学位論文要旨



No 113608
著者(漢字) 倉田,厚
著者(英字)
著者(カナ) クラタ,アツシ
標題(和) Burger病を主体とした下肢壊疽を来す血管疾患についての病理学的検討
標題(洋)
報告番号 113608
報告番号 甲13608
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1269号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 森,茂郎
 東京大学 教授 金ケ崎,士朗
 東京大学 助教授 山田,信博
 東京大学 助教授 重松,宏
 東京大学 助教授 増田,道明
内容要旨

 Buerger病(TAO:thromboangiitis obliterans)は病因が不明であり、臨床的に比較的特徴的な経過を呈するものの病理学的特徴は乏しいとされ、一部にはその独立した疾患概念を疑問視する学説もある。本研究では、臨床的にTAOと診断された31例を含む94例の下肢壊疽症例と、対照例として剖検症例より得られた31例の下肢動脈を検討した。その結果、これまでTAOに特徴的とされていた組織学的所見を、TAOとASO(arteriosclerosis Obliterans)、糖尿病あるいは血栓症との鑑別において有用なものとそうでないものとに整理することができた。また、本研究において新たに評価した組織学的所見から、内膜の再疎通血管のonion様の肥厚と重層化、vasa vasorumの血管内皮細胞の肥厚、中膜のコラーゲン様壊死、中膜の線維化を上回る外膜の線維化等の所見が、TAOに特徴的であることが示された。TAOにおける平滑筋、炎症細胞、血管内皮細胞、細胞増殖マーカー等の免疫組織化学的検討は今まで報告が無いが、本研究により、ASO、糖尿病あるいは血栓症とは異なりTAOでは、内膜にマクロファージが乏しく、炎症細胞が内弾性板付近や外膜に多く、血管内皮細胞は内弾性板付近にやや多く、動脈壁全体にB cellがやや多く、増殖細胞は主として再疎通血管やvasa vasorumの血管内皮細胞であることなどが示された。これらにより、TAOは明らかにASO、糖尿病あるいは血栓症と組織学的に鑑別可能な独立した疾患であることが示された。さらに、統計学的検討の結果、TAOは臨床的に過小診断されいる可能性が示唆された。また、TAOの病因を検討した結果、vasa vasorumの傷害と再生を伴う炎症がその成り立ちに関与していることが示唆された。加えて、糖尿病の合併によるASOの組織像の変化や、加齢による血管の組織像の変化も検討した。

審査要旨

 本研究は現在までのところ除外診断により診断され、その本態が明らかでなかったBuerger病について、動脈硬化性の血管閉塞(ASO)や血栓症などと比較して病理学的に検討し、統計学的考察を加えたものであり、下記の結果を得ている。

 1. これまでBuerger病に特徴的とされていた古典的組織学的所見のうち、ASOや血栓症との鑑別において有用な所見は、内弾性板の屈曲、形質細胞浸潤、静脈の炎症や血栓などであり、再疎通血管を取り囲む弾性線維、内膜の炎症、vasa vasorumの増生、外膜の炎症などは有用でないことが示された。

 2. 本研究で新たに評価した所見では、内膜の再疎通血管のonion様の肥厚と重層化、vasa vasorumの血管内皮細胞の肥厚、中膜のコラーゲン様の壊死、中膜の線維化を上回る外膜の線維化等の所見が、TAOに特徴的であることが示された。

 3. ASO、糖尿病あるいは血栓症とは異なりTAOでは、内膜にマクロファージが乏しく、炎症細胞が内弾性板付近や外膜に多く、血管内皮細胞は内弾性板付近にやや多く、動脈壁全体にB cellがやや多く、増殖細胞は主として再疎通血管やvasa vasorumの血管内皮細胞であることなどが示された。

 4. ASO、糖尿病あるいは血栓症とは異なりTAOでは、Mib1陽性の増殖細胞が血管内皮細胞に発現が多いことなどから、vasa vasorumの傷害と再生を伴う炎症がTAOの成り立ちに関与していることが示唆された。

 以上、本研究は病理学的検討が殆ど進歩していない血管閉塞疾患において、殊に病因の不明なBuerger病の鑑別診断に有用な様々な病理組織学的あるいは免疫組織学的所見を提示したため、学位の授与に値するものと考えられる。

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