本論文は自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Undewater Vehicle)のナビゲーションに関する問題を研究し、コンピュータビジョンに基づく目標追跡を目的としたAUVのナビゲーション計画を提案する。 AUVナビゲーションは2つの大きなグループに分けられる。第一は、絶対的な位置に基づくナビゲーションであり、第二はターゲットに基づく相対的なナビゲーションである。第一の方法では、AUVの位置を世界座標系から導き、必要な航路計画がなされる。しかし、一般に海中では高い精度で位置を得ることは困難である。第二の方法では、追跡する対象に特有の性質が利用される。そこでは、その性質に対応する特別なセンサーを用いて、その特性を計測し、ナビゲーションのためのAUVと物体の相対距離を導く。したがって対象の性質に依存しているので、応用は限られる。すなわち、海水活動の幅広い要求に答えるためには、多様な対象を扱える汎用のナビゲーションシステムを開発する必要がある。 本論文では、市販のCCDカメラで捕らえた、環境の画像の性質を用いて海中でナビゲーションをおこなうシステムを提案する。画像データに環境中の多くの詳細な情報が含まれており、異なる物体の画像としての性質を定義すれば、それらを区別するのに使うことができる。すなわち、画像データを利用すれば海中での追跡システムの応用範囲を広くすることができる。しかしながら、CCDカメラにより捕らえられる水中の画像データは、陸上の場合とは異なり、多くの望ましくない特徴(ノイズなど)を含む。これらのノイズは対象物体の特徴を弱め、特徴抽出を困難にする。それゆえ、本論文では、AUVのナビゲーションにこのような海中画像に特有な特徴を持つ環境情報に富んだ画像データを用い、AUVのミッションの幅を拡げることを目標とする。また、AUVでは諸装置が圧力容器の中に納められ、電源容量も限られているので、小形でエネルギー消費の少ない軽いシステムで実現されなければならない。 本論文では始めに、要求されるナビゲーションシステムを議論し、ターゲットシステムを定義する。ここでのターゲットシステムは、搭載されたセンサーと統合された画像センサーを用いてAUVをナビゲートするものであり、超音波位置測定器などの方法を用いないで、透明度2〜3メートル以上の環境で予め定めた物体を追跡するシステムである。画像に基づくナビゲーションシステムを開発するにあたり、水中での視覚による特徴抽出における問題点を克服するため、システム構成、ノイズフィルター、およびセンサヒュージョンを検討する。 システムがおこなう不確かな測定を扱うために、3つのコントロールレベルを持つ階層システム構造を提案する。上位のコントローラは、その時点でのミッションを達成するためにロボットの状態を調べ、下位の階層に命令する。中位のコントローラは、センサーの情報を用いて下位のコントローラに必要なナビゲーション命令を作り、上位のコントローラから命令された仕事を実行する。下位のコントローラは、スラスターなどを、中位からのナビゲーションコマンドに基づいて制御する。そして、より上位の決定を行うために必要なセンサー情報を得る。 センサフュージョンが、搭載されたセンサとCCDカメラの間で行われる。CCDカメラにより得られる画像は2次元情報であり、これは超音波距離計測器からの情報を用いて3次元情報に変換される。AUVの姿勢はビークルに積まれている慣性航法装置を用いて得る。センサフュージョンを利用して、ビークルのダイナミックスから対象の特徴のダイナミクスが導かれる。対象の特徴のダイナミクスは画像パラメータの照合と画像処理する領域を限定するのに用いられる。さらに、画像処理による時間遅れを補うために推定器を提案する。 CCDカメラにより得られた水中環境での望ましくない特徴を注意深く研究し、それらの効果を最小にするフィルタを提案する。マリンスノー、スキャタリング、一定にあたらない光源などによるノイズは空間周波数で低および高周波の領域に落ち着く。Laplacian of Gaussianオペレータに基づく帯域フィルターが上記の目的のために開発された。このフィルタは同時に環境画像のエッジマップを作り出し、幾何学的特徴のラベリングを可能にする。本論文で提案した特徴抽出法はエッジマップを対象の幾何学形状を表すパラメタで構成されるパラメタ空間に変換する。ハフ変換が上記の変換に用いられる。パラメタ空間において、前画面における物体の位置と、AUVのダイナミックスと対象物体の2次元表記に基づき、画像中の物体の位置が抽出される。他のセンサデータと統合された画像中の物体特徴はAUVのナビゲーションのコマンドを作るために用いられる。 提案したナビゲーションシステムは2つの物体追跡ミッションにおいて試験された。それらは、水中ケーブル追跡と水中で動く物体の追跡である。ナビゲーションは琵琶湖のような実環境において、「ツインバーガー2」とよばれる、研究室で開発されたテストベットAUVを用いて行われた。湖底のケーブルあるいは水中の円柱状物体のようにAUV周りにある対象物体を画像データとして捕らえ、ナビゲーションの命令が効果的に決められることを示す。また、同じハードウェアとアルゴリズムがミッションのターゲットの違いに有効に利用できることを示す。 以上をまとめると、ターゲットの画像データに基づくAUVのナビゲーションに対して提案した方法は、一つのアルゴリズムで幅広い応用範囲を持つことが示された。適切なデータ処理により、環境中の対象情報やノイズを含んだ画像データを使ってAUVのナビゲーションに対して重要な情報を抽出することに成功した。すなわち、AUVにとって欠くべからざる信頼性の向上とミッションの遂行能力を提供する。このようなシステムはAUVの能力を引き上げ、コンパクトかつ扱いやすいハードウェアは未知なる海中環境で用いる現実的なシステムである。 |