本論文は生物活性物質に関する有機化学的研究に関するもので、三章よりなる。 著者は有機合成化学者という立場から、生物活性物質に関する化学的、生物学的研究に寄与、貢献したいという観点で、様々な生物活性物質の合成研究を行った。 第一章においてはマツの害虫であるマツモグリカイガラムシの一種Maritime Pine Scale(Matsucoccus feytaudi)の雌が生産する性フェロモン主成分(3S,7R,8E,10E)-3,7,9-トリメチル-8,10-ドデカジエン-6-オン(1)の新規合成について述べている。 ジアセタート3より酵素(PPL)を用いた不斉加水分解物2を経由して調製できるエポキシド4とGrignard試薬5とをカップリングさせ、アルコール6とした。この後、右側のジエン部分を構築し、目的物1の合成に成功した。 第二章においては、3種のマツモグリカイガラムシ(Matsucoccus matsumurae,M.resinosae,M.thumbergianae)が生産する性フェロモン主成分(2E,4E,6R,10R)-4,6,10,12-テトラメチル-2,4-トリデカジエン-7-オン[Matsuone(7)]の新規合成について述べている。 光学的にほぼ純粋な(R)-3-ヒドロキシ-2-メチルプロパン酸メチル[(R)-8]より導いたGrignard試薬9をエポキシド4とカップリングさせ、アルコール10を得た。10よりジエン部分を構築後、目的物であるMatsuone(7)の合成に成功した。 以上、第一章及び第二章で述べられた合成研究は、マツモグリカイガラムシの性フェロモンの生物学的研究の他に、マツモグリカイガラムシの防除法の探索にも役立てられている。 第三章においてはPenicillium sp.FO-2030が生産する抗コクシジウム剤Fudecalone(11)の合成研究について述べている。 ピロン12及びアセチレンジカルボン酸ジメチル(13)から従来よりも簡便な方法でフタリド14を合成した。14をBirch還元後、アルキル化し15を経て環化前駆体である16へと導いた。このもののルイス酸触媒環化反応により、既知化合物14からわずか4工程でFudecalone(11)の骨格合成に成功した。 現在、目的物Fudecalone(11)への変換を検討中である。 この研究によって家畜、家禽などをコクシジウム症から守ることができ、それによるその生産量の増加が期待される。 以上、本論文では三種の生物活性物質を取り上げ、それらの合成研究を行っている。これは、有機合成化学の分野において学術上貢献するところが多く、それと同時に、農学分野における実用面でもそれらの応用が期待される。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値のあるものと認めた。 |