本研究は、術後乳癌患者の精神的健康に対するサポートグループの有効性を明らかにすることを目的とし、78名の術後乳癌患者を、介入群(45名)と対照群(33名)に無作為に割り付け、介入群に対し、再発を中心的テーマとしたサポートグループにおける情緒的および教育的介入を行ったものである。介入の効果の指標として、「状態不安」、「生活満足度」、「癌との共存度」の3つの精神的健康の指標を取り上げた統計的分析と、介入後における対象者の自発的な感想や意見を用いた質的分析を行い、以下の結果を得ている。 1.「状態不安」に対する統計的分析として、介入前から介入後1ヶ月の状態不安の変化の平均値を群間で比較(t-検定)したが、有意な差は見られなかった。また、術後期間と活動度を共変量として用い、状態不安の変化を従属変数とした共分散分析を行ったが、介入の有意な効果は見出されなかった。 2.「生活満足度」に対する統計的分析においては、生活満足度の初期値に群間で有意な差が見られたため、生活満足度の初期値の平均値である80で層別し、介入前から介入後1ヶ月の生活満足度の変化の平均値を群間で比較(t-検定)した。その結果、初期値が高い群と低い群の両群において、介入群と対照群との間の変化の平均値に有意な差は見られなかった。更に、初期値で層別し、術後期間と活動度を共変量として用い、生活満足度の変化を従属変数とした共分散分析を行った。結果、初期値が高い群において、介入の有意な効果が見出された。この結果は、介入群において殆ど変化がなく、対照群において減少したことを反映しており、介入に比較的高い精神的健康を維持させる効果があることを示唆していると考えられる。初期値が低い群においては、介入の有意な効果は見出されなかった。 3.「癌との共存度」に対する統計的分析においては、介入前から介入後1ヶ月の癌との共存度の変化の平均値を群間で比較(t-検定)したが、有意な差は見られなかった。また、術後期間と活動度を共変量として用い、癌との共存度の変化を従属変数とした共分散分析を行ったが、介入の有意な効果は見出されなかった。 4.介入後における対象者の自発的な感想や意見を用い、質的分析を行った結果、約43%の対象者より介入に対する肯定的な評価が得られ、約17%の対象者が乳癌を再認識し、乳癌を受容し、いかによりよく生きるかを考えるよう変化したことを述べ、認知レベルの変化を示した。セッションの内容に対する質問においては、乳癌に対する理解が示され、更に、セッション実施時においては、認知レベルの変化と行動を変容させることを述べた参加者が見られた。 以上、本論文では、再発を中心的テーマとしたサポートグループにおける情緒的および教育的介入を行い、介入の効果を統計的分析により検証した。その結果、全体的には術後乳癌患者の精神的健康を高める効果は示されなかったが、比較的精神的健康が高い群において、それを維持させる効果を有することが示唆された。質的分析においては、術後乳癌患者の認知レベルの変化が示され、時間が経過した後の介入の効果が推察された。本研究は、介入の効果を検出する感度が十分高くないデザインではあったが、日本において殆ど行われていない対照群を設けた介入研究を行い、サポートグループの必要性と、今後の検討課題が示唆されたことにより、サポートグループ研究の発展とその臨床応用に貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |