学位論文要旨



No 113833
著者(漢字) ハウケ,ベルンハルト
著者(英字)
著者(カナ) ハウケ,ベルンハルト
標題(和) 鉄筋コンクリート及び鋼コンクリート合成構造の三次元モデル化と解析
標題(洋) Three-dimensional Mode ling and Analysis of Reinforced Concrete and Concrete Composites
報告番号 113833
報告番号 甲13833
学位授与日 1998.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4230号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 助教授 阿部,雅人
内容要旨

 耐震補強された社会基盤施設の安全性評価の問題などに代表されるように、自由度の縮退を伴わない完全三次元解析手法が必要とされる場合がある。三次元非線形解析を行うにあたっては、鉄筋コンクリート構成則と鋼材や炭素繊維のような補強材の構成則とを結合する必要があり、鋼材とコンクリート間の境界面での不連続性を考慮しなければならない。

 本研究の主目的は、三次元構造解析に立脚したRC構造及び鋼コンクリート合成構造の挙動予測法の確立とその検証である。第一部では、鉄筋コンクリート、炭素繊維シート、鋼構造物、そして鋼コンクリートの境界面の構成則を、既存の鉄筋コンクリートとコンクリート合成構造物を対象とする三次元非線形有限要素解析プログラムに導入し、定式化を行った。第二部では、三次元鉄筋コンクリート構成則の検証のために、様々な荷重条件における鉄筋コンクリート構造物の解析を行った。次に、鋼板巻き立てや炭素繊維シートの巻き付け工法により補強されたRC柱の応答について解析を行い、補強効果を定量化できる方向づけを得たものである。

 第一部では、鉄筋コンクリートの引張領域での構成モデルに重点を置いた鉄筋コンクリートの三次元構成則を導入した。三軸圧縮領域でのコンクリートの構成則として開発された弾塑性破壊モデルを、ひび割れの入らない領域下では圧縮および引張領域ともに適用できるように拡張を行なった。ひび割れ発生後は、コンクリートの構成則は分散ひび割れ法に基づく構成則に置き換えた。有限要素解析の用途をより拡大するために、コンクリートの構成則は平均応力-平均ひずみを用いて定式化されている。分散ひびわれ法に基づくこの手法を応用し、三次元的に広がりをもつ鉄筋付着作用の効果が及ぶ領域の評価方法(RCゾーニング)を導入した。これは、RC構造物中のコンクリートの挙動が鉄筋からの距離によって、軟化挙動に違いが現れることを考慮したものである。RC領域におけるかぶりコンクリートや割裂ひび割れの影響は、これまでに実験的に研究されており、a/dの小さいコンクリート構造物ではその影響が顕著であることが分かっている。RCゾーニング手法は、異なる3種類の配筋状態にある鉄筋コンクリート梁の載荷実験を行い、平均ひび割れ間隔を求め、それをもとに逆解析を行うことで決定している。一般にRC構造物では、ひび割れ後の挙動の異方性や鉄筋の平均降伏強度を三次元状態で考慮する必要があるが、本研究においては鉄筋に対するひび割れの角度の関数として定式化されている。

 鋼板で補強されたRC柱の三次元解析を行うために、弾塑性構成則に対応して簡単な等価三次元の鋼材の構成則を導入した。弾性要素や弾塑性要素を同時に用いることにより、鋼構造物の典型的な降伏棚も考慮しながら、Bauschinger効果やひずみ硬化を自然に取り込んだものとなっている。さらに、コンクリートと鋼板との間にせん断結合材があるためにせん断伝達が軟化することを考慮して、塑性論に基づく鋼コンクリートの境界の離散構成則モデルを定式化した。これらは、板要素が二方向にせん断力を受け軟化する場合のひび割れ開口形態にも関連している。炭素繊維シートのモデル化にあたっては、線形弾性のトラス要素を用いて有限要素解析を行うこととし、簡単で脆性的な一軸引張の構成則を提案した。

 第二部では、第一部で導入された三次元構成則の適用と検証を行っている。最初の解析例として、RC単柱を選択した。既存の構成モデルは、フーチングからの鉄筋の引き抜けなどのように局所化された現象には適用できないものの、ひび割れが分散している構造物には正しくモデル化できることを示すことができた。次に、ひび割れの入りやすい条件下における要素の大きさの影響とコンクリートの一般的な解析機構を詳細に調べるために、鉄筋の影響を受けないコンクリートだけの梁にねじりを加える解析を行なった。また、ひずみ軟化の異方性や平均降伏強度と同時にRCゾーニングの検証も、三次元的に荷重が加わるねじりを受ける鉄筋コンクリート部材の解析を用いて行なっている。ねじりが加わる解析においてかぶりコンクリートの影響も検討した。これまでに行われてきたRC構造物に関する研究では、主応力の方向は二次元応力場でのみ変換されていたが、これを三次元場に拡張することにより、三次元領域における多方向ひび割れを再現することができた。このモデルの妥当性は、軸応力と水平二方向に異なる大きさのせん断を受けるRC短柱の解析を行うことにより示された。

