得たヒドロキシケトン8(97.3%ee)を出発原料として21工程でアルコール9へと導いた。臭素化、高圧反応により天然体phenazinomycin(3)をアルコールから収率20%で合成した。同様にしてent-3を3工程20%で、rac-3を3工程35%で合成した。 こうして得られた一連のフェナジノン系化合物は、現在生物活性試験を行なっている最中である。 第4章においてスクアレンシンターゼ阻害活性、およびタンパク質ファルネシルトランスフェラーゼ阻害活性を有するzaragozic acids/squalestatinsの新規骨格構築法の開発に関する研究について述べている。 そこで著者はこれまでなされていない、分子の対称性を活かすとともに、類縁体の合成に適した骨格構築法を開発することを目的として実験を行った。 アドニトールから位置および立体選択性を高度に制御しつつ鍵中間体14を得た。脱ベンジリデンをルイス酸存在下エタンチオールでアセタール交換で行った後、減圧下で反応を行うことにより鍵となるアセタール化物(16および17)を得ることが出来、現在骨格合成の検討を行っているところである。 以上本論文は、N-アルキル置換基を有するフェナジノン系化合物の一般的な手法を確立し各種天然物および誘導体の合成を初めて成功するとともに、zaragozic acids/squalestatinsの合成研究において立体障害のある系での脱ベンジリデンおよびアセタール化の方法を確立し、有機合成化学における方法論に広がりをもたせたものであって、学術的に貢献するところが少なくない。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文に値するものと認めた。 |