本研究は現在までのところ除外診断により診断され、その本態が明らかでなかったBuerger病について、動脈硬化性の血管閉塞(ASO)や血栓症などと比較して病理学的に検討し、統計学的考察を加えたものであり、下記の結果を得ている。 1. これまでBuerger病に特徴的とされていた古典的組織学的所見のうち、ASOや血栓症との鑑別において有用な所見は、内弾性板の屈曲、形質細胞浸潤、静脈の炎症や血栓などであり、再疎通血管を取り囲む弾性線維、内膜の炎症、vasa vasorumの増生、外膜の炎症などは有用でないことが示された。 2. 本研究で新たに評価した所見では、内膜の再疎通血管のonion様の肥厚と重層化、vasa vasorumの血管内皮細胞の肥厚、中膜のコラーゲン様の壊死、中膜の線維化を上回る外膜の線維化等の所見が、TAOに特徴的であることが示された。 3. ASO、糖尿病あるいは血栓症とは異なりTAOでは、内膜にマクロファージが乏しく、炎症細胞が内弾性板付近や外膜に多く、血管内皮細胞は内弾性板付近にやや多く、動脈壁全体にB cellがやや多く、増殖細胞は主として再疎通血管やvasa vasorumの血管内皮細胞であることなどが示された。 4. ASO、糖尿病あるいは血栓症とは異なりTAOでは、Mib1陽性の増殖細胞が血管内皮細胞に発現が多いことなどから、vasa vasorumの傷害と再生を伴う炎症がTAOの成り立ちに関与していることが示唆された。 以上、本研究は病理学的検討が殆ど進歩していない血管閉塞疾患において、殊に病因の不明なBuerger病の鑑別診断に有用な様々な病理組織学的あるいは免疫組織学的所見を提示したため、学位の授与に値するものと考えられる。 |