学位論文要旨



No 113523
著者(漢字) 渡邉,光
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,ヒカル
標題(和) 黒潮とその隣接海域における夜表性ハダカイワシ科魚類の生態学的研究
標題(洋)
報告番号 113523
報告番号 甲13523
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1882号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 水圏生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川口,弘一
 東京大学 教授 沖山,宗雄
 東京大学 教授 寺崎,誠
 東京大学 助教授 渡邊,良朗
 東京大学 助教授 西田,周平
内容要旨

 ハダカイワシ科魚類は全世界の外洋に広く適応分布しており、外洋生態系の中で最も優占する魚類のひとつである。本科魚類は昼間200m以深の中層に生息し、夜間に100m以浅の表層に浮上し、かいあし類、おきあみ類等主要な動物プランクトンを主食し、外洋の食物網の中で第3次生産者の位置にある。このことから多獲性小型浮魚類の餌を巡る競合者として、また外洋性大型浮魚類、陸棚性底魚類、イカ類、イルカ、オットセイ等の海産啼乳類等の高次生産者の餌生物としての重要性が注目され始めた。本研究で扱う夜表性ハダカイワシ科魚類とは夜間海面まで浮上する種の総称であり、その生物量は莫大であると考えられているがその定量が試みられたことはなく、生態にも不明な点が多い。

 本研究では黒潮域とその隣接海域において1957年から1994年までの35年間(1958、1965、1970年を除く)に毎年1-3月にかけて水産庁により行われたマイワシの卵・仔稚魚調査の為に採集されてきた2907点の標本(平均83点/年)をもとに、夜表性ハダカイワシ科魚類の群集組成、生物量の35年間にわたる変動を明らかにし、黒潮流量、水温など他の環境要因の変動との関連を分析した。更に分布水温、主な餌生物、主な摂餌時刻、栄養状態に関する生態学的な知見を得ることによって、その生物量変動のメカニズムを明らかにしようと試みた。概要は以下の通りである。

1.群集組成の長期変動

 5属10種の夜表性種が出現した。より定量的な採集が行われていると考えられる標準体長30mm未満の当歳魚で群集組成の変動を分析した。優占順位で上位4種を占めたアラハダカ、マガリハダカ、ススキハダカ、ブタハダカが1957年を除き全採集個体数の67〜96%を占めた。調査海域が陸棚縁辺に偏った1957年には陸棚縁辺に固有分布するウスハダカが最優占し、全採集個体数の48%を占めた。アラハダカは調査した35年中26年間に全体の40〜88%を占めて最優占した。その他の8年間ではマガリハダカが全体の40〜68%を占めて最優占し、とくにこの傾向は1971年以降顕著だった。ドングリハダカは1972年以前は1964、1967年の2年間のみ全体の1〜2%出現していたのに対し、1972年以降は全ての年で出現し、全体の1〜12%を占めた。これらの結果から当歳魚の群集組成は黒潮域が低温期から高温期に移行した1971年を境に大きく変化したことが明らかとなった。

 一方標準体長30mm以上の成魚の群集組成の経年変化は、当歳魚とは大きく異なりススキハダカが35年間のうち25年間に全体の50〜82%を占めて最優占した。他の7年間はウスハダカが全体の45〜86%を、3年間はブタハダカが全体の65〜87%を占めて最優占した。しかし成魚の場合種間で採集の定量性、寿命が異なるという問題があり、その変動要因は当歳魚に比べ複雑であった。

2.群集組成の変動要因

 群集組成の変動要因を検討する為、当歳魚の優占上位4種と外洋性の種のうち第5位を占めたドングリハダカ及び成魚で最優占したススキハダカの分布密度と冬季における黒潮流量の経年偏差及び各年の採集点での海表面水温の平均値とを1959-1969年と1971年以降の2期に分けて対応させた。

 アラハダカの当歳魚はいずれの物理環境要因とも相関が認められなかった(p>0.1)。本種は広水温性であり、その生息場は熱帯域から亜熱帯域にかけての広範な海域にあり、研究対象海域の表層における物理環境変動に対しても極めて柔軟に適応繁栄している。

