本研究は特定機能病院における紹介・非紹介患者の医療資源消費量を比較することにより、医療資源の消費という視点から特定機能病院になった大学病院に紹介制度の導入による影響及び妥当性について論じた研究であり、下記の結果を得ている。 1.紹介患者及び非紹介患者の全体的な医療資源消費量の比較 紹介・非紹介患者の全体的な医療資源の消費量の差異を知るために、患者自身の医療ニーズと関連性が高く、また病院の医療資源の利用状況と関連が深いと思われる入院率、外来受診回数、診断設備の利用率、医療費の4項目を医療資源の消費量の測定指標としたところ、診療科別による紹介率の差異の影響要因として、患者の自己判断により受診しやすい診療科では紹介率が低い傾向がある他、調査対象である第三次救急医療機関に指定された東大病院では救急車より搬入された患者の加算によって紹介率が高まる可能性も考えられる。 また入院率において、紹介患者は非紹介患者の4倍を示したことは、紹介患者には入院を要する検査、治療のような高度な医療ニーズを有するケースの多いことが示唆された。 診断設備の利用状況を表す画像検査件数を項目別に見ると、外来では紹介患者が非紹介患者よりCTやMRIなどの高価額な医療検査を2倍程度受けていることより、紹介患者は非紹介患者と比較して高度の医療検査を必要とすることが示唆された。 紹介・非紹介患者の3カ月間の外来及び入院を合計した総医療費は、一患者あたりの平均受診回数(紹介患者2.7回、非紹介患者2.4回)及び平均入院日数(紹介患者17.3日、非紹介患者27.0日)を用いて補正した結果では、紹介患者は非紹介患者と比べ、補正前の5.8倍から6.7倍になった。東大病院では紹介患者の医療費は非紹介患者の6倍以上高いことが明らかとなった。 2.紹介患者及び非紹介患者の疾患別割合及び医療資源消費量の時間経過の比較 紹介・非紹介患者の病名及び患者の経時的な医療費の消費量を比較する項目に入れた場合では、紹介患者群の占める病名の上位20位では、「悪性新生物」に関する病名が5項目もあるのに対し、下位20位では「呼吸気道感染」に関する病名が6項目であった。このことから、「悪性新生物」のような一般的に医学的に重篤な疾患において、紹介患者の比率が高い傾向が示唆された。 月別の医療資源パターンを見ると、紹介患者は新来院時から3カ月間の間に非紹介患者の3.5倍以上もの医療費を消費したことから、紹介患者は紹介されて来院した後、すぐに検査、治療または処置などの医療対策が行われることが予想される。一方非紹介患者では紹介患者ほど前半に集中して医療費を消費していないことから、非紹介患者への医療処置の提供は紹介患者に比べ、時期的に遅くなる傾向がある。 3.主要疾患別による紹介患者及び非紹介患者医療資源消費量の比較 紹介・非紹介患者の疾患構成を更に詳細に分類し、主要疾患による医療費消費量を分析し、同一病名における紹介・非紹介患者の具体的な医療資源消費量の差異を比較したところ、疾患別による医療費の比較では、「外来」医療費のみの比較では有意差が見られなく、「入院」により有意差が生じた疾患群(「糖尿病」、「高血圧(症)」)があるのに対し、「外来」のみでも、「外来+入院」でも有意差が見られなかった疾患も存在することが明白となった(「C型慢性肝炎」)。この結果は「糖尿病」、「高血圧(症)」のような慢性疾患は治療方針の決定や合併症の治療などの目的で入院する患者が多いのに対し、「C型慢性肝炎」のような自然治癒が稀で、長期に渡ればいずれは肝硬変から肝細胞癌へ進展する恐れがある疾患では、紹介の有無を問わずに治療を実施するとともに、血液検査や画像検査(特に腹部超音波、及びCT、MRIなどの高価格画像診断)を定期的に行う必要があることに起因すると考えられる。このように同一疾患においても紹介患者は入院により非紹介患者に比べ多くの医療資源を消費することが判明された。 4.結論 本研究より、以下の結論が得られた: 1.医学的な重篤な疾患において、紹介患者の比率が高い。 2.紹介患者及び非紹介患者の医療資源消費量の差異の原因としては、同一疾患内による差異の他、異なる疾患構成の影響もある。 3.紹介患者は非紹介患者より多くの医療資源を消費した。消費パターンにおいて、紹介患者は新来院時点から短期間に多く消費するのに比べ、非紹介患者では医療資源消費のピークが遅れる。 4.上記の3点より、特定機能病院にあるレベルの紹介率を義務づけたことは、妥当であると思われる。 以上、本論文は特定機能病院における紹介・非紹介患者の医療資源の消費量について比較し、紹介患者は非紹介患者よりも多くの医療資源を消費したことを明らかにした他、特定機能病院における紹介制度の導入の妥当性を肯定した。本研究はこれまで明らかにされなかった特定機能病院における紹介制度の導入の意義の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |