内容要旨 | | 1.緒言 新規なヘテロポリ酸触媒の開拓は新しい触媒設計の手法を提供するものとして注目を集めている。アルカン(C5-C7)の異性化反応は、主にガソリンのオクタン価向上法として重要である。現在、硫酸やフッ化水酸などの液体酸を触媒とするプロセスが工業化されているが、環境と腐食防止の視点から、SO42-/ZrO2やHZSM-5などの固体酸触媒による方法が望ましい。本研究では、まず、粘土層間に固定化した新規ヘテロポリ酸触媒について検討し、ついで、貴金属を複合したヘテロポリ化合物系のアルカン異性化用新規触媒の開拓と同反応における貴金属及び共存水素の役割の解明を試みた。 2.実験 Cs2.5H0.5PW12O40(Cs2.5と略す)はH3PW12O40(H3と略す)水溶液にCs2CO3水溶液を滴下し、蒸発乾燥して調製した。直接担持触媒(Pt/Cs2.5と略す)はH3水溶液にH2PtCl6水溶液を加え、さらにCs2CO3水溶液を滴下したのち、蒸発乾燥して得た。機械混合触媒(Pt+Cs2.5と略す)は還元したPt/Al2O3とCs2.5を重量比1:1で機械混合して調製した。反応は常圧固定床流通式反応装置で行った。直接担持触媒は573Kで、機械混合触媒は反応温度で水素中2h前処理した。アルカン(通常5%)、水素(0-95%)、窒素(バランス)混合ガスを用い、触媒量1g(Pt担持量1wt%)、通常、総流量10ml/min、423-523Kの条件で行った。 ハイドロタルサイト類粘土Zn2Al(OH)6NO3(ZnAl-NO3と略す)とヘテロポリ酸塩(HPAと略す)は文献1,2,3)の方法で合成した。ヘテロポリアニオン架橋陰イオン粘土(ZnAl-HPAと略す)は窒素雰囲気中、1NのHNO3でZnAl-NO3の懸濁液をpH5に調整した場合、時間経過とともに、活性が著しく低下した。また、Pt/Al2O3では、初期から低活性を示した。これに対し、Pt/Cs2.5とPt+Cs2.5は高い定常活性が得られた(Fig.4a)。Pt+SZは高い初期活性(47%)を示したが、急激な失活のために、定常活性は低くなった(9.4%)。Pt+Cs2.5は一番高い定常活性(34.8%)を示し、失活も見られなかった。ヘキサンの異性化反応における各触媒の経時変化はペンタンの異性化反応と類似していた。Pt+Cs2.5が最も高い定常活性(58.6%)と選択性(98.4%)を示した。すなわち、Pt+Cs2.5はアルカンの異性化に優れた触媒であることが明らかになった。 Fig.4.Time courses of n-pentane isomerization at 453K.(A):(□);Cs2.5,(△);Pt/Al2O3.(○);Pt/Cs2.5.and(●);Pt+Cs2.5.(B):(●);Pt+Cs2.5,(■);Pt+HZ.(▲);Pt+SZ.Feed gas:n-pentane;0.05atm.H2;0.05atm,N2 balance.W/F;40gh (mol n-pentane)-1. アルカンの異性化反応はカルベニウムイオン中間体を経由し、固体酸の酸量及び酸強度が活性と選択性に大きな影響を与える。Pt/Al2O3と混合したCs0-Cs3の中で、Cs2.5は表面酸量が最も多く、ヘテロポリ化合物の中で最高の定常活性を示した。強い酸点では異性化は進行しやすいが、コーキングも起こりやすく、失活が著しい。あとで議論するように、貴金属との複合化及び水素の共存により失活を抑制できるが、抑制の程度は酸強度による。Cs2.5の酸強度は、SZより弱い。そのため、Pt+Cs2.5は、Pt+SZより失活を抑制しやすく、定常活性が高い。また、Pt+HZより酸強度が大きいため活性が高い。そして、Cs2.5の酸点は酸強度の分布が均一であるため選択性も高い。すなわち、適当な酸強度と高い表面酸量と均一な酸強度分布がPt+Cs2.5が高い定常活性と選択性を得た原因であると推定される。 Fig.5にペンタン異性化反応の水素分圧依存性を示す。Pt+Cs2.5で水素非共存下では、初期活性は高いが、転化率は著しく低下した。水素分圧が高くなると、失活が次第に抑制された。水素はコーク及びコーク前駆体を水素化除去し、活性劣化の抑制に作用している。水素分圧の上昇とともに、反応初期活性が低下したことは、水素が、異性化反応自身も抑制していることを示唆している。そのため、最高の定常活性は、失活の抑制と異性化反応の抑制がバランスがとれた条件で得られる。水素分圧の上昇とともに、選択性は増加したので、水素は重合反応などの副反応も抑制していると考し、363KでHPAの水溶液をZnAl-NO3の懸濁液に滴下し、イオン交換法により得た。合成したZnAl-HPAを用いて、酢酸とn-ブタノールのエステル化反応を検討した。反応前に触媒(0.8g)を窒素中398Kで2h前処理して用いた。反応はメチルフェニルケトン溶媒は25ml、n-ブタノールは4.5ml、酢酸3.0mlを混合し、368Kで行った。 