 マガリハダカ当歳魚の分布密度は1971年以降の黒潮流量偏差及び海表面水温の平均値とそれぞれ5%、1%レベルで有意な正の相関が認められた。これは卵・仔稚魚が黒潮流量の増加に伴い主な産卵海域である熱帯域から本研究海域へ輸送される量が増え、更に本研究海域が1971年以後高温期に移行したことにより仔魚の生残条件が良好だった為と推定される。

 ドングリハダカの当歳魚の分布密度には、1971年以降の各年における海表面水温の平均値と正の相関が認められたが(p<0.01)、黒潮流量偏差とは相関がなかった(p>0.1)。このことは本種の主な産卵場の北限が1971年以降の高温化に伴い熱帯域から本研究海域まで北上した可能性を示している。

 ススキハダカ当歳魚、成魚の分布密度はともに1971年以降の黒潮流量偏差とそれぞれ1%、5%レベルで有意な負の相関が認められた。このことは本研究海域内に産卵場の中心がある本種の好適な生息場が黒潮流量の増加により狭くなったこと又は仔稚魚が黒潮により本研究海域外に流されてしまった可能性を示している。

 以上のことから1971年以降に認められた群集組成の変動は、黒潮レジーム・シフトに伴う高温化に伴う各種の産卵場及び仔・稚魚の分布中心の移動と生残環境の拡大縮小という現象の組み合せによって生じていることが明らかとなった。

3.各種の個体数密度の長期変動とマイワシ資源爆発との対応

 各種の個体数密度の長期変動とマイワシ漁獲量の変動とを対応させることにより夜表性種とマイワシとの餌を巡る競合の可能性を検討した。

 優占上位4種の当歳魚の分布密度の変動パターンは種により大きく異なった。アラハダカは1960年に個体数密度の極大が存在し、その後1969年まで漸減したのに対しマガリハダカ、ススキハダカはともに1969年まで個体数密度が低かった。アラハダカ、マガリハダカ、ススキハダカの3種は1971年に急増しており、アラハダカは1985年まで、マガリハダカは1982年まで、ススキハダカは1980年まで漸減し、アラハダカとススキハダカは1989年まで、マガリハダカは1984年まで再び増加した。これ以降アラハダカは漸減、マガリハダカ、ススキハダカは漸増傾向を示した。またブタハダカは1971年にやや増加したものの、35年間通して概ね低レベルの安定した個体数密度で推移した。

 以上のことからマイワシの資源加入量が増大を始めた1971年には夜表性ハダカイワシ科魚類の加入・生残条件が良好だったことが示唆された。またマイワシの競争者と予想したススキハダカの成魚は1976-1990年にかけてのマイワシ資源量の高水準期にマイワシ仔魚を捕食しており、餌生物組成の変化に柔軟に適応し、単純に両種間の競争関係を想定することはできないことを明らかにした。

4.各種の地理分布様式

 各種の分布中心海域を特定する目的で当歳魚、成魚の出現率と採集点の海表面水温との関係より地理分布様式を明らかにした。その結果卵・仔稚魚が本研究海域よりも黒潮源流域側の海域から本研究海域に輸送されていると考えられる種(マガリハダカ、ドングリハダカ、イバラハダカ、ヒサハダカ)、広温性で黒潮海域に広く分布するが、17℃以上の高水温域でとくに出現率が高い種(ブタハダカ)、広温性で黒潮海域に広く分布するが、低温で餌生物の生産性が高いと考えられる移行域にも侵入分布する種(アラハダカ、ススキハダカ)、陸棚縁辺域に固有の広温種(ウスハダカ)、親潮系水の南下に伴い出現している種(ホクヨウハダカ)、移行域に分布中心をもち、一部が本研究海域まで南下出現している種(ナガハダカ)が存在することが明らかとなった。

