学位論文要旨



No 113774
著者(漢字) 伊達,新吾
著者(英字)
著者(カナ) ダテ,シンゴ
標題(和) 環境大気中におけるNOxの反応挙動解析に関する研究
標題(洋)
報告番号 113774
報告番号 甲13774
学位授与日 1998.05.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4214号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田村,昌三
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 藤元,薫
 東京大学 助教授 新井,充
 東京大学 助教授 堤,敦司
内容要旨 1.序論

 大気汚染物質の一つであるNOxは主に燃焼プロセスにおいて生成し、排出後に環境大気中を移流・拡散しながらNOからNO2へと酸化される。NO2は生体や材料にとって有害な化学種である。また、条件によっては光化学反応により有害な光化学オキシダントや酸性雨を発生させる。そのため、住宅地付近に小規模の燃焼プロセスを設置する場合、NOxの排出が周囲におよぼす影響について環境アセスメントを行い、必要によりNOx排出量を適正に制限する必要がある。

 本研究は、メタンを主燃料とする燃焼プロセスから排出される燃焼排気中のNOxの大気中の移流・拡散過程でのNO→NO2変換について反応機構の推定および環境影響評価を行い、排出規制に関する提言を行うことを目的としている。

2.排出口近傍でのNOx反応のモデル化2.1.反応モデルの作成および妥当性の検証

 NOxと炭化水素による大気中での光化学反応については数多くの研究がなされ、燃焼排気が十分に希釈された移流・拡散下での反応モデルについては数多く存在する。しかし、燃焼排気の温度が高く、NOx濃度も高い排気口近傍でのNOの酸化反応を記述するモデルは少ない。そこで本章においては、燃焼排気の温度が高く、NOx濃度も高い排出口近傍でのNO→NO2変換に関する知見を得るために新たに反応モデルを作成した。作成した反応モデルは、光分解反応を含む、常温および高温領域でのNOxおよびメタンの酸化反応を記述するもので、246式からなっている。その妥当性を検証するために、常温では石英ガラスチャンバーおよびテドラーバッグ製スモッグチャンバーによる反応実験を行い、高温領域では村上ら1)の流通系反応実験の実験結果を引用して、反応計算と実験との比較を行った。

 比較の一例として、温度領域400〜800℃での流通系反応実験で求めたNO→NO2変換率の実験値と計算値の比較を図1に示す。温度領域500〜800℃では、メタンの添加によりNO→NO2変換が急速に進行することがわかる。また、NO→NO2変化率が最高値を示す反応温度については、実験結果と計算結果との差は50℃以内であり、変換率の最高値はほぼ一致した。このことから、作成した反応モデルは、検討した温度領域で充分適用できるものと思われる。また、常温においても様々な条件で実験値と計算値がよく一致したことから、作成した反応モデルは、常温および比較的高温の領域で適用可能であることが示された。

図1 流通系反応実験におけるNO→NO2変換率の実験値と計算値の比較NO100ppm,O2 5vol.%,CH4 0.1vol.%
2.2.定温定積条件を仮定した場合の排出口近傍でのNO→NO2変換におよぼす影響

 次に、燃焼排気中の反応性基質が排出口近傍のNO→NO2変換におよぼす影響について検討するため、作成した反応モデルを用いて、定温定積条件を仮定した場合について反応計算を行い、燃焼排気の温度、燃焼排気中の酸素濃度、メタン濃度、CO濃度、H2O濃度、大気中の光強度を変化させた場合の反応開始後1s以内のNO2濃度の経時変化を推算した。反応計算にはSENKIN2)を用いた。

 計算結果の一例として、燃焼排気温度を873Kとし、燃焼排気中のメタン濃度を変化させた場合のNO2濃度の経時変化の計算結果を図2に示す。燃焼排気中のメタン濃度の増大とともにNO→NO2変換の促進が見られた。その他の計算結果としては、燃焼排気中の酸素濃度、CO濃度の増大に伴い燃焼排気中のNO2/NOx比が増大し、大気中の光強度については、0〜0.7min-1の範囲内での増大に伴いNO2/NOx比が増大する傾向が示された。水蒸気濃度の影響はほとんど見られなかった。

図2 NO2濃度の計算値の経時変化燃焼排気中のCH4濃度の影響NOx 100ppm,O2 15vol.%,光強度0.3min-1.温度873K
3.排出口近傍でのNO→NO2変換の反応解析

 燃焼プロセスにおいて排出された燃焼排気は、移流・拡散により希釈し、温度も低下するため、その過程でNO酸化の反応機構が変化することが考えられる。そこで本章では、幅広いNOx濃度範囲および温度範囲でのNO→NO2変換に関わる反応機構について検討を行うことを目的として、2.で妥当性を検証している反応モデルを用いて、定温定積条件を仮定して常温および高温領域、NOx濃度が高い場合および低い場合について感度解析を行い、NO2濃度についての各素反応の感度係数の経時変化を算出した。高温でのメタン存在下の反応機構の推定については、反応条件をNOx 100ppm、NO/NOx濃度比0.9、O2 15vol.%、CH4 0.1vol.%、H2O 15vol.%、大気中の光強度0.3min-1、温度873Kとし、反応時間を1sとした。感度係数が正の方向に高い素反応ほどNO2生成に大きく寄与し、負の方向に高いものほどNO2消費に大きく寄与する。常温、乾燥系についても、NOx濃度が1〜100ppmの範囲でのNO2濃度についての感度解析を行った。

 反応機構について検討した結果、温度873Kにおいては、NOの酸化は図3に示すようなメタンの酸化過程で素反応NO+HO2→NO2+OHおよびNO+CH3O2→NO2+CH3Oにより進行することが示された。NO2消費反応については、NO2+H→NO+OHだけでなく、NO2+O(3P)→NO+O2も重要であることが示された。また、常温においては、NOx濃度が2ppm付近で反応2NO+O2→2NO2が重要になり、また、NOx濃度が100ppm付近から反応O(3P)+NO2→NO+O2によるNO2消費反応が無視できなくなることが示された。

図3. 感度解析により推定された、873KでのNO酸化機構
4.排出口近傍でのNO→NO2変換におよぼす影響の検討

 2.および3.では、燃焼排気が温度一定、体積一定と仮定してNO→NO2変換の反応機構の推定および排出条件の影響の検討を行った。ところが、実際には排出直後に燃焼排気の移流・拡散による濃度希釈および温度低下が生じるため、先に得られた知見がそのまま適用できるとは限らない。そこで、移流・拡散に伴う燃焼排気中の排出条件の影響について検討するため、煙流が一次元であると仮定して反応計算を行い、燃焼排気中のNO2/NOx濃度比を算出した。プログラムとしてPREMIX3)を用いた。燃焼排気の拡散は、煙流の断面積の拡大により表現した。反応モデルは、定温定積条件のもとで行った感度解析ではNO→NO2変換にほとんど影響を与えなかった反応経路を省略するなどして、130式に簡略化したものである。反応モデルの妥当性について検討するため、2.と同じく村上ら1)の流通系反応実験における滞留時間経過後のNO→NO2変換率の実験値と計算値との比較を行った結果、反応モデルが充分に妥当であることが示された。

4.1.移流・拡散を考慮した場合の排出口近傍でのNO→NO2変換におよぼす影響

 実際に近い条件における排出口近傍のNO→NO2変換を検討するため、まず、煙道中において定温定積条件を仮定して所定の排出条件において反応開始後1s以内の反応計算を行い、反応終了時の各化学種濃度の計算結果を出力した。それを排出口近傍での反応計算の初期条件として、排出口から0.5m離れた箇所までの燃焼排気中のNO2/NOx濃度比の変化を算出した。検討した影響因子は、排気温度、排出NOx濃度、燃焼排気中のO2濃度、メタン濃度、H2O濃度、CO濃度、大気中の光強度である。

