No | 113628 | |
著者(漢字) | 藤井,穂高 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フジイ,ホダカ | |
標題(和) | インターロイキン2受容体βc鎖細胞内領域のin vitro,in vivoにおける機能解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 113628 | |
報告番号 | 甲13628 | |
学位授与日 | 1998.03.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1289号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | インターロイキン2(IL-2)は、リンパ球の増殖及び分化を誘導することによって、免疫反応の制御に重要な役割を果たしている。機能的高親和性IL-2受容体(IL-2R)はα鎖(IL-2Rα)、β鎖(IL-2Rβc)、γ鎖(IL-2Rγc)の3つのサブユニットから構成されている。IL-2RβcはIL-15の、また、IL-2RγcはIL-4、IL-7、IL-9、IL-15受容体のサブユニットとしても機能することが知られている。 IL-2によるシグナル伝達にはIL-2Rβc及びIL-2Rγcの細胞内領域が必要であることが示されている。IL-2Rβc及びIL-2Rγcの細胞内領域には内在性のキナーゼ活性は検出されないものの、IL-2刺激に伴って、IL-2Rβc及びIL-2Rγcの細胞内領域を含む細胞内分子のチロシンリン酸化の亢進が認められる。実際、IL-2Rには少なくとも3つの異なったファミリーに属する非受容体型蛋白チロシンキナーゼ(PTK)が共役していることが判明している。すなわち、Janus PTKファミリーに属するJak1とJak3、SrcファミリーPTK、そしてSyk PTKである。 これまでIL-2及び他のサイトカインシグナル伝達でのJakキナーゼの重要性が示されているが、Jakファミリーキナーゼが下流にシグナルを伝えるメカニズムは充分に理解されていない。Jakキナーゼの活性化後に起こる細胞内の事象で最もよく解析されているのは、Stat(signal transducer and activator of transcription)と呼ばれる転写因子の活性化である。Stat蛋白は通常は細胞質内に存在しているが、Jakキナーゼによると考えられている特異的チロシン残基のリン酸化によって活性化され、ホモ二量体やヘテロ二量体を形成して、転写因子としての活性を持つようになる。最近になって、IL-2によって活性化されるStat蛋白がヒト末梢リンパ球から精製され、cDNAが単離された。このIL-2によって活性化されるStat蛋白は、ヒツジMGF(mammary gland factor)/Stat5と高い相同性を有していることから、ヒトStat5と命名された。また、ヒトT細胞株においてStat3もIL-2による活性化を受けることが報告されている。しかし、Statがサイトカインシグナル伝達に果たす役割、特に増殖シグナル伝達に果たす役割はこれまで不明であった。 本論文第1部では、まずIL-2によるJak1/Jak3の活性化とStat5の活性化との機能的連関を解析し、cDNAによってコードされているStat5が実際にIL-2によって活性化されることを、IL-2Rを再構成した線維芽細胞株を用いて明らかにした。次いで、IL-2Rを再構成した血球系細胞株BAF-B03を用いて、IL-2が内在性のStat5を活性化することを確認した。更に、IL-2によるStat5活性化にはIL-2RβcのC末端領域に位置するH領域が必須であることを示した。しかし、一方でBAF-B03由来細胞株では、この領域はIL-2によるJak1/Jak3の活性化や細胞増殖誘導には必要ないことから、この細胞株におけるStat5の増殖への関与は否定された。 第1部及び他の培養細胞を用いた実験から、IL-2Rβcの細胞内領域には3つの領域が同定されている。膜近傍のS領域(serine-rich領域)はIL-2による細胞増殖に必須であることが示されているが、S領域に続くA領域(acidic領域)及び最もC末に位置するH領域を欠失させたIL-2Rβc変異体でもIL-2による増殖が認められることから、この2つの領域は細胞増殖に必須ではないことが示唆された。しかし、H領域に関しては、この領域に含まれるStat活性化に必要なチロシン残基を他のアミノ酸に置換した変異体でStat活性化が消失しかつIL-2による増殖が低下したという報告もあり、H領域の増殖における役割はまだ明確にされたとはいえない状況であった。また、培養細胞での実験という制約のため、これらの領域がリンパ球系細胞の分化に如何に関与しているかについては全く解析されていなかった。 そこで本論文第2部では、これらの領域の役割をより生理的な条件下で調べ、細胞増殖・分化における役割を解明するために、野性型・H領域を欠くH変異体・A領域を欠くA変異体トランスジーンによってIL-2Rβc欠損マウスにおけるIL-2Rβcの発現の回復を試みた。