急性Tリンパ芽球性白血病(T-ALL)や濾胞性Bリンパ腫における染色体転座切断部位に結合する蛋白質、トランスリン(Translin)の具体的な生理機能を解明するために、トランスリンと相互作用する蛋白を酵母two-hybrid法で検索した。その結果、トランスリンと特異的に結合する複数の蛋白をコードする遺伝子をクローニングすることに成功した。 本研究はそのうちの一つ、RP58遺伝子の構造とコードする蛋白の機能について詳細に検討を加え、下記の結果を得ている。 1、RP58遺伝子によってコードされるRP58蛋白は、522アミノ酸からなる58kDaの蛋白で、そのC末端にKruppel型Zincフィンガーのモチーフを保有し、N末端は、Bcl-6を始めとする数多くのZincフィンガー蛋白と高い相同性を示す領域(POZドメイン)から構成されていた。 2、ゲノム解析から、ヒト及びマウスRP58遺伝子は、相同性が高く、イントロンを含まない、一つのエクソン(約4.3kb)から構成されていることが判明した。 3、Fluorescence in situ hybridization(FISH)分析によって、RP58遺伝子は、ヒト第1染色体の長腕q44に位置していることが明らかとなった。 4、ノーザンプロットを行なった結果、RP58の主要転写産物のサイズは4.3kbであることがわかった。しかし、その発現は組織によって異なっており、筋肉、脳、膵臓、胸腺、心臓、精子、及び脾臓では特に強く発現されていた。また、小脳特異的な7kbのバンドが認められたことは特筆すべきことである。 5、RP58蛋白が結合するDNA塩基配列をCAST(cyclic amplification and selection of targets)法を用いて検索した結果、E-boxコンセンサス配列CANNTGを含むA/CACATCTGコア配列に結合することが明らかとなった。 6、POZドメインを保有する蛋白の多くは転写関連因子であることが知られているため、RP58蛋白の転写に及ぼす影響を解析した。その結果、RP58蛋白は塩基配列特異的に転写を強く抑制することが判明した。次に、RP58蛋白の転写抑制部位を決定するために、各ドメインを欠損する蛋白をGAL-4ベクターに組み込み、SV40 early promoterに連結したルシフェラーゼ遺伝子と伴に種々の細胞へトランスフェクションした結果、Zincフィンガードメインを含むC末端にのみ強い転写抑制作用が認められた。 以上、本研究ではRP58遺伝子をクローニングし、そのゲノム構造を解析することに成功した。その結果、RP58によってコードされる蛋白がPOZドメインを備えたZincフィンガー蛋白で、E-boxを含む塩基配列特異的な結合を介して転写を抑制する蛋白であることを明らかにした。また、POZドメインを保有する多くの蛋白とは異なり、RP58蛋白の転写活性を抑制する部位がZincフィンガードメインに存在していることも特筆すべき点である。RP58蛋白機能の解明とその遺伝子構造の解析、更に染色体マッピングによって、遺伝子発現の制御機構と関連する疾病の解明する上で、本研究は重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |