学位論文要旨



No 113533
著者(漢字) 西村,拓也
著者(英字)
著者(カナ) ニシムラ,タクヤ
標題(和) エレメントの配置を考慮した低比重木質ボードの開発
標題(洋)
報告番号 113533
報告番号 甲13533
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1892号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 安藤,直人
 東京大学 教授 有馬,孝禮
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 助教授 小野,擴邦
 東京大学 助教授 信田,聡
内容要旨

 資源問題、環境問題が深刻さを増す中で、再生可能な生物資源を原料とし、製造、廃棄の過程が省エネルギー的に、また無公害的に進められる木質系材料への期待が高まっている。特に低質材、解体材が有効に使える木質ボード類の性能向上のための新しい技術の開発が急がれる。このような状況の中で、木質ボード類の低比重化技術の開発は、ボードの加工性、施工性、さらには製造時の原料の節約、製造エネルギーの低減化のために極めて重要である。

 ところが、ボード比重を下げるとこれを構成するエレメント量が少なくなることからボード強度が低下し、使用に耐えなくなってしまうという大きな問題が存在する。

 木質ボード類の低比重化に関する従来の研究は、比重を下げるためにエレメント量を少なくすることにより惹起される強度の低下を克服するという観点から行われてきており、それらはいずれも層状に堆積したエレメントを圧締して製造するボードに関してのものである。これに対して本研究では、低比重で性能の優れたボードを得るために、ボード内部のエレメントの配置の観点から木質ボードの低比重化について検討を行った。すなわち、少ないエレメントを立体的に配置することで、エレメント間に空隙を多く作りだし、かつ外力をエレメント間で効率的に伝達するというものである。本研究は、このようなエレメントの配置を考慮した低比重ボードを開発することを目的としている。

 以下の4項目について検討を行った。

 (1)荷重伝達効率の良いエレメント配置

 (2)波形エレメントを用いた場合のエレメント間結合力および空隙の分布

 (3)波形エレメントを用いた三層複合パネルの材質

 (4)波形エレメントを用いた場合の強度発生機構と低比重化の限界

 本論文で得られた知見を以下に示す。

 (1)外力に対して少ないエレメントで荷重伝達を効率よく行い得るエレメントの配置を検討した。具体的には、エレメントの配置を変えたモデルおよびその空隙部分をスチロール発泡体で充填したモデルを作り、それらについて曲げ試験を行い検討した。スチロール発泡体は、モデルの比重を増加させないでその空隙を充填するために用いた。次にこのエレメント配置を実現する目的でエレメントの形状を考案し、試験体を作成して圧縮および曲げ試験を行い検討した。その結果、低比重木質ボードの設計について以下のようなことが示された。少しのエレメントで曲げ性能を効率的に向上させるモデルはトラス型モデルである。空隙部分をスチロール発泡体により充填することで、エレメントの配置の安定性が向上する傾向が見られる。エレメントの形状を設計することで、3次元的なエレメント配置ができ、荷重伝達効率が向上する。その上で、エレメント相互の接点部を強固に接合すれば、低比重で強度のある材料を得ることができる。そのような考えを実現するものとして、3次元トラス形状の低比重木質ボードを提案する。このボード内においては荷重伝達が効率的に行われ、しかも空隙が多量に存在するので低比重化が図れる。これは、ボード内部にエレメントの集合体として立体トラスが存在し、これを以て力学的強度の発生機構とする材料である。

 (2)前述した3次元トラス形状の低比重木質ボードを簡易な技術で実現するために、形状を波形に加工したエレメント(以下波形エレメントという)を用いて低比重木質ボードの製造を試み、その強度発生機構を考察した。具体的には、波形の形状のエレメントを製造し、まずエレメント堆積物の圧縮試験を行い、エレメントの波形の形状が熱圧工程での圧締圧に及ぼす影響を検討した。次にボード製造を行い、剥離試験及びボードにおけるエレメント間空隙の分布の測定を行い、エレメントの形状がエレメント間結合力及びエレメント間空隙の分布に及ぼす影響を検討した。その結果、以下のようなことが示された。フラットエレメントでは比重0.25以下のボードはエレメント間結合力が発生しないため成形不可能なのに対し、波形エレメントを用いると、比重0.20の低比重ボードが成形可能であった。また比重0.35以下では厚さ2mmのエレメントを用いたものでは明らかに波形エレメントを用いた方が同じボード比重では高い剥離強さを示しているのに対し、厚さ4mmの場合にはほぼ同程度であり、中にはフラットエレメントを用いた方が高いIBを示したものもある。そして、波形エレメントの比重が0.7であったので、今回の製造条件において力学的性質発生のための圧縮比は0.3であり、従来の圧縮比下限値0.5を下回った。また、波形エレメントを用いることでボード内部のエレメント間空隙の分布の均等化が図れる。