5.優占種の摂餌戦略

 夜表性ハダカイワシ科魚類各種間の餌を巡る競合の可能性を検討する目的で優占したアラハダカ、マガリハダカ、ススキハダカ、ブタハダカの当歳魚の摂餌量の経時変化と餌生物組成を明らかにした。

 アラハダカは24-1時、ススキハダカは3-5時、マガリハダカは4-5時、ブタハダカは20-21時及び22-23時に最も活発に摂餌しており、摂餌リズムが種間で異なっている"時間的喰い分け現象"の存在が示唆された。またアラハダカはかいあし類、おきあみ類、端脚類、貝型類、尾虫類等多様な動物群を、ススキハダカはかいあし類、端脚類を、マガリハダカはおきあみ類を、ブタハダカは翼足類を中心に捕食しており、餌組成の面でも餌料生物の喰い分け現象があることが分った。

6.夜表性ハダカイワシ科魚類の生物量と餌生物消費量

 曳網索によるハダカイワシ類の網からの逃避率を推定する為に、採集に用いた丸稚A型ネットと開口部に曳網索が無いORIニューストンネットによる夜間における採集効率を比較することにより、丸稚ネットの採集データを定量化する為の補正係数を得た。最も多く採集されたアラハダカでみるとORIニューストンネットの採集効率は丸稚ネットに比べ標準体長18.0-21.9mm、22.0-25.9mm、26.0-27.9mm、28.0-29.9mmの個体でそれぞれ平均2.9倍(t-test:0.05<p<0.1)、7.1倍(t-test:p<0.01)、10.3倍(t-test:p<0.01)、18.9倍(t-test:p<0.01)高かった(n=15)。この係数により当歳魚の採集データを補正し、ORIニューストンネットの採集効率を50%と仮定すると、各種が調査海域全体(400kmx1500km)で概ね20-200万トンの範囲で変動していたと推定された。これにより毎夜消費される甲殻類を主体とする動物プランクトン生物量は1-8万トンと見積られた。

審査要旨

 ハダカイワシ科魚類は全世界の外洋に広く適応分布しており、外洋生態系の中で最も優占する魚類のひとつである。本科魚類は昼間200m以深の中層に生息し、夜間に100m以浅の表層に浮上し、かいあし類、おきあみ類等主要な動物プランクトンを主食し、外洋の食物網の中で第3次生産者の位置にある。このことから多獲性小型浮魚類の餌を巡る競合者として、また外洋性大型浮魚類、陸棚性底魚類、イカ類、イルカ、オットセイ等の海産哺乳類等の高次生産者の餌生物としての重要性が注目され始めた。本研究で扱う夜表性ハダカイワシ科魚類とは夜間海面まで浮上する種の総称であり、その生物量は莫大であると考えられているがその定量が試みられたことはなく、生態にも不明な点が多い。

 本研究は黒潮域とその隣接海域において1957年から1994年までの35年間(1958、1965、1970年を除く)に毎年1-3月にかけて水産庁により行われたマイワシの卵・仔稚魚調査の為に採集されてきた2907点の標本(平均83点/年)をもとに、夜表性ハダカイワシ科魚類の群集組成、生物量の35年間にわたる変動を明らかにし、黒潮流量、水温など他の環境要因の変動との関連を分析したものである。更に分布水温、主な餌生物、主な摂餌時刻、栄養状態に関する生態学的な知見を得ることによって、その生物量変動のメカニズムを明らかにしようと試みている。概要は以下の通りである。

1.群集組成の長期変動

 5属10種の夜表性種が出現した。より定量的な採集が行われていると考えられる標準体長30mm未満の当歳魚で群集組成の変動を分析している。優占順位で上位4種を占めたアラハダカ、マガリハダカ、ススキハダカ、ブタハダカが1957年を除き全採集個体数の67〜98%を占めた。調査海域が陸棚縁辺に偏った1957年には陸棚縁辺に固有分布するウスハダカが最優占し、全採集個体数の48%を占めた、アラハダカは調査した35年中26年間に全体の40〜88%を占めて最優占した。その他の8年間ではマガリハダカが全体の40〜68%を占めて最優占し、とくにこの傾向は1971年以降顕著だった。ドングリハダカは1972年以前は1964、1967年の2年間のみ全体の1〜2%出現していたのに対し、1972年以降は全ての年で出現し、全体の1〜12%を占めた。これらの結果から当歳魚の群集組成は黒潮域が低温期から高温期に移行した1971年を境に大きく変化したことを明らかにした。

