結び目とは、3次元球面内に埋め込まれた円周である。また、成分数が幾つかある場合、絡み目という。結び目は、成分数が1の絡み目である。交代絡み目とは、その絡み目の正則表示(絡み目の2次元球面への射影図に、各交点において上下の情報を加えたもの。)で、どの成分をたどっても、交点で上下が交互に現れるものを持つもの、である。また、そのような正則表示を交代正則表示という。 1984年に、W.Menascoは、交代絡み目の外部の閉曲面を調べる画期的な手法を導入した。その方法を用いて、MenascoとM.B.Thistlethwaiteは、交代結び目のケーブリング予想や、交代絡み目の分類であるTaitの最終予想などを解決した。その手法とは、交代絡み目の外部の曲面と、交代正則表示を描いた2次元球面との交わりを考察するというものである。この手法の良いところは、交代絡み目の正則表示から、その絡み目の外部に存在する曲面の性質が良く分かる点である。つまり、絡み目の性質が、その正則表示から決まる点である。この手法は、C.C.Adams、及び、林忠一郎氏により、種数のある曲面上の交代絡み目の外部の曲面の研究にも拡張されている。また、筆者も本研究科修士論文において、トーラス上の交代絡み目の外部の閉曲面の圧縮不能性についての研究を行っている。 この論文において、筆者は、その手法を交代タングル、つまり交代正則表示を持つタングルに対して適用し、交代タングルの基本的な性質がその正則表示から判定できることを示した。また、その結果を用いて、交代タングル2つに分かれるような3次元球面内の結び目及び絡み目の性質や、そのような結び目のデーン手術で得られる3次元多様体の性質を研究した。 以下、論文の内容について述べる。 第一部 Parallelism of two strings in alternating tangles. タングル(B,T)とは、3次元球体Bと適切に埋め込まれた1次元部分多様体Tの対である。(ただし、成分数は任意有限。)Tがn本の弧からなる時には、n-ストリングタングルと言う。交代タングルとは、交代正則表示を持つようなタングルである。この論文では、「交代タングル内の2本のストリングがいつ平行になるか。」という問題の解答を与えた。それは、「あるn-ストリングタングルが交代正則表示をもち、かつ、その中の2本のストリング、t1とt2が平行とする時、その正則表示と2本のストリングの位置を特徴付け出来る。」というものである。 その系として、2本または3本のストリングの交代タングル2つにに分かれる3次元球面内の結び目の非自明デーン手術で出来る3次元多様体には、本質的層状構造(essential lamination)が存在することを示した。本質的層状構造は、1989年に、D.GabaiとU.Oertelによって導入された、3次元多様体を研究する際に非常に有用な構造である。彼らは、3次元多様体が本質的層状構造を持てば、それの普遍被覆はR3になることを示した。また、上の結果を用いて、上のような結び目が性質P(property P)を持つこととと、ケーブリング予想を満たすことを示した。結び目が性質Pを持つとは、「その任意のデーン手術で出来る3次元多様体の基本群は非自明である。」というものである。「全ての結び目が性質Pを持つだろう」というのが、性質P予想である。また、ケーブリング予想とは、「デーン手術によって可約3次元多様体が出来るとき、その結び目は、トーラス結び目かケーブル結び目だろう」というものである。 第二部 Hyperbolicity and ∂-irreducibility of alternating tangles. この論文では、タングルが、最低限必要な条件を満たすような交代正則表示を持てば、素、双曲的そして境界既約になることを示した。また、2つのタングルのタングル和で出来ている様なタングルが交代正則表示を持つときの正則表示の形を決定した。その系として、その2つのタングルもやはり交代正則表示を持つことが示せた。 タングルが素であるとは、本質的な球面でタングルとぶつからないか、2点でぶつかるものや、本質的な円板でタングルと1点でぶつかるものを持たないことである。また、タングルが双曲的であるとは、素であり、かつ、本質的なトーラスや、ある種の本質的なアニュラスを持たないことである。また、2つの素なタングルで出来る絡み目は素、そして、2つの双曲タングルで出来る絡み目は双曲的であることが知られているので、系として、正則表示を見れば、素および双曲的であることが分かる絡み目のクラスを得た。ここで、絡み目が素であるとは、分離不能、かつ、局所的に結び目を持たないことである。また、絡み目が双曲的とは、その補空間に、完備かつ有限体積な双曲構造を許容するものである。このクラスには、LickorishとThistlethwaiteによって導入された、準交代絡み目(semi-alternating link)も含まれる。 タングルが境界既約とは、その外部の境界が圧縮不能のことである。また、境界既約性の系として、結び目がある条件を満たす2つの交代タングルに分かれれば、その任意の非自明デーン手術で得られる3次元多様体は、双曲的かつハーケンであることを示した。 第三部 On tunnel number one alternating knots and links. 絡み目がトンネル数1とは、両端を絡み目に持つような弧で、絡み目とその弧の和集合の正則近傍の外部が、種数2のハンドル体になっているものである。そのような弧を結び目解消トンネルという。トンネル数1の双曲的交代絡み目に関して、「そのある結び目解消トンネルは、交代正則表示のある交点のところにある。」という予想がある。また、これを満たす絡み目も大変多く知られている。この論文では、そのような絡み目の特徴付けをした。これにより、上の予想が示せれば、トンネル数1の双曲的交代絡み目の分類が終わることになる。結果は、「そのような絡み目は、2橋絡み目か、モンテシーニョス絡み目M((2,1),(1,1),(2,2))である。」というものである。 |