 (3)低比重木質ボードの用途の一つとして、厚物軽量複合パネルのコア材への適用が考えられる。そこで、波形エレメントを用いた低比重ボードを製造し、それをコア材として表裏層に単板を用いた三層複合パネルについて曲げおよび圧縮試験を行い、このボードの厚物軽量複合パネルのコア材への適用を検討した。また、複合パネルの寸法安定性についても検討した。得られた結果を以下に示す。波形エレメントを用いたボード単独ではエレメント間空隙率がフラットエレメントを用いたものより大きいため曲げ性能は劣る。しかし、表裏層に単板を用いた複合パネルについては、波形エレメントをコア材として用いると、フラットエレメントをコア材に用いたものに比べて面外せん断変形に対する抵抗性が大きくなり、より優れた曲げ性能が得られる。表面に厚さ2mmの単板を貼ったコア比重0.3のパネルでは、構造用として使用可能な曲げ性能が得られた。圧縮性能については、波形エレメントを用いたボードは、空隙を保持した低圧密状態で高い圧縮性能が得られた。寸法安定性については、波形エレメントを用いたボードの24時間吸水厚さ膨張率は3%程度であり、優れた寸法安定性を示した。波形エレメントを用いることで、ボード内部に立体トラス構造が存在することになり荷重伝達効率の良いエレメント配置が形成されていると考える。

 (4)波形エレメントを用いた低比重ボードについて、低比重ボードの用途の一つとして、厚物軽量複合パネルのコア材への適用を検討した際に行った圧縮試験の結果より、波形エレメントを用いたボードの強度発生機構について、接着によって結合された隣接するエレメント相互の拘束によって、力が伝達され、強度が発生しているとの考えが得られた。また、24時間吸水試験からは、寸法安定性についても、隣接するエレメントが相互に拘束しあうことがTSの抑制の主要な要因であるとの考えが得られた。また、波形エレメントの形状がエレメント間結合力に及ぼす影響を検討した際、波形エレメントを用いることで圧縮比0.3で力学的性質が発生するボードが製造できるという結果が得られたが、波形エレメントを用いることでボードの低比重化がどこまで可能かは明らかにされていない。そこで、波形エレメントの寸法形状に着目し、エレメントの形状を異にする試験体について圧縮試験および24時間吸水厚さ膨張試験を行い、波形エレメントを用いたボードの強度発生機構、寸法安定性および波形エレメントを用いることによるボードの低比重化の限界について検討した。その結果、以下のようなことが示された。波形エレメントを用いたボードにおいては、接着によって結合された隣接するエレメントが、波形エレメント単体の支持部を相互に拘束することによって強度が発生していると言える。波形エレメントを用いたボードの低比重の限界値について、波形エレメントで製造しうるボード比重の下限値は、エレメントを含む長方体を体積として計算される見かけ比重に対応すると推測される。波形エレメント寸法形状の影響を見ると、今回の実験条件によれば、十分なエレメント間の接点面積が得られていれば、長さの短いものが高い圧縮ヤング率を示すことが認められた。波形エレメントを用いた低比重ボードの寸法安定性について、エレメントが集合体として一体性を備えうる一定以上のエレメント間結合力が得られていれば、エレメント間結合力の大小に依らず、24時間吸水厚さ膨張率が6%以下と優れた寸法安定性を示すが、エレメントの見かけ比重に近い比重、すなわち低比重化の限界に近い領域では、エレメント間結合力の大小に依存している。

 以上の結果をまとめると次のように結論される。

 少ないエレメントを立体的に配置するという観点から、空隙を多く保持し、かつ外力を効率的に伝達する3次元トラス形状の低比重木質ボードを考案した。これを簡易な技術により実現する方法として波形に加工したエレメントを用いることを試みた。その結果、波形エレメントを用いることによって、従来の技術では成形することができなかった、圧縮比0.3のボードが成形可能となった。また、波形エレメントを用いることで、低比重にもかかわらず曲げ性能、圧縮性能、寸法安定性能に優れたボードが得られることが認められた。そして、このボードの力学的強度発生機構については、波形エレメントが平面状に変形しようとするのを接着によって結合された隣接するエレメントが拘束し、力が伝達されることで強度が、発生していることが明らかにされた。したがって、ボード内部に3次元トラス形状の荷重伝達効率の良いエレメント配置が形成しているといえる。特に注目すべきこととして、波形エレメントを用いることで、波形エレメントの見かけ比重に対応した低比重ボードの製造の可能性を示したことは、従来行われてきた木質ボードの製造技術とは異なる方向性を示唆していると言えよう。