 一方標準体長30mm以上の成魚の群集組成の経年変化は、当歳魚とは大きく異なりススキハダカが35年間のうち25年間に全体の50〜82%を占めて最優占した。他の7年間はウスハダカが全体の45〜86%を、3年間はブタハダカが全体の65〜87%を占めて最優占した。しかし成魚の場合種間で採集の定量性、寿命が異なるという問題があり、その変動要因は当歳魚に比べ複雑であることを指摘している。

2.群集組成の変動要因

 群集組成の変動要因を検討する為、当歳魚の優占上位4種と外洋性の種のうち第5位を占めたドングリハダカ及び成魚で最優占したススキハダカの分布密度と冬季における黒潮流量の経年偏差及び各年の採集点での海表面水温の平均値とを1959-1969年と1971年以降の2期に分けて対応させた。

 アラハダカの当歳魚はいずれの物理環境要因とも相関が認められなかった(p>0.1)。本種は広水温性であり、その生息場は熱帯域から亜熱帯域にかけての広範な海域にあり、研究対象海域の表層における物理環境変動に対しても極めて柔軟に適応繁栄していることを明らかにした。

 マガリハダカ当歳魚の分布密度は1971年以降の黒潮流量偏差及び海表面水温の平均値とそれぞれ5%、1%レベルで有意な正の相関が認められた。これは卵・仔稚魚が黒潮流量の増加に伴い主な産卵海域である熱帯域から本研究海域へ輸送される量が増え、更に本研究海域が1971年以後高温期に移行したことにより仔魚の生残条件が良好だった為と推定した。

 ドングリハダカの当歳魚の分布密度には、1971年以降の各年における海表面水温の平均値と正の相関が認められた(p<0.01)。このことは本種の主な産卵場の北限が1971年以降の高温化に伴い熱帯域から本研究海域まで北上した可能性を示している。

 ススキハダカの当歳魚の分布密度は1971年以降の黒潮流量偏差と1%レベルで有意な負の相関が認められた。このことは本研究海域内に産卵場の中心がある本種の好適な生息場が黒潮流量の増加により狭くなったこと又は仔稚魚が黒潮により本研究海域外に流されてしまった可能性を示している。

 以上のことから1971年以降に認められた群集組成の変動は、黒潮レジーム・シフトによる高温化に伴う各種の産卵場及び仔・稚魚の分布中心の移動と生残環境の拡大縮小という現象の組み合せによって生じていることを明らかにした。

3.各種の個体数密度の長期変動とマイワシ資源爆発との対応

 各種の個体数密度の長期変動とマイワシ漁獲量の変動とを対応させることにより夜表性種とマイワシとの餌を巡る競合の可能性を検討した。

 優占上位4種の当歳魚の分布密度の変動パターンは種により大きく異なった。アラハダカは1960年に個体数密度の極大が存在し、その後1969年まで漸減したのに対しマガリハダカ、ススキハダカはともに1969年まで個体数密度が低かった。アラハダカ、マガリハダカ、ススキハダカの3種は1971年に急増しており、アラハダカは1985年まで、マガリハダカは1982年まで、ススキハダカは1980年まで漸減し、アラハダカとススキハダカは1989年まで、マガリハダカは1984年まで再び増加した。これ以降アラハダカ、ススキハダカは漸減、マガリハダカは漸増傾向を示した。またブタハダカは1971年にやや増加したものの、35年間通して概ね低レベルの安定した個体数密度で推移した。

 以上のことからマイワシの資源加入量が増大を始めた1971年には夜表性ハダカイワシ科魚類の加入・生残条件が良好だったことが示唆された。またマイワシの競争者と予想したススキハダカの成魚は1976-1990年にかけてのマイワシ資源量の高水準期にマイワシ仔魚を捕食しており、餌生物組成の変化に柔軟に適応し、単純に両種間の競争関係を想定することはできないことを明らかにした。

