学位論文要旨



No 113835
著者(漢字) ボララ リヤナゲ・ジャヤラトゥン
著者(英字)
著者(カナ) ボララ リヤナゲ・ジャヤラトゥン
標題(和) 直線及び蛇行複断面水路の3次元流れ構造と河川法線計画に関する研究
標題(洋) THREE-DIMENSIONAL FLOW STRUCTURE IN STRAIGHT AND MEANDERING COMPOUND CHANNELS AND PLANNING OF DESIRABLE RIVER CONFIGURATIONS
報告番号 113835
報告番号 甲13835
学位授与日 1998.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4232号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 虫明,功臣
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 助教授 沖,大幹
 東京大学 講師 黄,光偉
内容要旨

 本研究は洪水時の、側岸侵食や土砂の堆積と河道形状の関係を明らかにし、最適な河道形状決定を目的として、実験及び数値計算を基に以下の流れの解析を行なった。

 1 複断面直線水路内の非定常流

 2 複断面蛇行水路内の定常流

 2-2高水敷と低水路の位相差が無い場合

 2-3高水敷と低水路の位相差が有る場合

 低水路と高水敷の水深比や、流速は複断面河道の流れ場や、低水路と高水敷間の相互作用に多大な影響を及ぼす要因である。本研究では特に上昇期、あるいは下降期におけるそれらの要因の影響を実験的に調べている。

 非定常流実験は

 (a)複断面水路内の非定常流の基本特性の理解

 (b)洪水流の上昇期、下降期の流れの特性の比較

 (c)数理モデル検証の為の正確なデータの取得(境界条件設定、数理モデルと、実験値との比較による妥当性の確認)

 などに留意して行われた。

 低水路内では水深、流速、流量は、高水敷上のそれより速くピークに達することが知られている。この場合、流速が最初にピークに達しその後流量、水深が順次ピークに達するがこれらの時間差は主に低水路に関してのみ顕著に現れる。

 ある瞬間に於いて、低水路における水深と、水面勾配は、高水敷におけるそれと互いに異なるが、その違いは流れの挙動に大きな影響を与える。水面勾配の差と、低水路、高水敷間の流れの混合によって低水路内の流れは、上昇期の第二相に於いて減速を始める。最大流速は上流から下流に向かって流れの伝播にしたがい、徐々に減少する。複断面水路の洪水流の伝播挙動を捉える為、一次元非定常数理モデルを発展させた。この結果、水路に沿って水深と流量の変動を良好に予測するためには、低水路と高水敷との境界面で、横方向の流量を考慮に入れるべきである事が分かった。

 河川での流れの特性は、低水路から高水敷上へ越流する流れの、水深が変化するのに伴い著しく変化する。本研究では定常条件下での複断面蛇行水路内の3次元流れ構造を解析した。種々の規模の洪水の流れの挙動を比較検討するために、低水路側岸と高水堤防が平行な複断面蛇行水路、及び高水堤防と低水路側岸の位相差が30°の複断面蛇行水路を用いた。この実験の目的は以下の通りである。

 (a)単断面蛇行水路と複断面蛇行水路内の流れの特性の比較及び検討

 (b)高水敷上の水深が浅い場合と、深い場合の流れ挙動の比較

 (c)移動床における流れの挙動と局所洗掘の研究及び河道内の侵食・堆積過程における限界状態が生ずる位置の確認

 (d)高水敷上の水深が浅い場合と深い場合における、複断面蛇行水路の位相差が流れの特性に与える影響

 (d)数理モデルの妥当性を検討する為の正確なデータの取得及び種々の位相差・流量下での数値シュミレーション

 低水路の外岸頂点からその後に続く内岸の領域では、殆どの場合に横断面内に於いて外岸付近に最大底面せん断力が現れ、これは局所洗掘の原因となる。しかしながらこの状況は低水路と高水敷との間に位相差がある場合は異なり、また位相差の大きさに大きく依存する。蛇行水路は非常に3次元性が強く、高水敷横断面内の最大せん断力は低水路と高水敷の境界面上にあり、高水堤防に近づくにつれて低下する。

 この実験装置に30°の位相差がある場合、渦が内岸側に形成されるのが見え、特に高水敷上の水深が浅いときにその傾向は顕著である。高水敷上の水深が増加するにつれて、この渦は運動量輸送の増加により抑制される。高水条件下では、常に再循環域が外岸側の高水敷上に見られる。この挙動は水路の曲率、蛇行波長、そして高水敷の規模により影響される。

 複断面蛇行水路において、有限体積法及びQUICKアルゴリズム用いて、3次元標準k-モデルの妥当性を検証している。数値計算の結果は特に主流に関しては、実験結果とよく一致した。定性的には、二次流に関しても良い一致が見られた。