審査要旨

 木質ボード類の低比重化技術の開発は、ボードの加工性、施工性、さらには製造時の原料の節約、製造エネルギーの低減化のために極めて重要である。ところが、ボード比重を下げるとこれを構成するエレメント量が少なくなることからボード強度が低下し、使用に耐えなくなってしまうという大きな問題が存在する。木質ボード類の低比重化に関する従来の研究は、比重を下げるためにエレメント量を少なくすることにより惹起される強度の低下を克服するという観点から行われてきており、それらはいずれも層状に堆積したエレメントを圧締して製造するボードに関してのものである。これに対して本研究では、低比重で性能の優れたボードを得るために、ボード内部のエレメントの配置の観点から木質ボードの低比重化について検討を行い、少ないエレメントを立体的に配置することで、エレメント間に空隙を多く作りだし、かつ外力をエレメント間で効率的に伝達するという、エレメントの配置を考慮した低比重ボードを開発することを目的としている。本論文は7章からなっているが、以下に論文の内容の概要を示す。

 1.外力に対して少ないエレメントで荷重伝達を効率よく行い得るエレメントの配置を検討した(第3章)。

 エレメントの配置を変えたモデルを作り、それらについて曲げ試験を行い検討した。次にこのエレメント配置を実現する目的でエレメントの形状を考案し、試験体を作成して圧縮および曲げ試験を行い検討した。その結果、以下のようなことが示された。エレメントの形状を設計することで、3次元的なエレメント配置ができ、荷重伝達効率が向上する。そのような考えを実現するものとして、3次元トラス形状の低比重木質ボードを提案した。

 2.前述した3次元トラス形状の低比重木質ボードを簡易な技術で実現するために、形状を波形に加工したエレメント(以下波形エレメントという)を用いて低比重木質ボードの製造を試み、エレメントの形状がエレメント間結合力及びエレメント間空隙の分布に及ぼす影響を検討した(第4章)。その結果、以下のようなことが示された。波形エレメントを用いると、力学的性質発生のための圧縮比(ボード比重/エレメント比重)は0.3であり、従来の圧縮比下限値0.5を下回った。また、波形エレメントを用いることでボード内部のエレメント間空隙の分布の均等化が図れる。

 3.低比重木質ボードの用途の一つとして、厚物軽量複合パネルのコア材への適用が考えられる。そこで、波形エレメントを用いたボードの厚物軽量複合パネルのコア材への適用を検討した。また、寸法安定性についても検討した(第5章)。得られた結果を以下に示す。波形エレメントをコア材として用いると面外せん断変形に対する抵抗性が大きくなり優れた曲げ性能が得られ、その値は、構造用として使用可能なものであった。圧縮性能については、空隙を保持した低圧密状態で高い圧縮性能が得られた。寸法安定性については、24時間吸水厚さ膨張率が3%程度と、優れた寸法安定性を示した。

 4.波形エレメントの寸法形状に着目し、波形エレメントを用いたボードの強度発生機構、寸法安定性および波形エレメントを用いることによるボードの低比重化の限界について検討した(第6章)。その結果、以下のようなことが示された。接着によって結合された隣接するエレメントが、波形エレメント単体の支持部を相互に拘束することによって強度が発生している。波形エレメントで製造しうるボード比重の下限値は、エレメントを含む長方体を体積として計算される見かけ比重に対応すると推測される。寸法安定性について、エレメントが集合体として一体性を備えうる一定以上のエレメント間結合力が得られていれば、エレメント間結合力の大小に依らず、優れた寸法安定性を示すが、エレメントの見かけ比重に近い比重、すなわち低比重化の限界に近い領域では、エレメント間結合力の大小に依存している。

 以上要するに本研究は、少ないエレメントを立体的に配置するという観点から、空隙を多く保持し、かつ外力を効率的に伝達する3次元トラス形状の低比重木質ボードを考案し、これを簡易な技術により実現する方法として波形に加工したエレメントを用いることを試み、従来行われてきた木質ボードの製造技術とは異なる方向性を示したものである。本研究で行った、木質ボードの製造技術を用いることで、低比重にもかかわらず優れた性能を有したボードが得られることが認められ、本研究が学術上、応用上、貢献するところが少なくない。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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