好酸球増多症は一般的にアレルギーや蠕虫感染に伴う症状として知られている。蠕虫感染における好酸球の役割については、1975年Butterworthが住血吸虫シストソミュラに対し好酸球が抗体依存性傷害作用を示すことを報告して以来、様々な研究が行われて来た。しかし、その傷害作用はヒト、ラット、マウスなど好酸球の由来によって、また、寄生虫の種類によって異なる可能性がある。特にヒトとラットの好酸球は多くの蠕虫感染に対し防御活性を示すことが報告されているが、マウスの場合、これまで数的に十分な好酸球を得ることができなかったことにより、その活性については必ずしも十分な検討はなされていない。 最近IL-5トランスジェニックマウスが利用可能になり、マウス好酸球の役割についての研究が進展しつつある。本研究においてはネズミの腸管寄生虫であるNippostrongylus brasiliensis(以後、Nbと略する)の感染防御における好酸球関与の可能性を明らかにする目的で、IL-5トランスジェニックマウス(以後、IL-5 TgMと略する)を用いて検討した。 その結果、感染初期における、マウス肺からの回収幼虫虫体数はC3H/HeN及びC57BL/6のいずれの系統においても野性型対照群に比べIL-5TgMで有意に減少していた。このような結果が、虫体の体内移行が単に遅れるためではないことは、経時的観察から明らかであった。 IL-5TgMでは、対照群のマウスに比べ平均50倍以上の好酸球増多が見られることから、まず好酸球の増加によるNb感染への影響を調べるため、好酸球移入実験を実施した。野性型のマウスにIL-5TgMの好酸球を移入した結果、末梢血において好酸球の有意の増加が認められ、それと共に好酸球を移入していない対照群と比較し肺での虫体数が有意に減少していた。この結果は、感染虫体が皮下から肺、そして、腸管へと移行する生活環の中で、肺までの移行に好酸球が防御的に作用していることを示唆している。 そこで、好酸球が、Nbの肺までの移行中のどこで実際に幼虫に対する防御作用を示すのかを調べる目的で、感染後皮下、血液、肺など幼虫の移行経路を追跡し、経時的に虫体を回収して検討した。その結果、感染直後の皮下からは、対照群とIL-5TgMで回収虫体数に差は認められなかったのに対し、肺では対照群と比較しIL-5TgMにおいて回収虫体数の明らかな減少が認められた。このことから好酸球は感染後幼虫が肺に侵入する以前の段階で防御的に作用するものと考えられた。そこで、この結果を確認するため、Nb感染後対照群とIL-5TgMでの皮下の変化を組織学的に観察した。両群とも、感染後3時間以内に炎症細胞が集まって来るのが観察されたが、対照群では好酸球と共に好中球が目立つのに対し、IL-5TgMでは殆どが好酸球であり、虫体の周囲に集族し虫体を捕捉する様子が認められた。 そこで、寄生虫に対する好酸球の防御作用についてさらに詳しく調べる目的で、in vitroでの好酸球の虫体への付着及び虫体傷害に関与する因子について解析を行った。予備実験の結果からeffectorとtargetの比は1万対1とし、正常マウス血清の存在が好酸球による幼虫の傷害に与える影響を調べた。血清の濃度を10%から50%まで変化させた場合、濃度依存的に死滅虫体数が増加した。このことから血清に含まれている成分によって幼虫への好酸球の付着及び殺滅作用が誘導されることが示唆された。 ところで、これまで行われたin vitroでの研究から見ると、マクロファージも線虫に対して殺滅作用を示す可能性があることが示唆されている。そこで、Nb幼虫に対して殺滅効果を持つ細胞として、好酸球以外にマクロファージにも注目して上記と同じ条件下で調べた結果、好酸球より殺滅作用は低かったことから、この寄生虫の感染防御には好酸球の方がより重要な役割を果していることが明らかになった。 IL-5TgMでは、IL-5トランス遺伝子によって常時高いレベルでのIL-5が発現し、それによって好酸球の分化、増殖そして活性化が誘導されることが知られている。本研究においてもin vitroの実験系にリコンビナントマウスIL-5を添加することにより虫体への細胞の付着及び殺滅効果が高まることが認められた。このことからIL-5TgMでは好酸球数の増加だけでなくその活性化によって、Nb幼虫に対する防御反応が増強されている可能性が示唆された。一方、電子顕微鏡的観察により、Nb幼虫に付着した好酸球が虫体に対して扁平となり、角皮に電子密度の高い物質を放出している像が観察された。 以上の結果からNb幼虫への好酸球の付着及び殺滅作用には血清に含まれている補体の関与が示唆されたので、熱処理及びzymosan処理によって補体の不活化を誘導した血清で好酸球の付着及び殺滅作用を調べたところ、これらの補体不活化処理によって好酸球の付着及び殺滅作用は誘導されなくなった。この時、それぞれの処理後の残留補体価(CH50)は、処理前の約50%以下に低下していた。この結果より、血清中の補体が好酸球の付着及び殺滅作用にかかわっていることが示唆された。 好酸球には補体レセプター以外に免疫グロブリンに対するレセプターも存在することが知られているので、次に免疫グロブリンによる好酸球の付着及び殺滅作用への影響について検討した。プロテインA/Gビーズとマンナンバインデングプロテインビーズを用いてIgGとIgMを激減させた血清と、精製したIgGまたはIgMで好酸球の付着及び殺滅作用を調べた結果、IgGとIgMを激減させた血清では新鮮な血清と同等の好酸球の付着及び殺滅作用が認められ、一方、IgGまたはIgM分画では好酸球の付着及び殺滅作用が誘導できなかった。これらの結果も抗体の関与の可能性よりも上記の補体を含むほかの要素の関与の可能性を示唆するものであった。 好酸球は、接着分子を介して標的の病原体に付着することが知られている。最近、寄生虫の感染に伴ってヒト好酸球ではCR3とVLA-4などのインテグリンの発現が高くなることが報告されている。接着分子、CR3は補体のレセプターであり、また、VLA-4はフィブロネクチンのレセプターであることが知られており、かつ、フィブロネクチンはオプソニンとしても知られているので、CR3とVLA-4に対するモノクローナル抗体を用いて中和実験を行った。その結果、抗CR3、または抗VLA-4モノクローナル抗体のいずれによっても、好酸球の付着及び殺滅作用は完全に消失した。このことから、両接着分子の存在が好酸球の付着及び殺滅作用の誘導に必要であることが示唆された。また、免疫蛍光法によりNb幼虫の角皮に補体とフィブロネクチンの沈着が証明された。これらの結果から、好酸球はNb幼虫に対してCR3を介した付着及び殺滅作用を示すことができるが、CR3を介した反応にはもう一つの接着分子、VLA-4とフィブロネクチンとのインターアクションが重要であることが示唆された。 以上の研究により、マウス好酸球がNb幼虫の角皮に固着した血清由来の補体及びフィブロネクチンとそれらに対応する好酸球膜上の接着分子を介して幼虫に付着することが明らかとなり、さらに、その接着分子を介して好酸球の活性化と顆粒物質の放出が起こり、Nb幼虫を殺滅するに至ることが示された。 |