本研究は、わが国でがんの臨床に携わる看護職がPain Managementに必要な知識を獲得するための学習教材をCAI(Computer Assisted Instruction:CAI)コースウェアにて開発し、その効果を検証することを目的として調査および研究を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.がん専門病院の1病棟に勤務する看護職27人を対象に、半構造的質問紙を用いて、対象ががん患者のPain Managementに必要だと認識する知識を問う調査を行った。その結果、Pain Managementに必要な知識は「疾患に関する知識」「痛みに関する知識」「がん患者の痛みに関する理論・概念の知識」「情報収集の実施に関連した知識」の4つの大項目に大別された。各大項目はいくつかの中・小項目から構成されていたが、「痛みに関する知識」を構成する中項目「疼痛緩和ケア」の小項目「薬物治療」は全記述の半数近くを占めていた。 2.この結果をもとに、さらに内容妥当性を確保する目的で文献を参照し「薬物治療」と「痛みの原因」に関する「知識項目リスト」(全19項目)を作成した。 3.作成したリストを用いてがん専門病院2施設に勤める看護職316人を対象に、各項目の重要度、精通度を問う調査を行った。また各項目の知識レベルを測るため、19問から成る質問紙も併せて施行した。その結果「強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ)の副作用及びその対応」「癌患者が持つ痛みの原因」「痛みの閾値に影響を及ぼす因子」の3項目は、重要度、精通度共にスコアが高かった。また精通度については、がん専門病院における臨床経験満5年以上が5年未満より全項目でスコアが高かった。知識テストの平均は10.4点(19点満点)であり、満5年以上と満5年未満との間で得点に有意差が認められた。 4.調査結果から臨床経験満5年未満と満5年以上との間で知識に差があることが明らかになったため、がん患者のPain Management初心者を使用対象に想定したCAIコースウェアを開発した。CAIコースウェアの設問項目・解説内容の決定に際しては、臨床経験満5年以上の看護職が重要度・精通度を高く示した項目、知識テストで正答率が低かった項目を選択した。作成したCAIコースウェア「がん患者の痛みを緩和するために知っておきたい薬物治療のポイント」は全80フレーム、15設問を含むものであった。 5.作成したCAIコースウェアを用いて、教育効果を検討した。対象はがん専門2施設に勤務する看護職80人で、所属部署を層とする層化無作為抽出により、CAIコースウェアで学習した後にパンフレットを渡す群(CAI群)を抽出し、残りをパンフレットのみを渡す群(対照群)とした。 6.その結果、介入前に行った知識テスト1の得点は、二群間で有意差がみられなかったが、介入の2週間後に行った知識テスト3ではCAI群、対照群ともに介入前の得点より有意に上昇し(CAI群:19.4±3.85点から27.5±2.97点へ、対照群:18.7±4.7点から24.8±5.44点へ、ともにp<.001)、パンフレット、CAIコースウェア双方に学習効果が認められた。 7.しかし、両群の知識テスト3の得点を比較したところ、CAI群の得点が有意に高かった(p<.01)。介入前に行った知識テスト1の得点を共変量とし群要因、施設要因を主効果とする共分散分析を行ったところ、群要因は有意であったが(p<.01)、施設要因及び交互作用は有意ではなかった。さらに各対象ごとに得点変化を検討すると、CAI群の知識テスト3の得点は、知識テスト1の得点に関わりなく全体的にある一定レベル(27点付近)まで上昇しているのに対し、対照群の知識テスト3の得点にはバラツキが大きかった。 8.CAI群はコースウェアを体験したことで「新たな知識を得た」「知識の確認になった」と感じ、院内研修などの場、あるいは自己学習教材として使用したいという希望を持っており、この様な学習形態が臨床の看護職にも受け入れられることが示された。 以上、本論文はがん患者のPain Managementに必要な看護知識を獲得するための学習教材(CAIコースウェア)を開発し、教育教材として有効であることを明らかにした。本研究は、これまで各看護職が手探りで自己研鑽に努めていたPain Managementの知識獲得に有効な教育手段を開発した点で、がん看護の教育的発展および痛みをもつがん患者のPain Managementに対する重要な貢献をなすと考えられることから、学位の授与に値するものと考えられる。 |