本論文は、樹木根系が表層崩壊を防止する機能に関して、水分制御が可能な単純せん断試験機を新たに開発し、模擬根系として竹串(直根)又はネット(細根)を挿入してせん断試験を行い、(1)水分変化がそれらの土質強度補強効果に与える影響および、(2)せん断ひずみ変化がそれらの土質強度補強効果に与える影響について検討し、樹木根系による土質強度補強効果のメカニズムを明らかにしたものである。 第2章では、従来の不飽和土の土質強度特性に関する研究、樹木根系の土質強度補強効果に関する研究をレビューし、表層崩壊発生機構の解明のための土質強度試験では、低拘束圧条件かつ水分制御可能な試験が必要であり、さらに、根系の土質強度補強効果を検討するためには、応力-変形関係を把握できるせん断試験機の開発が不可欠であることを指摘した。 第3章では、第2章で提示された問題を解決するため、低拘束圧条件下で水分制御が可能であり、かつ、せん断ひずみの定義が可能で応力-変形関係を容易に追跡できる、操作が簡単な「単純せん断試験機」を開発し、豊浦標準砂を用いてせん断試験を行い、従来の一面せん断試験機と同様の試験結果が得られることを示すとともに、サクションが土質強度定数に与える影響は見かけの粘着力として出現することを再確認した。さらに、ひずみ-せん断応力関係をよく反映する新たな近似分数関数式を作成し、その近似パラメータとせん断剛性率を用いて、土の変形過程における応力条件と水分変化の土質強度特性に与える影響を明らかにした。 第4章では、上記単純せん断試験機を用いて、樹木根系の直根を想定した竹串を豊浦標準砂に挿入してその土質強度補強効果を解析し、(1)竹串による補強効果は土質強度定数の粘着力の増分として出現する、(2)竹串による補強効果は水分条件に影響され、サクションが限界毛管水頭のときピークを示す、(3)この補強効果は竹串の曲げと摩擦によるものであり、それはせん断ひずみとともにせん断初期から増加するが、そのうちの摩擦による補強効果はせん断ひずみが5〜10%を超えてから発揮される、等の結果を見いだした。 さらに第5章では、樹木根系の細根を想定したネットを用いてその土質強度補強効果を同様に解析し、(1)ネットによる土質強度補強効果は土質強度定数の粘着力の増分として出現し、せん断後期に大きく発揮される、(2)ネットによる補強効果も水分条件に影響され、サクションに比例して大きくなる、(3)ネットによる補強効果は曲げによるものはなく、ネットと土粒子の摩擦によるものとして発揮される、等の知見を得た。 最後に第6章では、上述の実験結果から、模擬根系の土質強度補強効果を、Mohr-Coulombの破壊基準式を基礎とし補強効果メカニズムを考慮した"評価式"を用いて総合的に考察し、(1)竹串による土質強度定数の粘着力の増分には曲げと摩擦の2成分が作用している、(2)ネットによる増分には摩擦の成分のみが作用している、(3)竹串とネットが示す土質強度補強効果としての粘着力の増分は、それらの挿入状態によって異なるが、それぞれひずみと水分条件の関数となっている、等を明らかにした。 以上要するに本論文は、新たに開発した単純せん断試験機を用いて、樹木根系による土質強度補強効果を、土壌水分変化と変形条件に対応させて実験的に解析し、補強効果のメカニズムを明らかにしたものであり、試験機の開発を含めて、学術上、応用上、貢献するところが少なくない。よって審査員一同は、博士(農学)の学位論文として十分な価値を有するものと判定した。 |