本研究は子宮内膜の周期的変化の機序を明らかにするため、ヒト子宮内膜の手術検体を用いて、転写因子であると考えられているBcl-6の子宮内膜における発現を調べ、これをBcl-2の発現と比較しつつ、その月経周期における変動について検討した。さらに子宮内膜由来細胞株を用いて培地中のホルモン量を変化させ、ホルモン環境の変化によるBcl-6の発現の変動について調べたもので、下記の結果を得ている。 1. Bcl-6蛋白は血球系以外にも子宮内膜腺上皮に発現し、核に局在している。Bcl-6蛋白が子宮内膜上皮細胞においても発現が確認され、血球系細胞だけでなく多様な細胞の分化制御に関わる可能性を示唆する。核に局在が見られることは遺伝子構造上から想定される転写調節機能ということに矛盾しない。 2. Bcl-6蛋白の発現は月経周期に応じて変動し、プロゲステロンにより誘導される。ヒト子宮内膜における月経周期に応じてのBcl-6の発現が、免疫染色と免疫沈降ウエスタンブロットの2方法を用いて、はじめて明らかにされた。子宮内膜腺上皮において蛋白レベルで発現の変動がみられた物質のなかでは、転写制御因子と考えられる物質はこれが初めてである。月経周期に対応して変動していることから、性ステロイドホルモンによる発現調節を受けていることが示唆された。 3. Bcl-6蛋白の発現はBcl-2蛋白の発現と月経周期内で逆相関がある。 Bcl-2はBAXと拮抗して細胞死を回避する機能があるとされている。プロゲステロンによりBcl-6の発現が誘導され、転写抑制因子とされる機能を介してBcl-2の発現が抑制され細胞死に至るという可能性が考えられる。また、プロゲステロンによって発現誘導されたBcl-6がc-mybと競合してBcl-2の発現をdown-regulateすることにより細胞死を惹起するという可能性等も考えられ、今後、性ステロイドホルモンによるBcl-6の発現調節を検討していく必要がある。子宮内膜の腫瘍化や生殖生理の基礎研究として臨床的応用にもつながる可能性がある。 以上、本論文はBcl-6蛋白の子宮内膜における発現が月経周期に応じて変動し、プロゲステロンにより誘導されることを明らかにした。本研究はこれまで解析の進んでいなかった子宮内膜の周期的変化の機序を知るために重要な貢献をなすと考えられ学位の授与に値するものと考えられる。 |