IL-2Rβc欠損マウスではT細胞の自発的な活性化が起き、その結果自己免疫症状が惹起されるが、野性型、H変異体、A変異体のどのトランスジーンを発現させてもこのような免疫異常を抑制することができた。一方、IL-2Rβc欠損マウスでは、NK細胞の分化が障害されている。野性型及びA変異体を発現したマウスではNK細胞の分化が誘導されたが、H変異体を発現させてもNK細胞の分化は認められず、H領域がNK細胞の分化に必須であることが明らかとなった。一方で、Tリンパ球の増殖を検討した結果、in vitroにおいて、H変異体・A変異体ともにT細胞受容体(TCR)を介する細胞増殖とconcanavalin A(ConA)によって誘導される細胞増殖の程度は野性型と変わりがなかった。ところが、H変異体ではIL-2によるTCR刺激との協調的増殖反応が低下していることが判明した。更にこの原因について解析を進めた結果、H変異体にはIL-2によるIL-2Rα遺伝子の発現誘導能がないこと判明した。一方では、A変異体を発現するT細胞では、IL-2に対する反応性が増強されており、Stat5の活性化・IL-2Rβcのチロシンリン酸化が異常に持続していることから、A領域がIL-2シグナル伝達に対して負の制御を行っている可能性が示唆される。一連の結果はマウスリンパ球におけるIL-2Rβcを介した増殖・分化のシグナル伝達系における新たな知見を提供するものである。 | |
審査要旨 | 本研究はリンパ球の増殖や分化に重要な役割を演じているインターロイキン2受容体(IL-2R)βc鎖の細胞内領域の機能を明らかにするため、各種培養細胞株及びトランスジェニックマウスの系を用いて、IL-2Rβc鎖細胞内の各領域が細胞増殖や分化に果たす役割の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. IL-2によるJak1/Jak3の活性化とStat5の活性化との機能的連関を解析し、cDNAによってコードされているStat5が実際にIL-2によって活性化されることを、IL-2Rを再構成した線維芽細胞株を用いて明らかにした。次いで、IL-2Rを再構成した血球系細胞株BAF-B03を用いて、IL-2が内在性のStat5を活性化することを確認した。更に、IL-2によるStat5活性化にはIL-2RβcのC末端領域に位置するH領域が必須であることを示した。しかし、一方でBAF-B03由来細胞株では、この領域はIL-2によるJak1/Jak3の活性化や細胞増殖誘導には必要ないことから、この細胞株におけるStat5の増殖への関与は否定された。 2. IL-2Rβc鎖細胞内領域のH領及びA領域の役割をより生理的な条件下で調べ、細胞増殖・分化における役割を解明するために、野性型・H領域を欠くH変異体・A領域を欠くA変異体トランスジーンによってIL-2Rβc欠損マウスにおけるIL-2Rβcの発現の回復を試みた。IL-2Rβc欠損マウスではT細胞の自発的な活性化が起き、その結果自己免疫症状が惹起されるが、野性型、H変異体、A変異体のどのトランスジーンを発現させてもこのような免疫異常を抑制することができた。従って、T細胞の自発的な活性化の抑制にはH領域やA領域は必須でないことが明らかになった。 3. IL-2Rβc欠損マウスでは、NK細胞の分化が障害されている。野性型及びA変異体を発現したマウスではNK細胞の分化が誘導されたが、H変異体を発現させてもNK細胞の分化は認められず、H領域がNK細胞の分化に必須であることが明らかとなった。 4. Tリンパ球の増殖を検討した結果、in vitroにおいて、H変異体・A変異体ともにT細胞受容体(TCR)を介する細胞増殖とconcanavalin A(ConA)によって誘導される細胞増殖の程度は野性型と変わりがなかった。ところが、H変異体ではIL-2によるTCR刺激との協調的増殖反応が低下していることが判明した。更にこの原因について解析を進めた結果、H変異体にはIL-2によるIL-2Rα遺伝子の発現誘導能がないこと判明した。 5. A変異体を発現するT細胞では、IL-2に対する反応性が増強されており、Stat5の活性化・IL-2Rβcのチロシンリン酸化が異常に持続していることから、A領域がIL-2シグナル伝達に対して負の制御を行っている可能性が示唆された。 以上、本論文は培養細胞系及びトランスジェニックマウスの系を用いて、IL-2Rβcの細胞内ドメインの各領域がリンパ球の増殖・分化に果たす役割を明らかにした。本研究はこれまで不明であったIL-2Rβc細胞内ドメインのH領域・A領域の機能及びIL-2Rβcによって担われているpleiotropic functionの分子生物学的理解に重要な貢献をなすと考えられる。一連の結果はマウスリンパ球におけるIL-2Rβcを介した増殖・分化のシグナル伝達系における新たな知見を提供するものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54650 |