結果と考察 都市移住者の1日の身体活動レベル(PAL=TEE/BMR)は、農村居住者に比べて有意に低下していた(p<0.05)。1日を活動レベルに基づいて「睡眠」、「安静」、「活動」に3分し、それぞれの部分のエネルギー消費量を農村・都市間で比較すると、「睡眠」、「安静」の部分の変化は小さく、「活動」部分の低下がPALの低下の主たる原因となっていたことがわかった。
睡眠時間を除いてTEEの約半分(41-53%)を占め、農村・都市という対照的な居住環境を反映する「職業活動(occupational)」と「移動(traveling)」に注目し、費やされた時間、エネルギーコスト、エネルギー消費量の観点から農村・都市間比較を行った。
都市では、身体負荷の高い農耕から負荷の低い現金獲得活動に職業活動が変化した。しかし、男性では労働時間の大幅な増加(4.6倍,P=0.0013)したため、身体負荷つまりエネルギーコストの低下の影響は相殺され、むしろ職業活動のエネルギーは都市で増加した。一方、女性は労働時間の増加は少なく(1.2倍,NS)、エネルギーコスト低下の影響を受けて、職業活動のエネルギー消費量は都市で減少した。
「移動(歩行、ぶらつき)」に関しては、この活動が行われる自然環境の変化(山岳地・湿地から平坦な舗装道路)によって、都市対象者のエネルギーコストは低下した。一方、都市対象者の歩行時間は大幅に減少していた。これは都市対象者が、1日の大部分をセツルメントの中で過ごしていたことと、交通機関(バス)の発達という社会経済的環境の変化によって引き起こされたと考えられる。コストの低下と時間の減少から、移動に費やされたエネルギーは男女ともに都市で顕著に減少した。
食物摂取調査からは、農村と都市で対照的な食事内容が明らかとなった。農村の食事はサツマイモに大きく依存していたのに対し、都市の食事は、米とサバの缶詰に代表される購入食品に100%依存していた。1日のエネルギーバランス(摂取量-消費量)は農村・都市対象者ともに5%以内に収まり、釣り合いはとれていたが、都市対象者は摂取量、消費量ともに低いレベルであった。都市居住者のエネルギー消費量の低下は、脂質摂取量の急激な増加とともに肥満や循環器疾患などの成人病のリスクを増大させていることが示唆された。
近代化・都市化がもたらす健康に対する負の影響が顕在化しつつある途上国において、人々の自然・社会文化的環境に対するエネルギー適応に関してさらなる研究が必要である。