本研究は、動物及びヒトに於いて、ストレスや不安との関連が強く示唆されているトリビュリンの一構成成分と考えられているIsatin(indole-2,3,-dione)の尿中排泄量がストレス反応の指標になりうるかを明らかにするため、異種ストレス下での尿中排泄量の変化、及び5-HT2Cレセプター刺激、コルチコトロピン放出因子(CRF)、カテコールアミン系神経細胞の賦活と尿中排泄量との関連をHPLCによる測定を用いて検討したものである。下記の結果が得られている。 1.絶食ストレス及び寒冷暴露ストレスの負荷前後の24時間尿中イサチン排泄量の変化を調べたところ、共にストレス負荷開始後24時間の尿中イサチン排泄量の有意な増加が認められた。このことより尿中イサチン排泄量がストレス反応と関連があることが強く示唆された。 2.視床下部-下垂体-副腎皮質系を強力に活性化しストレス反応の中枢での統合-調節因子であるCRFがストレス下のイサチン産生、排泄増加に関わっている可能性を検討したところ、室傍核でのCRF産生、放出を抑制するデキサメサゾンの前投与が、異種ストレス下での尿中イサチン排泄量を完全に、かつ用量依存的に抑制した。 3.更に、CRFの作用に拮抗するベンゾジアゼピンレセプターアゴニスト、ジアゼパムの前投与も、絶食ストレスによる尿中イサチン排泄量増加を完全に阻止し得ることが示されイサチン産生、排泄が中枢を介しCRFの関与する何らかのメカニズムで調節されているという仮説が支持された。 4.尿中イサチン排泄量増加に、ノルアドレナリン系ニューロンの活動性昂進が関与している可能性を検討したところ、カテコールアミン生合成経路に働く2つの酵素、チロシンヒドロキシラーゼとドーパミンヒドロキシラーゼのうち前者の阻害のみが完全にイサチン排泄量増加を阻止し得ることが示され交感神経系の活動性昂進がイサチン産生排泄増加の背景にあることが示唆された。 5.不安誘発物質である5-HT2Cレセプターアゴニスト、m-CPPの投与により用量依存的にイサチン排泄量は増加しその増加は5-HT2Cレセプターアンタゴニスト前投与で用量依存的に阻止されイサチン産生、排泄量が中枢性に5-HT2Cレセプターを介したメカニズムで調節されその背景に5-HT2Cレセプター刺激によるCRF産生増大の関与が示唆された。 以上、本論文は、ラット尿中イサチン排泄量をHPLCで測定することにより初めてイサチンがストレス反応のひとつの指標になりうる可能性を示し、また中枢を介したイサチン産生制御の機構解明にひとつの方向性を示しえたと考えられ学位の授与に値するものと考えられる。 |