 計算結果の一例として、燃焼排気中のメタン濃度を変化させた場合の、排出口からの距離に対する燃焼排気中のNO2/NOx濃度比の変化を図4に示す。メタン濃度の増大とともにNO2/NOx濃度比の増大が見られ、メタン濃度が1000ppmの場合、排出口から0.1mにおいてNO2/NOx濃度比が0.9に達した。その後、0.3mまでほぼ一定になり、それ以降はNO2/NOx濃度比の減少が見られた。そのほか、燃焼排気中のO2濃度の増大に伴い燃焼排気中のNO2/NOx比が増大し、大気中の光強度の増大に伴いNO2/NOx比が減少することが示された。また、H2O濃度およびCO濃度の増大に伴い、わずかなNO2/NOx比の増大しか見られなかった。計算結果より、排出源からの高濃度のNO2の発生を抑制するためには、燃焼排気中のNOx濃度を抑制することのみならず、例えばNO濃度が100ppmの場合、メタン濃度を200ppm以下、酸素濃度を5vol.%以下、排気温度を573K以下に抑制し、夜間での排出を控えることが必要であることが考えられる。

図4. 燃焼排気中のNO2/NOx濃度比の変化燃焼排気中のCH4濃度の影響煙道中の反応計算の初期条件NO 100ppm,O215vol.%,873K
4.2移流・拡散を考慮した場合の排出口近傍でのNO→NO2変換機構の推定

 次に、排出口近傍における燃焼排気中のNO酸化機構について検討するため、燃焼排気中の移流・拡散に伴う温度の低下および体積の膨張を考慮に入れてNO→NO2変換に重要と思われる素反応について感度解析を行い、排出口からの距離に対する感度係数の変化を比較することにより主要な素反応の抽出を行った。その結果、排出温度を873Kとしたときのメタン存在下でのNO→NO2変換の反応機構は、素反応NO2+h→NO+O(3P)が新たにNO2消費に重要であることのほかは、図3と同様のものが推定された。

5.燃焼プロセスから発生するNOxの環境影響評価

 2.および4.では、燃焼プロセスの燃焼排気中に含まれる未燃メタンは、排出直後の高温領域においてNC→NO2変換を急速に促進する可能性があることが示された。その次の段階として、排出口近傍での急速なNO酸化がさらに遠距離でのNO→NO2変換にどのように影響をおよぼすかについて評価する必要がある。

 そこで、燃焼プロセスにおいて排出された燃焼排気がさらに離れた箇所での煙流中のNO2濃度分布に与える影響について検討するため、まず最初に、排気口での燃焼排気中のNOx濃度、燃焼排気の排出量、排出温度、排出高さなどの排出条件を変えた場合およびバックグラウンドオゾン濃度、大気中の光強度、風速などを変化させた場合について、排出口から10m離れた箇所での煙流断面のNO2濃度分布を求めた。移流・拡散モデルとしてはプルームモデルを用いた。組み込む反応モデルとしては、大気中の非メタン炭化水素による光化学反応がNO→NO2変換に関与せず、式(1)〜(3)からなる無機反応のみにより燃焼排気中のNOが酸化されてNO2濃度が定常状態に到達すると仮定する光定常近似モデル4)を用いた。

 

 

 

 計算結果の一例として、燃焼排気中のNOx濃度を100ppmとした場合の排出口から10mでの煙流断面のNO2濃度分布を図5に示す。排出口から10m離れた箇所でも煙流断面でのNO2濃度が環境基準を大幅に上回る箇所が見られた。煙流断面でのNO2濃度分布が排出NOx濃度に比例して増大していることが推定される。また、排出NOx濃度、排出NO2/NOx濃度比、排出量の増大とともに煙流断面でのNO2濃度が増大し、風速の増大とともに煙流断面でのNO2濃度が減少した。バックグラウンドオゾンおよび光強度の影響は見られなかった。また、検討を行ったいずれの排出条件でも、排出口から10m以内の煙流断面でのNO2濃度は、箇所によっては環境基準を大幅に上回る結果が得られ、燃焼排気中のメタンによる排出口近傍での急速なNO酸化により、排出口付近で高濃度のNO2が発生する可能性が示された。

図5 排出口から10mの煙流断面でのNO2濃度分布排出NOx濃度100ppm、NO/NOx0.3、排出量1mS、排出高さ1m、バックグラウンドオゾン濃度0.01ppm、NOx濃度0.02ppm、大気中の光強度0.3min,風速3.5ms,気温298K

 次に、排出口から10km以内での環境影響について検討するため、片谷が作成したPlume3モデル5)を改良したものに、パラフィン、オレフィン、芳香族、アルデヒドの4成分からなる炭化水素を扱う簡易反応モデルであるS-HSDモデル6)と高温でのメタンの酸化反応を組み合わせた反応モデルを組み込んで様々な排出条件について反応計算を行い、排出源からの距離に対する煙流中のNO2/NOx比および煙流断面でのNO2/NOx比を算出した。計算結果の一例として、煙流中のNO2/NOx比に与える排出NOx濃度の影響を図6に示す。NOx濃度の増大に伴い煙流中のNO2/NOx濃度比の増大が示された。排出源から2kmでの煙流断面でのNO2/NOx比についても検討した結果、排出NOx濃度が25ppm以下の場合、煙流中のNO2濃度が0.1ppm以下と低くなることが推定された。また、炭化水素濃度および大気安定度の減少に伴い煙流中のNO2/NOx濃度比の増大が示された。オゾンおよび光強度の影響については、煙流中のNO2/NOx濃度比の増大がわずかながら示された。逆に、風速の増大に伴い煙流中のNO2/NOx濃度比の減少が示された。

図6 煙流中のNO2/NOx濃度比の変化排出NOx濃度の影響炭化水素0.1ppmC.バックグラウンドオゾン0.01ppm.風速2.5ms.光強度0.3min1.大気安定度C
6.総括

 本研究は、燃焼プロセスから排出される燃焼排気中のNOxの大気中の移流・拡散過程でのNO→NO2変換について反応機構の推定および環境影響評価を行うことを目的として、化学種の光分解反応を含む、常温および高温領域でのNOxおよびメタンの酸化反応を記述する反応モデルを新たに作成し、その妥当性について検証を行った上で、燃焼排気が体積一定、温度一定の場合、燃焼排気中の移流・拡散に伴う温度の低下および濃度の希釈を考慮に入れた場合について、排出口近傍でのNO→NO2変換の反応機構の推定および様々な排出条件の影響の検討を行った。その結果、排出口温度が573K以上と高い場合、排出口近傍ではメタンの酸化過程でNO→NO2変換が急速に進行することが示された。

 次に、排出口からさらに離れた箇所での煙流断面のNO2濃度分布および煙流中のNO2/NOx濃度比を試算した結果、燃焼排気中のメタンの存在による排出直後のNO2/NOx比の増大により、排出口付近で高濃度の有害なNO2が発生する可能性が示された。そして、排出源からの高濃度のNO2の発生を抑制するためには、燃焼排気中のNOx濃度を抑制することのみならず、燃焼排気中のメタン濃度、酸素濃度、排気温度を抑制し、夜間での排出を控えることが必要であるということが示唆された。

7.文献1)村上信明、小嶋信之、橋口稔、燃料協会誌、61、276〜284(1982)2)Kee,R.J.;Rupley,F.M.;Miller,J.A.:CHEMKIN-II:A Fortran chemical kinetics package for the analysis of gasphase chemical kinetics,SAND89-8009B(1991)3)Kee,R.J.;Grcar,J.F.;Smooke,M.D.;Miller,J.A.:A Fortran program for modeling steady laminar one-dimensional premixed flames,Sandia Rep.,SAND85-8240B(1985)4)木村富士男、大気汚染学会誌、13、2(1978)5)片谷教孝、東京大学大学院工学系研究科反応化学専門課程博士論文(1983)6)竹山象三、吉田忠雄、産業公害、13,1094(1977)
審査要旨

 本論文は、「環境大気中におけるNOxの反応挙動解析に関する研究」と題し、燃焼プロセスから排出されるNOxの大気中でのNO→NO2変換挙動を明らかにしたもので、6章からなる。