 鉄筋コンクリートと補強材料の構成則を用いて、RC柱における鋼板巻き立て及び炭素繊維シート補強の効果について検討を行なった。図心軸力と偏心軸力が作用する場合について解析的に検討した。鋼板の拘束による鋼とコンクリート間のせん断伝達機構の影響を検討した。次に、図心軸力及び偏心軸力が作用する条件下において鋼板巻き立てと炭素繊維シートの巻き付けによる拘束効果を比較した。三次元解析を用いて、軸力、曲げ、せん断力が作用する柱についての解析を行なった。柱とフーチングとの接合部や鋼とコンクリートの境界面に見られるようなひずみの不連続性は解析で考慮した結果、このひずみの不連続性は補強されたRC柱の応答全般に影響を及ぼしていることが分かった。鋼板巻きたてと炭素繊維補強の効果を異なる耐震性能を有するRC柱に対して解析的に検討した結果、鋼板巻きたて工法では、鋼板の厚さは補強後のRC柱の強度や靭性へ影響を及ぼすことが確認された。

審査要旨

 鉄筋コンクリート構造の非線形解析法は,過去20年にわたり2次元応力状態を主として対象としてきた。特に面内構造やはり・柱の耐力,変形性能および動的応答特性の予測が可能となってきており,一定の成果が挙がりつつある。一方,耐震性能を向上させるための横補強鉄筋の効果や多方向せん断力の作用,鋼材によるジャケット配置と耐震補強,ねじりと曲げせん断の組み合わせなど,2次元問題では扱えない構造問題に対しても,数値解析による性能照査法が求められるようになってきた。社会基盤構造に要求される耐震性能の明示と性能照査の高度化が一層,推進されようとしている今日,鉄筋コンクリートの3次元挙動を統一的に解析する技術を構築することは,今後,一層推進されるべき課題である。

 本論文は,鉄筋コンクリート要素の3次元力学モデルの構築と,鋼構造との一体解析に必要となる鋼-コンクリート接合挙動の力学モデル化を図ろうとするものであり,鉄筋コンクリート部材の曲げせん断・ねじり・多方向せん断挙動の実際と解析との比較から検証を行うものである。さらに,既設鉄筋コンクリート構造物に鋼材や連続繊維を巻き付けることによる耐震補強効果の定量的評価を試み,実務対応の方向づけを行うことを目指している。

 第1章は鉄筋コンクリート3次元固体要素の定式化について論じたものである。まず,ひび割れ前の鉄筋コンクリート構成則として3軸圧縮下での弾塑性破壊型モデルを基本フレームに採用し,これをさらに引張応力が作用する場合まで適用範囲を拡張した。ひび割れ発生以後は,分散ひび割れモデルを採用し,最大で独立4方向までひび割れを許容する固定ひび割れ要素モデルを提案した。新たに構成投影面の3次元組み合わせ法を提示しており,2次元鉄筋コンクリート構成則を有機的に組み合わせることで,3次元動的非線形応答解析に対応できるモデル化が構築できることを示した。

 鉄筋の存在により,ひび割れ以後も引張力が付着機構を介して伝達される。本章では,鉄筋配置の異方性とひび割れ面の方向との相対関係から,任意方向の多方向ひび割れの個々に対して,残存引張伝達力を評価する方法を新たに提案している。ひび割れ形成に際して消費される破壊エネルギーを鉄筋の存在と関連させて定量化した点に新規性がある。これによって,RC柱の2方向せん断力下のせん断破壊が解析できるようになった。

 第2章では,鋼材とコンクリートとの境界特性が議論されている。接合境界面でのせん断と剥離に対してそれぞれ破壊エネルギーを設定し,連成過程を非関連流れ則に基づく塑性軟化理論に基づきモデル化し,接合有限要素に組み込んだ。さらに鋼板の繰り返し塑性変形モデルと強化連続繊維の材料構成式について検討を行い,既設構造物の耐震補強に関わる準備を本節で行っている。

 第3章では,第1,2章で構築された3次元材料構成モデルを用いて,鉄筋コンクリートはりのねじり挙動と鉄筋コンクリート柱の多方向せん断破壊解析を行い,部材レベルの検証から提案された3次元RC要素モデルの適用性の検討を行った。無筋はりのねじり軟化から引張軟化特性を、中空および稠実断面を有するRCはりの釣り合いねじり挙動から3次元RC固体要素と分散ひび割れの仮定を,帯鉄筋を有するRC柱の3次元多方向せん断破壊から引張軟化の異方性をそれぞれ検証・検討した。その結果,提案された3次元構成モデルと有限要素は,単調載荷履歴に対して構造物の耐力と変形性能を3次元応力下で評価できる機能を有していることを確認した。

 第4章は既設構造物の耐震補強を念頭においたものであり,鋼材ならびに非鉄連続繊維で取り囲まれた鉄筋コンクリート構造の耐震性能の向上を,数値解析によって評価しようとするものである。せん断破壊の危険性が高いRC部材が,鋼板や連続繊維のジャケット化で破壊モードが変化すること、靭性が向上することが3次元数値解析によって追跡できることを示している。補強された構造物が獲得した耐震性能は,これまで専ら実験によって評価されてきた。本研究により,今後,解析的に補強効果が事前評価できることが示唆された。最後に本研究の総括と結論が述べられている。

 鉄筋コンクリート構造物の性能照査は,今後の性能設計の展開において不可欠な技術となる。社会基盤施設の大型化と多様化,さらに建設コスト縮減の達成には,これまで無視されてきた3次元効果を有効活用することも望まれる。本研究で提示された鉄筋コンクリートの3次元力学モデルは上記の要求に合致するものであると同時に,既設構造物の補強効果の評価にも応用が可能な知見である。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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