Fig.5.Effect of H2 partial pressure on n-pentane isomerization over Pt+Cs2.5.(▲);423K,(●);453K,(■);493K,(A);initial selectivity(after 5 min),(B);stationary selectivity(after 4h),(C);initial conversion (after 5 min),(D);stationary conversion (after 4h),n-pentane;0.05 atm,N2 balance,W/F;40gh mol-1.3.ヘテロポリアニオン架橋陰イオン粘土の合成、キャラクリゼーションと触媒特性1,2) 試料のXRDパターンをFig.1に示す。X線回折測定から得られたZnAl-HPAの底面間隔d(001)はZnAl-NO3の8.9Åから14.5Åに拡張した。ハイドロタルサイト壁の厚さ4.7Åを差し引いた層間距離は9.8Åとなり、ケギン型HPAの大きさ(9.8Å)に等しい値を示したことから、HPAが層間に導入されたと考えられる。ZnAl-HPAはXRDで8.9Åの回折線が観察されないことから、層間のNO3は完全にHPAに交換されたものと推定される。 Fig.1 Powder X-ray diffraction patterns(Cu-K)for representive products with spacings labelled in Å:(a)ZnAl-NO3,(b)ZnAl-PW11 VO40,(C)ZnAl-SiW11O39Co(H2O),(d)ZnAl-SiW9O37Co3(H2O)3 and(e)ZnAl-Ce111(SiW11O39)2 Fig.2にK4PW11VO40とZnAl-PW11VO40の31P MAS NMRに示す。K4PW11VO40は単一ピークを示したが(Fig.2a)、ZnAl-PW11VO40は面積比2:1の二つピークを示した(Fig.2b)。これはVの置換位置の異なる異性体のため、31Pのピークが分裂したと考えられる。層間にあるHPAのC2軸がZnAl層と直交する場合(Fig.3a)、ZnAl層に近いVの位置は8通りで、遠いVの位置は4通りとなり(Fig.3b)、ピーク強度比が2:1となることと対応している。一方、C3軸とZnAlが層直とする場合では、比は1:1である。従って、HPAのC2軸とZnAl層が直交する構造を推定した。この場合、一つのポリアニオンはZnAl層と8個の水素結合ができるため、安定化したと考えられる。このZnAl-HPAをエステル化反応の触媒に用いたところ、2hで転化率60%と、HPAのみを反応に用いた場合(15%)に比べ、活性が飛躍的に向上した。この時のエステル化選択率は100%であった。また、触媒を8回再生利用しても、失活が見られなかった。 Fig.231P MAS NMR spectra(161.9 MHz) of (a) PW11VO404- and (b) ZnAl-PW11VO40.Fig.3Differentiation of VO6 octrahedra in intercalated PW11VO4O4-;(a)near sheet and (b) in layer.4-1.白金-ヘテロポリ化合物によるペンタンとヘキサンの異性化3,4) Fig.4にペンタンの異性化反応に対する各触媒の経時変化を示す。Cs2.5を触媒とられる。 ペンタン異性化反応に対し、Cs2.5へのPt/Al2O3の添加効果から、Pt/Al2O3の添加とともに、Cs2.5の定常活性が向上したが、Pt/Al2O3の量は0.2g以上では活性と選択性はほぼ一定になった。 白金量依存性及び水素分圧依存性の結果は下記の二元機能機構の反応スキームでよく理解できる。 二分子機構については副生成物の生成が少ないことから、その寄与は小さいものと推定した。 4-2.白金-ヘテロポリ化合物によるへプタンの異性化5) ヘプタンの異性化反応では各触媒の失活が激しくなったが、Pt+Cs2.5のみ失活が見られなかった。定常活性と選択性をTable 1に示す。Pt+Cs2.5は39%の定常活性と92%の選択性を示した。水素吸着の結果から、1%Pt/Al2O3の吸着量はPt/Cs2.5より、著しく大きく、Pt/Al2O3のpt分散度が高いために、Pt+Cs2.5は高い選択性と小さい失活が示したものと考えられる。 Table 1.Product distribution in heptane isomerization over Pt/Al2O3+Cs2.5,Pt/Cs2.5,Pt/Al2O3+HZSM-5,and Pt/Al2O3+SO42-/ZrO2[参考文献]1)R.M.Taylor,Clay Miner.,19,(1984)591.2)D.P.Swith and M.T.Pope,Inorg.Chem.,12(1973),331.3)T.J.R.Weakley and S.A.Malik,J.Inorg.Nucl.Chem.,29,(1969)2935.[発表状況] 1)J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,(1996)121.2)Science in China(Sertes B)(Int.Eng.Ed.),39,(1996)87.3)Appl.Catal.A:General,in press.4)J.Mol.Catal.A:Chemical,in press. |