4.各種の地理分布様式

 各種の分布中心海域を特定する目的で当歳魚、成魚の出現率と採集点の海表面水温との関係より地理分布様式を明らかにした。その結果卵・仔稚魚が本研究海域よりも黒潮源流域側の海域から本研究海域に輸送されていると考えられる種(マガリハダカ、ドングリハダカ、イバラハダカ、ヒサハダカ)、広温性で黒潮海域に広く分布するが、17℃以上の高水温域でとくに出現率が高い種(ブタハダカ)、広温性で黒潮海域に広く分布するが、低温で餌生物の生産性が高いと考えられる移行域にも侵入分布する種(アラハダカ、ススキハダカ)、陸棚縁辺域に固有の広温種(ウスハダカ)、親潮系水の南下に伴い出現している種(ホクヨウハダカ)、移行域に分布中心をもち、一部が本研究海域まで南下出現している種(ナガハダカ)が存在することを明らかにした。

5.優占種の摂餌戦略

 夜表性ハダカイワシ科魚類各種の餌を巡る競合の可能性を検討する目的で優占したアラハダカ、マガリハダカ、ススキハダカ、ブタハダカの当歳魚の摂餌量の経時変化と餌生物組成を明らかにした。

 アラハダカは24-1時、ススキハダカは3-5時、マガリハダカは4-5時、ブタハダカは20-21時及び22-23時に最も活発に摂餌しており、摂餌リズムが種間で異なっている"時間的喰い分け現象"の存在を示唆した。またアラハダカは尾虫類を中心にかいあし類、おきあみ類、端脚類、介形類等多様な動物群を、ススキハダカはかいあし類、端脚類を、マガリハダカはおきあみ類を、ブタハダカは翼足類を中心に捕食しており、餌組成の面でも餌料生物の喰い分け現象があることを明らかにしている。

6.夜表性ハダカイワシ科魚類の生物量と餌生物消費量

 曳網索によるハダカイワシ類の網からの逃避率を推定する為に、採集に用いた丸稚A型ネットと開口部に曳網索が無いORIニューストンネットによる夜間における採集効率を比較することにより、丸稚ネットの採集データを定量化する為の補正係数を得た。最も多く採集されたアラハダカでみるとORIニューストンネットの採集効率は丸稚ネットに比べ標準体長18.0-21.9mm、22.0-25.9mm、26.0-27.9mm、28.0-29.9mmの個体でそれぞれ平均2.9倍(t-test:0.05<p<0.1)、7.1倍(t-test:p<0.01)、10.3倍(t-test:p<0.01)、18.9倍(t-test:p<0.01)高かった(n=15)。この係数により当歳魚の採集データを補正し、ORIニューストンネットの採集効率を50%と仮定し、各種が調査海域全体(400km×1500km)で当歳魚が0.1万-2.6万トン(2.5-42.7g/1000m3)、成魚が0.5万-509.0万トン(8.4-8484.1g/1000m3)の範囲で変動していたと推定した。これにより毎夜消費される甲殻類を主体とする動物プランクトン生物量は1000m3当り当歳魚で0.1-2.9g/1000m13、成魚で0.6-678.7g/1000m3と見積っている。

 本研究は35年間にわたる膨大な試料を有効に利用し、従来極めて知見に乏しかった中層性魚類の長期変動を記述し、そのメカニズムを詳細に解析した点で優れている。また優占種の摂餌戦略を、豊富な試料をもとに解析し、知見の乏しい夜表性種の時空間的資源分割について極めて興味深い結果を得、外洋の食物網に於ける資源分割の理解に新しい知見を提供した。これらの成果は表層生態系変動のメカニズムを解明する上で貴重であるのみならず、今後中・深層生態系の構造と機能を理解するうえで基礎的な知見を提供したものとして高く評価できる。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値があると認めた。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54644