本論文は「窒素酸化物の接触分解に関する研究」と題し、Cuを含むペロブスカイト、Cuイオン交換ゼオライトなどの触媒を用いて、一酸化二窒素、一酸化窒素分解反応を行い、Cuイオンの状態が触媒特性に及ぼす効果について両反応を対比しつつ検討したものであり、全5章からなる。 第1章は序論で、窒素酸化物の化学的性質およびそれらの除去触媒についての現状を解説するとともに本研究の目的、意義を述べている。 第2章では、La2CuO4のAサイトLaをSrで置換したときの一酸化二窒素分解活性を検討し、Cuの平均酸化数(AON)の増大と共に活性が増大するという一酸化窒素分解反応の場合に類似した関係を見出した。さらに、速度論的検討から、一酸化二窒素分解反応の活性サイトが配位不飽和3価になりやすい2価の表面Cuイオンであること、Cuの2価と3価の間のredoxサイクルにより一酸化二窒素分解反応が進行することを明らかにした。また、LaMO3およびLa2MO4(Mは3d元素(Cu,Co,Ni,Cr,Mn,Fe))におけるBサイトに存在する3d元素の効果について検討した結果、一酸化二窒素分解活性は、Coを頂点とする山型となることが明らかとなった。 第3章では、各種担体について表面Cuの割合と一酸化二窒素分解活性の関係に関する測定結果を比較検討している。表面Cu量は、ZSM-5(Zと略す)では全担持Cu量に対して80%強、モルデナイト(M)では50〜60%、Yゼオライト(Y)では20%弱、Cu/アルミナにおいては20%弱であることを示し、この結果にもとづいて、TOF(表面銅当たりの反応速度)で比較した一酸化二窒素分解活性の序列は、Cu/Z-142>>La1.5Sr0.5CuO4>>Cu/M-63=Cu/Y-80>Cu/アルミナであることを明らかにした。Z-142はZSM-5ゼオライトを142%相当Cu置換したものである。Cu/Z-142が高活性である理由は、表面に1価Cu+が多量に存在し、Cuの1価と2価の間のredoxサイクルが進行しやすいことによると結論した。La1.5Sr0.5CuO4触媒の活性(TOF)がモルデナイト、Yゼオライトなどより高いのは、原子価制御効果によりCuの2価/3価のredoxサイクルが進行しやすいためであると推論している。 第4章では、Cu/ZSM-5とCu/Yゼオライトによる一酸化二窒素、一酸化窒素分解反応を検討し、両者の分解速度がゼオライト構造により大きな影響を受けることを明らかにしている。一酸化窒素吸着実験を行いこの原因を検討した結果、ZSM-5ゼオライト中のCu+種量がYゼオライトよりも多量であることを明らかにした。すなわち、Cuイオンの状態がゼオライト構造により変化していることを結論している。 第5章は総括である。 以上、本論文は、担持状態の異なるCu触媒による一酸化二窒素と一酸化窒素分解反応を取りあげ、ペロブスカイト複酸化物触媒において著しい原子価制御の効果があること、触媒活性が、担体、担持量に非常に敏感でその理由が主としてCuの酸化状態の安定性によることを明らかとしたものであり、触媒工学、環境化学に貢献するものである。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |