本論文は5章からなり、第1章はIntroduction、第2章は全宇宙の星形成史、第3章はガンマ線バースト(GRB)と星形成史との関連、第4章はガンマ線バースト(GRB)でのTeVガンマ線放出について、各々、観測結果の解析や理論モデルの構築を行ない、既存の研究結果と比較検討している。最後の第5章では、それらの結果をまとめ、その意義や既存の研究結果の違いを評価し、将来への展望を述べている。 博士論文提出者が、本論文で展開した新しい知見は、最近宇宙物理学の中心テーマとなってきた、ガンマ線バーストと呼ばれる極めて特異な現象に関するものである。 第2章では、宇宙の星形成史および銀河の光度密度の進化モデルを構築し、観測データとの整合性を調べている。ここで(銀河の)光度密度とは、単位体積の中にある銀河の明るさを積分したものである。赤方偏移(z)=0-1の範囲で光度密度をzの関数として変化する様子(進化)を観測と比較したところ、モデルで使う宇宙論パラメータに強く依存性することがわかった。そして、宇宙定数がゼロでない宇宙モデルが、観測データに良く合うこと見い出した。この解析では、過去に楕円銀河が爆発的な星形成を経験したとするの標準シナリオと観測データが大きく矛盾するが、本著者は、紫外線観測における宇宙塵の影響などを考慮すれば解決できる可能性があると結論している。 第3章では、本論文の目玉の一つである、ガンマ線バーストと宇宙の星形成史の関係について論じている。ガンマ線バースト(GRB)の空間分布は非常に等方的であるが、明るさ分布では暗いものほど数が少なくなっている。後の事実は、GRBが宇宙論的な距離にあることで説明されている。本論文提出者は、はじめて、宇宙論的な効果の他に、GRBの発生頻度の時間的進化も反映されているはずであることを指摘した。GRBのモデルのほとんどは、大質量星の最期の重力崩壊や中性子星生成に関連するものであるが、そうすると、GRBの明るさ分布は宇宙全体の星形成率の時間的進化、すなわち宇宙の星形成史を反映しなければならない。この仮説に基づき、コンプトン衛星で観測されたGRBの明るさ分布と、宇宙の星形成史との間の整合性を調べている。 最もよく議論されている連星中性子星合体モデルを、銀河の進化モデルと宇宙の星形成史を用いて調べたところ、観測されているGRB分布とよく一致することを見い出した。このシナリオが正しいと、観測された星形成率が過去に向かって増大して行くために、ガンマ線バーストの距離指標は、星形成史を考慮しなかった場合よりも遠くなる。具体的には、今までは最遠方のGRBの赤方偏移がz=1程度と考えられていたが、z=2-4程度に伸びることになる。 第4章では、本論文の第二の主要課題である、ガンマ線バーストからのTeVガンマ線放射について、議論を展開している。その前提となるのが、宇宙論的な距離にあるガンマ線バーストから、地上のAir Shower検出器(チェレンコフ光望遠鏡またはシンチレーター・アレー)で、TeV領域のガンマ線が受かったとの報告である。 TeVを越えるエネルギーのガンマ線は、銀河間赤外線背景放射と衝突し、電子・陽電子対生成を起こすため、地球に達するまでに数100分の1にまで吸収される。幾つかの観測グループの、方向・時間共にGRB起源と矛盾しないTeVガンマ線が検出されたとの報告が事実なら、GRBでは、巨大なエネルギーがTeV領域で放出されていることになる。これはガンマ線バーストの標準的な理解に大きな変更を迫る。本論文の著者は、このようなTeVガンマ線は1020eVという超高エネルギー陽子によるシンクロトロン放射で放出されるというモデルを作り、地上での観測を説明する。この解釈が正しければ、地上で観測される超高エネルギー荷電粒子宇宙線もGRBで加速されているという説に強いサポートを与える。 本論文の第2章の内容は、既に2篇の論文として公表済あるいは印刷中である。一篇は佐藤勝彦氏と吉井譲氏、もう一つは吉井譲氏との共著であるが、本論文提出者が主としてデータを解析し、理論計算を行なったもので、本論文提出者の寄与が大きいと判断した。また第3章の内容は、単独で、2篇の論文として公表済あるいは投稿中である。第4章の内容も、単独で掲載される予定である。これらの内容もすでに学会で高い評価を得つつある。本論文の内容は宇宙物理学、とくにガンマ線バーストを通して宇宙論に新しい観点を加えた意義は大きく、博士(理学)の学位を授与するに十分であると認める。 |