雲母に関した理論的及び実験的研究が多くなされたにもかかわらず、次の三つの問題はまだ完全には解決していない。1)長周期多型(ポリタイプ)の積層の同定法。2)双晶の存在の確認と双晶則の一般的同定法。3)複合積層を含む多型の形成機構の信頼できるモデル。本研究はこの三つの問題にわたり、理論的な結果の正当性を複雑な多型と双晶に関して得た実験的な結果で確実に確かめた。オキシ黒雲母中にc軸周期80Å、150Åの多型及び複合双晶を発見し、同定の理論的方法を用い、積層順序及び双晶則を明らかにした。この積層順序の一つは今まで発見された基幹シリーズに属さないものであるが、その積層を説明できるモデルを提唱した。 雲母多型は厚さ約10Åの単位層をその面方向の周期の上a/3ずらせたN層を積み重ねたものである。雲母多型の積層順序を決定するには、回折パターンの周期的強度分布(Periodic Intensity Distribution:PID)を解析すると容易に行える(Takeda,1967;Sadanaga and Takeda,1969;Takeda and Sadanaga,1969;Takeda and Ross,1995)。以前の研究におけるこの強度分布の計算法には、対称による構造モデルの空間的方位の制限が完成されていなかった。本研究では、記号を統一し、その制限を入れ、計算法を最も一般的に改善した。計算されるPIDは雲母多型の回折パターンの一般的な指数付法と常に矛盾のない単斜晶系の角度を保つ軸に沿って現われる(Nespolo et al.,1998)。これによりPIDの原点が一義的に決定できるようになり、計算価と実験価のPIDを順列回して転比較する必要がなくなった。これは15層に対して、2.424.240回の計算を80.808回に簡略化する上で役立つ。 雲母の実験的な研究に対して、もう一つの重大な障害は双晶の存在の可能性である。双晶の有無の確認は絶対的な多型積層決定の前提であり、その確認無しにPIDによる強度分析と積層同定は原則的に不可能となる。雲母双晶の回折パターンにはc*軸に沿って3の倍数の反射が現れる。実際に、雲母では双晶が頻繁に生じるにもかかわらず、雲母双晶の回折実験が非常に数少ない理由は、そのような回折パターンを示す結晶が手を付けられずにいたことによる。本研究では、双晶の有無を確認するための一般的規準を確立した。最も基本的な多型の場合、この規準を用いて反射の数とc*に垂直な線に沿ったその反射の位置を考慮するだけで、双晶の有無を判断できるようになった。逆格子のc*軸に平行な点列上の反射の有無から、結晶格子にも双晶格子にも幾何学的に独立な逆格子点列が9つしかないということを導いた。その9つの逆格子点列は「最小菱形単位」という菱形をしている非対称単位の対角線と端に配置されている。その9つの点列の最小菱形単位中の配置とそれぞれの点列上の反射の配置から双晶則を判断する方法を確立した。 この理論的研究に立脚し、この研究で新たに発見された米国ルイズピーク産オキシ黒雲母の8層(8A2)、15層多型(15A1)の積層順序を決定した。特に、15層多型は(a=5.3Å,b=9.2Å,c=150.0Å,=91.2°.=90°,=90°)層数が3の倍数だが双晶の可能性がないことを理論的に証明した上で、決定された積層順序はRTW記号によると222022220220である。今迄の方法では積層順序決定も不可能であれば形成機構の説明も不可能である。 長周期多型は渦巻き成長によって形成されると考えられている。最も頻繁に形成される雲母多型は「基幹構造」と名付けられている短周期多型(1M、2M1、3T)であり、その多型の渦巻き成長が摂動される事により長周期多型が形成されると考えられる。基幹構造の積層順序に直接的に関連付けられている長周期多型が幾つか発表されいる。しかし、本研究で見付かった15層の多型の積層は3Tという基幹構造の積層に非常に複雑に関連していて、二つの副周期が見られ、その一つが二回起こる上に、もう一つの副周期が含まれる。この様に複雑な積層順序を持っている多型の形成機構モデルを提唱した。このモデルでは二つ以上の要素が相互に作用し、共成長を起こす事により、長周期多型が形成される。共成長する要素とはa)板状結晶の側面に付着した小結晶b)織り交ぜた渦巻き(interlaced spirals)c)渦巻成長しつつある結晶とその表面に付着した微小結晶[1]が考えられる。この様な共成長では、層間陽イオン位置の|b|/3に関してのズレが起こる可能性があり、それを修復するのに二つの機構が考えられる。 1.界面の上に成長しつつあるTOT層の下の四面体の1列が抜けて、(OH,F)の位置が|b|/3の移動する。 2. 共成長している要素の大きさが充分に異なる場合は八面体には|b|/3の結晶スベリが起こる。 上記の機構により、積層ベクトルは±120度回転した様に見えるが、実際に起こった現象はTOT層の半層の並進であり、結局全体の積層順序は変化する。修復が起こる層の対称も変化する。結晶スベリも変化した対称の層もかねてから発表されているが、本研究では初めてそれらの形成機構との関係を提唱。 要素の大きさが充分に異なると結晶スベリが起こり易くと考えられる。それは八面体を成す酸素原子面が結合を割らず全体的に滑られるからである。層間陽イオン位置のズレが結晶スベリを起こすためには、層間での強固な結合と共に不安定な位置が必要と考えられる。大部分の長周期多型はオキシ黒雲母の化学組成を持ち、OH-→O2-置換、Fe2+の酸化やTi4+の存在によって強固な層間結合と八面体の不安定化を起こせる化学組成となっている。 結局、本研究で発見された非基幹構造シリーズのオキシ黒雲母の長周期多型は、以前の方法では形成の機構は言うまでもなく、構造決定さえも不可能であったが、本研究で提唱した新しいアプローチを用いて、双晶の可能性が無いことを立証し、積層順序を決定し、新しいモデルでその形成機構を解釈するまでに達した。 |