本論文は地域で生活する精神分裂病患者に対する看護職による訪問ケアの技術の向上に資するために、熟練保健婦・看護婦(士)の具体的な実践の技術を記述し、さらにその構造について検討したものである。Grounded Theory Approachの継続的比較分析の手法を用いて、熟練者30名がケア提供場面を想起したインタビューから具体的に記述し、ケアの対象となったケースの特性やケアを提供した看護職の職能や実践の場の性質との関連から、精神分裂病患者に対する看護職による訪問ケアという限定された領域における中範囲理論の生成を行おうとする論文であり、以下の知見を得ている。 1.ケア提供場面で用いられた技術のカテゴリとして、(1)関係性を創る技術、(2)日常生活のケア、(3)地域で生活してゆく権利の擁護、(4)医療を受けることへの関わり、(5)症状の管理、(6)家族への関わり、(7)他職種・住民との共働の7カテゴリが明らかにされた。 2.ケア技術に影響するケア場面の性質のカテゴリとして、(1)ケースへのケアの依頼者、(2)訪問の目的の2カテゴリが明らかにされた。 3.(1)関係性を創る技術については、20の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされた。それらの技術は、関係性の新しい創出のために未治療者や医療中断者、強い被害妄想を持つなどの何らかの配慮を要する対象について、主に保健婦によって用いられていることが明らかにされた。 4.(2)日常生活のケアについては8の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされ、ホスピタリズムや疾患そのものによる生活技術の不足に対して保健婦・看護婦(士)全般に広く用いられていることが明らかにされた。 5.(3)地域で生活してゆく権利の擁護については11の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされ、周囲との摩擦を最小限にし、看護職が関わることによる緩衝機能を目的として用いられていることが明らかにされた。 6.(4)医療を受けることへの関わりについては、5の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされ、医療とのつながりの状況に応じて、慢性疾患である精神分裂病の管理・維持をよりよい状態で行うために用いられていることが明らかにされた。 7.(5)症状の管理については、10の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされ、症状のレベルよりも症状を管理する患者自身の能力の程度に応じて、その多くが看護婦(士)によって用いられていることが明らかにされた。 8.(6)家族への関わりについては、4の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされ、家族の精神分裂病や本人の接し方への理解の程度に応じて用いられていることが明らかにされた。 7.(7)他職種・住民との共働については、6の介入技術を示すサブカテゴリが明らかにされ、ケースと社会とのつながりの程度に応じて地域における生活を継続しうる方向で用いられていることが明らかにされた。 (なお、これらのカテゴリおよびモデルはインタビュー対象者10名によって真実性、現実への適合性、理解しやすさ、一般性、コントロールが検討された)。 8.看護職はその職能や実践の場によって、保護的・永続的な代償機能を主に看護婦(士)が、関係性の創出を基礎とした広義の医療とのつながりの創出を保健婦が担うという機能の相違が明らかにされた。また、それらの機能の共通性として症状や行動の継時的観察と予防的介入を同時並行的に行うモニタリング機能が明らかにされた。 以上、本論文は、精神分裂病患者に対する看護職の訪問ケア技術をとりあげ、具体性を保ちながらケア技術を立体的に記述・分析・考察している。これにより、この領域における看護ケアのより実践に即した教育を行うための基礎資料を得ることの意義と可能性を指摘している。よって、本論文は、今後の看護職の精神分裂病患者に対する訪問ケア活動における技術の向上に対して示唆を与えるものであり、学位の授与に値するものであると認められる。 |