本論文は、「環境大気中におけるNOxの反応挙動解析に関する研究」と題し、燃焼プロセスから排出されるNOxの大気中でのNO→NO2変換挙動を明らかにしたもので、6章からなる。 第1章は序論であり、本研究の背景と目的について述べるとともに、既往の研究について概説し、本論文の研究方針を明らかにしている。 第2章では、燃焼プロセスから排出されるNOxの排出口近傍でのNO→NO2変換を明らかにするために、反応モデルを作成し、それを用いてNO→NO2変換挙動について検討した結果を述べている。まず、排出口近傍でのNO→NO2変換を説明するため、常温、大気中でのNOxの反応に高温領域でメタンの関与する反応を組み込んだ新たな反応モデルを提案し、実験結果との比較により、提案した反応モデルが常温から高温までの広範囲の領域において適用可能であることを確かめている。次に、燃焼排気中の反応性基質が排出口近傍のNO→NO2変換におよぼす影響を明らかにするため、提案した反応モデルを用いて高温領域における反応計算を行い、燃焼排気中にメタンが存在する場合、NO→NO2変換が急速に進行する可能性があることを指摘している。また、燃焼排気中の酸素濃度、一酸化炭素濃度、太陽光の光強度の増大に伴い、燃焼排気中のNO2濃度が増大する可能性を指摘している。 第3章では、広範囲の温度およびNOx濃度においてNO→NO2変換に関わる反応機構を明らかにするため、第2章で提案した反応モデルを用い、感度解析を行っている。その結果、メタンが存在する場合、高温では、NOのNO2への酸化は、従来重要とされてきたNO+HO2→NO2+OHだけではなく、NO+CH3O2→NO2+CH3Oによっても進行すること、また、NO2消費反応は、従来重要とされてきたNO2+H→NO+OHだけでなく、NO2+O(3P)→NO+O2も重要であることを指摘している。一方、常温では、NOx濃度が2ppm程度から2NO+O2→2NO2の寄与が重要になり、NOx濃度が100ppm付近では、NO2消費反応としてO(3P)+NO2→NO+O2が無視できなくなるとしている。 第4章では、移流・拡散を伴う燃焼排気中のNO→NO2変換におよぼす排出条件の影響を検討するため、燃焼排気の構造が一次元予混合火炎モデルと同様であると仮定し、第2章で提案した反応モデルを簡単化したモデルを作成し、それを用いて、燃焼排気中の移流・拡散にともなう温度の低下および体積の膨張を考慮に入れた反応計算を行い、種々の条件下で燃焼排気中のNO2/NOx濃度比を算出している。その結果、燃焼排気中のメタン濃度や酸素濃度の増大に伴い、燃焼排気中のNO2/NOx比は増大するが、太陽光の光強度の増大に伴い、NO2/NOx濃度比は低下することを示している。次に、排出口近傍での燃焼排気中におけるNOからNO2への酸化機構を明らかにするため感度解析を行った結果、高温でメタン存在下でのNO→NO2変換を説明する反応としては、第3章において提案したものが重要であるとしている。 第5章では、燃焼プロセスから排出されたNOxの排出口近傍からさらに離れた場所でのNO→NO2変換におよぼす各種要因の影響を検討するため、排出口から10mまでの近距離、および排出口から10kmまでの遠距離における煙流中のNO2濃度分布を計算し、各種排出条件および気象条件等の影響について検討している。その結果、排出口から10mまでの近距離では、煙流断面でのNO2濃度が、NOxやメタンの排出濃度によっては環境基準を大幅に上回る結果となり、排出口近傍での急速なNO酸化がそれ以降のNO→NO2変換に影響をおよぼすとしている。また、煙流断面でのNO2濃度分布は排出NOx濃度に比例して増大し、排出時のNOx濃度、NO2/NOx濃度比、排出量の増大とともに煙流断面でのNO2濃度は増大するが、バックグラウンドオゾンおよび光強度は顕著な影響をおよぼさないとしている。一方、排出口から10kmまでの遠距離では、排出時のNOx濃度の増大、炭化水素度の減少および大気安定度の低下に伴い、煙流中のNO2/NOx濃度比は増大することを示しており、バックグラウンドオゾンおよび光強度は、煙流中のNO2/NOx濃度比をわずかに増大させることを示している。 第6章は総括であり、本論文により得られた成果をまとめている。 以上要するに、本論文は、燃焼プロセス等において排出されるNOxの排出口近傍および移流・拡散下におけるNO→NO2変換の反応挙動を明らかにしたもので、燃焼プロセス等の環境アセスメント手法を開発する上で貴重な知見を与えるものであり、大気環境化学および化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |