審査要旨 | | 鉄筋コンクリート構造の非線形解析法は,過去20年にわたり2次元応力状態を主として対象としてきた。特に面内構造やはり・柱の耐力,変形性能および動的応答特性の予測が可能となってきており,一定の成果が挙がりつつある。一方,耐震性能を向上させるための横補強鉄筋の効果や多方向せん断力の作用,鋼材によるジャケット配置と耐震補強,ねじりと曲げせん断の組み合わせなど,2次元問題では扱えない構造問題に対しても,数値解析による性能照査法が求められるようになってきた。社会基盤構造に要求される耐震性能の明示と性能照査の高度化が一層,推進されようとしている今日,鉄筋コンクリートの3次元挙動を統一的に解析する技術を構築することは,今後,一層推進されるべき課題である。 本論文は,鉄筋コンクリート要素の3次元力学モデルの構築と,鋼構造との一体解析に必要となる鋼-コンクリート接合挙動の力学モデル化を図ろうとするものであり,鉄筋コンクリート部材の曲げせん断・ねじり・多方向せん断挙動の実際と解析との比較から検証を行うものである。さらに,既設鉄筋コンクリート構造物に鋼材や連続繊維を巻き付けることによる耐震補強効果の定量的評価を試み,実務対応の方向づけを行うことを目指している。 第1章は鉄筋コンクリート3次元固体要素の定式化について論じたものである。まず,ひび割れ前の鉄筋コンクリート構成則として3軸圧縮下での弾塑性破壊型モデルを基本フレームに採用し,これをさらに引張応力が作用する場合まで適用範囲を拡張した。ひび割れ発生以後は,分散ひび割れモデルを採用し,最大で独立4方向までひび割れを許容する固定ひび割れ要素モデルを提案した。新たに構成投影面の3次元組み合わせ法を提示しており,2次元鉄筋コンクリート構成則を有機的に組み合わせることで,3次元動的非線形応答解析に対応できるモデル化が構築できることを示した。 鉄筋の存在により,ひび割れ以後も引張力が付着機構を介して伝達される。本章では,鉄筋配置の異方性とひび割れ面の方向との相対関係から,任意方向の多方向ひび割れの個々に対して,残存引張伝達力を評価する方法を新たに提案している。ひび割れ形成に際して消費される破壊エネルギーを鉄筋の存在と関連させて定量化した点に新規性がある。これによって,RC柱の2方向せん断力下のせん断破壊が解析できるようになった。 第2章では,鋼材とコンクリートとの境界特性が議論されている。接合境界面でのせん断と剥離に対してそれぞれ破壊エネルギーを設定し,連成過程を非関連流れ則に基づく塑性軟化理論に基づきモデル化し,接合有限要素に組み込んだ。さらに鋼板の繰り返し塑性変形モデルと強化連続繊維の材料構成式について検討を行い,既設構造物の耐震補強に関わる準備を本節で行っている。 第3章では,第1,2章で構築された3次元材料構成モデルを用いて,鉄筋コンクリートはりのねじり挙動と鉄筋コンクリート柱の多方向せん断破壊解析を行い,部材レベルの検証から提案された3次元RC要素モデルの適用性の検討を行った。無筋はりのねじり軟化から引張軟化特性を、中空および稠実断面を有するRCはりの釣り合いねじり挙動から3次元RC固体要素と分散ひび割れの仮定を,帯鉄筋を有するRC柱の3次元多方向せん断破壊から引張軟化の異方性をそれぞれ検証・検討した。その結果,提案された3次元構成モデルと有限要素は,単調載荷履歴に対して構造物の耐力と変形性能を3次元応力下で評価できる機能を有していることを確認した。 第4章は既設構造物の耐震補強を念頭においたものであり,鋼材ならびに非鉄連続繊維で取り囲まれた鉄筋コンクリート構造の耐震性能の向上を,数値解析によって評価しようとするものである。せん断破壊の危険性が高いRC部材が,鋼板や連続繊維のジャケット化で破壊モードが変化すること、靭性が向上することが3次元数値解析によって追跡できることを示している。補強された構造物が獲得した耐震性能は,これまで専ら実験によって評価されてきた。本研究により,今後,解析的に補強効果が事前評価できることが示唆された。最後に本研究の総括と結論が述べられている。 鉄筋コンクリート構造物の性能照査は,今後の性能設計の展開において不可欠な技術となる。社会基盤施設の大型化と多様化,さらに建設コスト縮減の達成には,これまで無視されてきた3次元効果を有効活用することも望まれる。本研究で提示された鉄筋コンクリートの3次元力学モデルは上記の要求に合致するものであると同時に,既設構造物の補強効果の評価にも応用が可能な知見である。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |