水制は、洪水による浸食から川岸を保護したり、流れの水位が低いときには舟運路の安定を高めるために河川で使用された構造物である。最近、水制は安定した淵(プール)を提供し、多様な流れ環境を作り出すことができるので、生息域の改善のためにも使用されている。水制周辺の流れと侵食過程の体系的な理解は、実際の河川工学において大変重要である。過去数十年の間、水制または水制に類似した構造物周辺の流れと流送土砂輸送の研究が実験的および数値的に熱心に行われてきた。しかし、流れは三次元の非常に複雑な乱流であるため、基本的な流れの特徴はまだよく理解されておらず、三次元シミュレーションによってはじめてその詳細を知ることができる。 本研究では越流型水制周辺の三次元流れ構造の研究とそれに関連する局所洗堀の研究を行なった。最初に、固定床上流れの点計測および流れの可視化実験を行なった。これにより数値モデルの開発にとって貴重な検証データとなる、三次元平均流速場の詳細情報が得られた。そして河床の油膜写真だけでなく、可視化された水制周辺の瞬間的な流れのパターンも呈示されて議論された。さらに水制先端および上部領域の剥離流れ、水制背後の再循環領域、および自由水面近傍の水位変動といった典型的な流れの特徴が確認された。 本研究では水制周辺流れのシミュレーションで乱流モデルの性能を調べた。これにはいくつかの修正された線型乱流モデルおよび非線型モデルを用いた。実験結果とこれらのモデルの比較により、線型のモデルではZhu-Shih修正(モデル)とRNGモデルが他のモデルよりいくらか良い流速分布を再現するということを示した。しかし、すべての線型モデルにおいて水制の先端付近での速度は過大評価となった。より正確な予測は非線型モデルを使うことにより達成できる。非線型モデルはレイノルズ応力をより正確に近似でき、平均歪み率と関連した乱流の渦粘性が再循環領域でそのレベルを減少する側に修正することができる。 水制周辺流れのための三次元流体力学モデルを開発した。数値精度と安定性の両方を確保するために、QUICKスキームの新しく提案された方式を利用した。実験に対するモデル立証を行い、流速分布および流速ベクトルの比較では、測定データと十分な一致が得られたため、このモデルの信頼性は確かめられた。そしてこのモデルを水制を持つ直線水路の流れに適用した。基本的な流れの性質と発生のメカニズムは、水制周辺の平均流速場、河床付近の乱流エネルギー分布、河床せん断応力パターン、および自由水面付近の等圧力線図といった多くの面から解明した。越流型水制周辺の流れは非越流型周辺の流れと大きく異なることが得られた。水制背後の再循環流は、水制先端からだけではなく水制上部からの歪められた流れがもとでねじれる。再循環領域では上層の下流方向流れは元の側壁側に傾き、下層の上流方向流れは水路中央に傾く。乱されていない主流域の流れ方向の圧力降下は、水制付近で大きく変化する。高い圧力勾配は水制上流側の付近で生じた。負の圧力勾配は再循環領域で生じ、逆方向の流れを起こした。水制に近づくにつれて水位は上昇し、先端付近で突然下降し、下流で緩やかに回復した。流れのパターンごとの水深、水制長、水制間隔の効果を、相似計算により数値的に解析した。水制間隔は設計において注意すべき重要なパラメータであることが分かった。 掃流物質輸送の流送土砂サブモデルを開発した。鉛直方向にシグマ座標系を導入することによって三次元流体力学モデルを拡張し、自由水面変動を許容するだけでなく、不規則な河床形状上の流れを扱うことを可能にした。水理学と流送土砂モデルの適用を、静定に安定した河床条件下の水制周辺流れと流送土砂輸送のシミュレーションに行った。平らな初期状態から平衡状態への河床変化過程の結果を示した。局所洗堀の特徴は河床のせん断応力分布パターンと密接に関連する。洗堀は最初にせん断応力が最高値を取る水制先端の付近で起こった。洗堀が進むにつれ浸食面は拡大する。洗堀された土砂は、洗堀穴のすぐ下流で堆積した。最大洗堀深の位置は洗堀の間ほとんど不変であった。洗堀過程を、初期洗堀、洗堀発達、平衡状態と分類した。平衡状態での最大洗堀深の大部分は、初期洗堀の段階で起こり、洗堀能力はこの期間最も激しかった。 本研究では越流型水制周辺の流れの実験的、数値的研究に成功し、三次元流れ構造およびそれに関連した局所洗堀現象を明らかにした。実際の工学的観点から見て、本研究において開発された数値モデルは、水制が配置された水路の複雑な流れ特徴を予測し、水制の大きさが流れに与える効果を調査し、局所洗堀を予測するために非常に有益なツールであり、水制設計の意思決定に非常に役立つ。 |