 位相差や洪水流の規模による河川への影響を調べる為に、この数理モデルを単純化された複断面蛇行水路に適用し、種々の流量、位相差を有する各場合の流れ場の詳細及び底面せん断力を求めている。その結果を用いて、河道計画上の最適な法線形状を論じている。

審査要旨

 本論文は「Three-dimensional flow structure in straight and meandering compound channels and planning of desirable river configurations(直線及び蛇行複断面水路の3次元流れ構造と河川法線計画に関する研究)」と題し、洪水時の側岸侵食や土砂の堆積と河道形状との関係を明らかにし、最適な河道形状の決定を目的として、水理実験及び数値解析を行った結果を取りまとめたものである。

 近代の日本の大河川の改修は、洪水の主流部を高水堤防から遠ざけるという方針の基に、複断面河道が採択されていることが多い。この特徴を念頭において、1)複断面直線水路内の非定常流、2)複断面蛇行水路内の定常流、の分析を行った。複断面蛇行水路の場合には、高水敷と低水路の法線形状の位相差による流れの変化に着目し、位相差の有る場合と無い場合の両者の分析を行った。

 非定常流においては、複断面水路における流れに大きな影響を与える低水路と高水敷の水深比、流速比が時々刻々と変化するので、低水路と高水敷との相互作用が時間的に複雑に変化して行く。本研究では特に水位の上昇期、下降期においてこうした非定常特性がどのように現れるかを実験的に調べている。単断面水路では、流速が最初にピークに達し、その後流量、水深が順次ピークに達することが知られている。複断面水路では、低水路及び高水敷での流れが、それぞれこれと同様な特性があることが分かった。また、これらの時間差は低水路の流れに関してのみ顕著に現れる。

 ある瞬間において、低水路における水深と水面勾配は、高水敷に於けるそれらと互いに異なっており、その差が流れに大きな影響を与える。水面勾配の差と、低水路と高水敷間の流れの混合によって、水位上昇の速度が徐々に減少する、上昇期の後半に於いて低水路の流れは減速を始める。上流から下流に向かって流れが伝播するに従い、最大流速は徐々に減少することが確認された。複断面水路に於ける洪水流の伝播挙動を予測するために、一次元数学モデルを構築した。この結果、水路に沿って水深と流量の時間変化を良好に予測するためには、低水路と高水敷との境界面で、これらの二つの部分の流速差の1〜2%程度の横方向流速を考えれば良いことが分かった。洪水の増水期には高水敷に流入し、下降期には高水敷から流出する。

 複断面蛇行水路の流れの特性は、低水路から高水敷へと越流する流れにより著しく変化する。本研究では定常条件に於ける、複断面蛇行水路の3次元流れの構造を解析した。種々の流れの挙動を比較検討するために、低水路側岸と高水堤防が平行な場合と、位相差が30度の複断面蛇行水路を用いた。低水路の外岸頂点からその後に続く内岸の領域では、殆どの場合に横断面の外岸付近に底面せん断応力の最大値が現れ、この領域での局所洗掘は大きな値に達する。しかしながら、この状況は低水路と高水敷との間に位相差がある場合には異なり、またその変化の大きさは位相差に依存している。蛇行水路の流れは3次元性が非常に強く、高水敷横断面内の最大せん断力は低水路と高水敷の境界上にあり、高水堤防に近付くにつれて低下する。

 30度の位相差がある場合、渦が内岸側に形成されるのが見え、特に高水敷上の水深が浅いときにその傾向は顕著である。高水敷上の水深が増加するにつれて、低水路と高水敷の間の運動量交換が増大して行くので、この渦は抑制される。高水敷での水深が十分に大きな時は、外岸側の高水敷には常に循環流が形成されることが分かった。

 3次元標準k-モデルを用いて、複断面蛇行水路の流れの再現計算を行った。主流については、計算結果は実験結果と良く一致している。二次流についての一致度は主流ほどには良くないが、定性的には良く一致する結果が得られた。この3次元モデルは流れの予測に用いることが出来ると判断されたので、位相差や洪水の規模を数種類変化させ、流れの詳細及び底面せん断力の分布を求めた。これらの結果を用いることにより、河川計画上の最適な河川形状を推定することが出来ることとなった。

 以上要するに、本論文は直線及び蛇行する複断面水路の幾何特性により、洪水流の3次元的な特性がどのように変化して行くかを明らかにした。本論文で得られた成果は、今後の河道計画に求められている基本課題に有力な解決手法を与えるものであり、河川工学に寄与するところが大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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