審査要旨 | | 本論文は、「新規ヘテロポリ酸触媒の開拓および貴金属-ヘテロポリ化合物によるアルカンの骨格異性化反応」と題し、粘土層間に固定化した新規ヘテロポリ酸触媒について検討し、ついで、貴金属を複合したヘテロポリ化合物系のアルカン異性化用新規触媒の開拓と反応機構を検討したもので、6章からなる。 第一章は序論である。触媒として用いたケギン型ヘテロポリ酸の構造及び触媒特性をまとめている。ヘテロポリ酸の物性および非均一相酸触媒としての既往の知見を整理し、本研究の目的として、エステル化反応とアルカン異性化反応に対し、新規触媒の開拓と反応機構の解明をあげている。 第二章はヘテロポリアニオン架橋ハイドロタルサイト層状化合物(ZnAl-HPAと略す)の合成、キャラクリゼーションと触媒特性の相関を検討している。X線回折測定による層間距離の変化から、HPAはハイドロタルサイトの層間に入ったことを確認し、イオン交換後にもHPAがその構造を保持していることをIRで、ハイドロタルサイト壁が変化していないことを27Al MAS NMRで確認している。イオン交換後、HPAの31P MAS NMRのピーク分裂したことから、HPAは層間で固定され、C2軸が層と直交すると推定している。合成したZnAl-HPA酢酸とブタノールのエステル化反応に高い活性を示すことを、また、繰り返し反応の結果から、ZnAl-HPAの耐久性が優れていることを見い出している。 第三章は白金-ヘテロポリ化合物によるペンタンの異性化反応の結果及び反応機構について述べている。活性低下の大きいCs2.5H0.5PW12O40と低活性であるPt/Al2O3を組み合わせ、高い定常活性が得ている。この機械混合触媒(Pt+Cs2.5と略す)は、白金と硫酸ジルコニアを組み合わせた触媒(Pt+SZと略す)や、白金とHZSM-5を組み合わせた触媒(Pt+HZと略す)と比較し、高い定常活性および定常選択性が得られたことを報告している。Cs2.5の酸強度はSZより弱いため、Pt+Cs2.5は、Pt+SZより失活を抑制しやすく、定常活性が高くなり、また、HZよりCs2.5は酸強度が強いため、Pt+Cs2.5は、Pt+HZより活性が高いと考えている。Pt+Cs2.5とPt+HZはともに失活しないが、Cs2.5の酸点は酸強度の分布が均一であるため選択性が高いと推測している。適当な酸強度、高い表面酸量、そしてと均一な酸強度分布がPt+Cs2.5が高い定常活性と選択性を得た原因であると推定している。水素の役割はコーク及びコーク前駆体の水素化除去による活性劣化の抑制、異性化反応自身の抑制、水素は重合反応などの副反応の抑制があると主張している。白金量依存性及び水素分圧依存性の結果は二元機能機構の反応スキームと対応していると考えている。異性化活性白金量依存性から、律速段階は白金量により、白金上での水素の引き抜きとヘテロポリ酸上での異性化反応とで変化することを明らかにしている。二分子機構については副生成物の生成が少ないことから、その寄与は小さいものと推定している。直接担持により、Pt/Cs2.5を調製しているが、Pt+Cs2.5に比べ、白金の分散度低く、活性が低いことを報告している。この結果を水素吸着により確認している。 第四章は第三章にひきつづき、Pt+Cs2.5をヘキサンの異性化反応に応用した。ヘキサン異性化反応の挙動はペンタン異性化反応と類似しており、Pt+Cs2.5が最も高い定常活性と選択性を示すことを見い出した。 第五章では、さらにPt+Cs2.5をヘプタンの異性化反応に応用してた。ヘプタンの異性化反応では各触媒の失活が激しくなったが、Pt+Cs2.5のみ失活が見られないことを報告している。Pt+Cs2.5は39%の定常活性と92%の選択性を示し、Pt+Cs2.5の触媒はアルカンの異性化反応に優れた触媒であることが明らかになている。 第六章は、本論文で得られた結果を総括したものである。 以上、本論文は、新規ヘテロポリ酸触媒の開発を行い、エステル化反応とアルカンの異性化反応に高い触媒活性を示すこと発見したことにはじまり、ヘテロポリ酸触媒の特性と反応機構を明らかにしたもので、触媒化学、石油化学、固体化学に貴重な貢献をしたものである。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |