本研究は、在宅の脳血管障害患者の主介護者を対象とした調査によって、在宅サービスの利用を促進または阻害する要因を明らかにすることを目的としたものである。本研究の特色は、サービスの利用に関わる介護者の認識や有効性の評価について面接調査を行うとともに、質問紙調査によって、訪問看護・ホームヘルパー・デイサービス・機能訓練の4種類のサービスについて、その利用意向と利用実績に関わる要因を比較したことである。研究結果は以下のとおりである。 1.在宅サービスの利用実績は、病院の機能訓練49%が最も高く、区のホームヘルパー12%、デイサービス12%、訪問看護3%であった。利用意向がある人のうち約半数は利用していなかった。 2.介護者がサービスに期待する内容は、専門的介護技術の提供と個別的な機能訓練であった。サービスの設置目的と利用者側の期待との乖離が不満足感をもたらし、適切な情報提供の必要性が示唆された。 3.各サービスに共通する要因はADLであり、入浴介助と訪問看護、排泄介助とホームヘルパー、食事の自立とデイサービス、入浴介助・衣服着脱の自立と機能訓練において利用実績の促進要因であったが、利用意向との関連は認められなかった。実際の利用はサービス供給側が提示する利用条件に左右されている現状が伺えた。 4.利用意向を促進する主な要因は、患者の性、続柄、利用体験、介護に対する肯定的認識、利用施設の近接性であり、利用実績は患者の性、年齢、ADL、拒否感など患者側の属性とニードによる影響が大きかった。患者の拒否感や不安感には、質の高いサービス提供が望まれる。 5.利用意向と利用実績に影響する要因には相違があり、患者と介護者の必要性の認識の違いやサービス供給側の体制に左右され、利用者側の選択の余地が少ないことが考えられた。今後、利用者の選択の幅を広げる施策が必要である。 6.今後の課題として、患者および介護者のサービス利用に対する認識・評価の過程や供給側の体制を考慮した分析枠組みを設定し、指標の妥当性を検討する必要がある。 以上、本論文は脳血管障害患者の介護者に対する調査によって、在宅サービスの利用を促進または阻害する要因を分析した結果、各サービスの設置目的と利用者側の期待が乖離していること、必要性に対する認識が患者と介護者では異なること、実際の利用状況はサービス供給側の体制に左右されていることを明らかにした。本研究はこれまで実証的に明らかにされることのなかった、在宅サービスの利用意向と利用実績の有無に影響する要因の相違を解明し、今後の在宅サービス利用の需要を予測する上で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |