学位論文要旨



No 113731
著者(漢字) 松尾,未佳
著者(英字)
著者(カナ) マツオ,ミカ
標題(和) ハミングコード頂点作用素代数のトライアリティについて
標題(洋) On the triality of the Hamming code vertex operator algebra
報告番号 113731
報告番号 甲13731
学位授与日 1998.03.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第97号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 加藤,晃史
 東京大学 助教授 寺田,至
 東京大学 助教授 河東,泰之
 筑波大学 教授 宮本,雅彦
内容要旨

 この論文の目的は,Hamming code vertex operator algebra(ハミングコード頂点作用素代数)のtrialityについて考察することである.

 Hamming code VOAは宮本雅彦氏によって導入されたVertex Operator Algebra(VOA)の一つであり,それらの和がVirasoro元となるようなcentral chargeの互いに直交する8つのconformal vectorsをちょうど3組持つことが分かつている.これら3組のconformal vectorたちが生成するalgebraは,の中で,それぞれIsing modelの8つのテンソル積に同型なsubalgebraになっている.またconformal vectorに附随する自己同型写像が定義され,これはこの3つのsubalgebrasの入れ換えという形で作用している.これをのtrialityと呼ぶことにする.ところで,trialityというのは,元来D4型の単純Lie群Spin(8)の外部自己同型群のことである.すなわち,lattice D4は,そのDynkin diagramからすぐ分かるように,外側の3つのbasisを入れ換える自己同型写像を持っている.このlattice D4からFrenkel等の構成によりlattice VOAを構成すると,Hamming code VOAと同様,と同型なsubalgebraを生成する3組の互いに直交する8つのconformal vectorsを持つ.従って,-moduleとしてのhighest weight vectorをすべて求めることにより,は,を満たす8つのIsing modelのテンソル積の直和に分解できる.この分解は、Dong-Mason-Zhuによって指摘されている.

 この分解を具体的に計算することにより,からへの埋め込みを構成し,次の定理を得た.

 Theorem1埋め込みにおいて,D4trialityに対応するの自己同型写像をに制限すると,これはのconformal vectorに附随する自己同型写像を与える.

 従ってのtriality,すなわち3組のsubalgebraを入れ換えるの自己同型はD4-trialityからきていることが分かった.

 同様に,lattice(A1)4から構成されるVOAは,3組の互いに直交する8つのconformal vectorsを持ち,に同型なsubalgebraを含むので,この-moduleとして全てのhighest weight vectorを求めることで,からへの埋め込みが定義できる.Frenkel-Lepowsky-Meurmanによると,Lie環A1=sl2の自己同型群には,そのsymmetric basisの1つを-1倍,他の2つのbasisを入れ換えるという3つのinvolutionがあり,これをA1-trialityと呼ぶことにする.

 Theorem2埋め込みにおいて,A1-trialityをに対角的に作用させる写像をに制限するとHamming codeの自己同型群から来るの自己同型写像を与える.

 これらの埋め込みをcode VOAの言葉で整理すると以下のようになる.すなわち,これらの埋め込み写像は,Hamming code H8にlength2のcodeword{12}=(11000000)等の元を加えたcodeから構成したcode VOA,からlattice VOA,への同型写像を与える.

 さらに,lattice VOA VLにおいて,lattice L上-1倍での作用からinduceされる自己同型写像∈Aut(VL)による固定空間をとおくとき,に含まれている.

 一方,Code VOA,及びはCartan subalgebraを持つので,このCartan subalgebra上-1倍になるような自己同型写像1,2,3で導入された自己同型写像を用いて定義すると,

 

 となる.埋めこみによりと対応することから,上述の結果より次を得る.

 

 なお,Ising modelのcharacter

 

 とcode VOAとlattice VOAとの同型対応から

 

 を得る.

審査要旨

 頂点作用素代数は、場の理論に由来するものであるが、Frenkel,Lepowsky,Meurmanらによる、自己同型群がモンスター群とよばれる最大の散在型有限群であるような、いわゆるムーンシャイン頂点作用素代数の構成を契機として、とくに注目されている。本論文は、このムーンシャイン頂点作用素代数を有限群論の立場からわかりやすく構成するために導入された、Hamming code頂点作用素代数、3次の対称群を自己同型群としてもつD4型root latticeの頂点作用素代数、および、KP方程式の解の構成にも用いられるA1型root latticeの頂点作用素代数の4つのテンソル積という3種類の頂点作用素代数の関係を明らかにしたものである。

 宮本雅彦氏が構成した、code頂点作用素代数は、任意の偶数形codeに対して定義されるものであるが、Hamming codeに対応する頂点作用素代数は、trialityとよばれる美しい自己同型をもっていて、この性質を基礎にして、宮本氏は、Hamming code頂点作用素代数からムーンシャイン頂点作用素代数を構成した。したがって、自己同型trialityを理解することは重要な問題である。本論文では、このtrialityがCartan以来古典的に知られているD4型Lie群の外部自己同型と基本的に同じであることを示している。具体的には、頂点作用素代数としての埋め込み

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 を構成している。さらに、これらの埋め込みにおいてウエイト2の元の最高ウエイトベクトルなども完全に決定しており、これは以後の研究に大いに役立つ計算である。本論文で得られた結果は、頂点作用素代数と有限群論の分野に大きく貢献するものである。

 よって、論文提出者 松尾未佳は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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