 第1章は序論であり、本研究の背景と目的について述べるとともに、既往の研究について概説し、本論文の研究方針を明らかにしている。

 第2章では、燃焼プロセスから排出されるNOxの排出口近傍でのNO→NO2変換を明らかにするために、反応モデルを作成し、それを用いてNO→NO2変換挙動について検討した結果を述べている。まず、排出口近傍でのNO→NO2変換を説明するため、常温、大気中でのNOxの反応に高温領域でメタンの関与する反応を組み込んだ新たな反応モデルを提案し、実験結果との比較により、提案した反応モデルが常温から高温までの広範囲の領域において適用可能であることを確かめている。次に、燃焼排気中の反応性基質が排出口近傍のNO→NO2変換におよぼす影響を明らかにするため、提案した反応モデルを用いて高温領域における反応計算を行い、燃焼排気中にメタンが存在する場合、NO→NO2変換が急速に進行する可能性があることを指摘している。また、燃焼排気中の酸素濃度、一酸化炭素濃度、太陽光の光強度の増大に伴い、燃焼排気中のNO2濃度が増大する可能性を指摘している。

 第3章では、広範囲の温度およびNOx濃度においてNO→NO2変換に関わる反応機構を明らかにするため、第2章で提案した反応モデルを用い、感度解析を行っている。その結果、メタンが存在する場合、高温では、NOのNO2への酸化は、従来重要とされてきたNO+HO2→NO2+OHだけではなく、NO+CH3O2→NO2+CH3Oによっても進行すること、また、NO2消費反応は、従来重要とされてきたNO2+H→NO+OHだけでなく、NO2+O(3P)→NO+O2も重要であることを指摘している。一方、常温では、NOx濃度が2ppm程度から2NO+O2→2NO2の寄与が重要になり、NOx濃度が100ppm付近では、NO2消費反応としてO(3P)+NO2→NO+O2が無視できなくなるとしている。

 第4章では、移流・拡散を伴う燃焼排気中のNO→NO2変換におよぼす排出条件の影響を検討するため、燃焼排気の構造が一次元予混合火炎モデルと同様であると仮定し、第2章で提案した反応モデルを簡単化したモデルを作成し、それを用いて、燃焼排気中の移流・拡散にともなう温度の低下および体積の膨張を考慮に入れた反応計算を行い、種々の条件下で燃焼排気中のNO2/NOx濃度比を算出している。その結果、燃焼排気中のメタン濃度や酸素濃度の増大に伴い、燃焼排気中のNO2/NOx比は増大するが、太陽光の光強度の増大に伴い、NO2/NOx濃度比は低下することを示している。次に、排出口近傍での燃焼排気中におけるNOからNO2への酸化機構を明らかにするため感度解析を行った結果、高温でメタン存在下でのNO→NO2変換を説明する反応としては、第3章において提案したものが重要であるとしている。

 第5章では、燃焼プロセスから排出されたNOxの排出口近傍からさらに離れた場所でのNO→NO2変換におよぼす各種要因の影響を検討するため、排出口から10mまでの近距離、および排出口から10kmまでの遠距離における煙流中のNO2濃度分布を計算し、各種排出条件および気象条件等の影響について検討している。その結果、排出口から10mまでの近距離では、煙流断面でのNO2濃度が、NOxやメタンの排出濃度によっては環境基準を大幅に上回る結果となり、排出口近傍での急速なNO酸化がそれ以降のNO→NO2変換に影響をおよぼすとしている。また、煙流断面でのNO2濃度分布は排出NOx濃度に比例して増大し、排出時のNOx濃度、NO2/NOx濃度比、排出量の増大とともに煙流断面でのNO2濃度は増大するが、バックグラウンドオゾンおよび光強度は顕著な影響をおよぼさないとしている。一方、排出口から10kmまでの遠距離では、排出時のNOx濃度の増大、炭化水素度の減少および大気安定度の低下に伴い、煙流中のNO2/NOx濃度比は増大することを示しており、バックグラウンドオゾンおよび光強度は、煙流中のNO2/NOx濃度比をわずかに増大させることを示している。

 第6章は総括であり、本論文により得られた成果をまとめている。

 以上要するに、本論文は、燃焼プロセス等において排出されるNOxの排出口近傍および移流・拡散下におけるNO→NO2変換の反応挙動を明らかにしたもので、燃焼プロセス等の環境アセスメント手法を開発する上で貴重な知見を与えるものであり、大気環境化学および化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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