近年、エネルギー・資源の貯蔵、電力需要の増加、環境保護意識の高揚といった種々の問題が生じているが、その結果として、地下空間の利用、特に大規模、大深度の地下空間の利用という要請が生じてきた。しかしながら、現在の設計・施工法の多くは、経済的に行なわれているのが現実であり、地質条件が厳しい、あるいはこれまでの建設実積を超えるような地下空洞の建設が行なわれる場合、現行の設計・施工は適切であるとは言い難しい。したがって、地下空洞の合理的でかつ経済的な設計・施工法の構築は非常に重要な工学的課題と言えよう。 実際の空洞掘削中などの不連続性岩盤の力学的挙動は非常に複雑で、不連続面そのものの変形成分は、岩盤基質部のそれよりはるかに大きいことが知られている。したがったて、まず最初に圧縮下における不連続性岩盤の力学的挙動に立脚した解析手法を構築する必要がある。そこで前者の目的を達成すべく空洞掘削中に不連続性岩盤の支配的メカニズムの抽出を目的とした。 BSS(ボアホール スキャニング システム)を用いた新しい岩盤変位計測システムを提案する。このシステムにおいては、任意の掘削ステップと計測点において、変位場計測が可能である。具体的には、ある段階に得られた不連続性岩盤の写真画像とその次の段階で得られたそれとを、画像解析手法(本論文ではマッチング法と呼ぶ)を用いて比較し、変位場を算出するものである。図1及び図2にマッチング法により求めた岩盤の地中変位を岩盤変位計(extensometer)を用いて計測した値と併わせてプロットしたが、両者は良好な一致を見ている。さらに、この手法においては、不連続性岩盤の支配的メカニズムと考えられるジョイント(節理)の変形(せん断すべりや開口)成分も抽出することが可能である。本研究では、提案する手法による種々の解析を通して、不連続性岩盤の変形成分のほとんどが不連続面の変形成分であるということを把え、これをふまえて解析手法の構築を行なった。 Figure 1: Displacement fieldafter the 6th bench is excavatedFigure 2: Displacement fieldafter all the benches are excavated 岩盤節理の力学的モデルや不連続性岩盤の構成則に関する研究は、特にこの30年間に、多くの研究者・技術者によって、解析的あるいは経験的な手段によって提案されている。こうした手法の中で、堀井・吉田は、不連続性岩盤の力学的挙動を支配しているメカニズムは、その中に包含されているジョイントの変形(せん断すべりや開口)であるとし、マイクロメカニクスに基づいて、不連続性岩盤の連続体理論を提案した。著者らは提案した理論の妥当性を検討すべく、種々の地下空洞の掘削解析を行ない、解析結果と計測結果の良好な一致を得ている。これより著者らは提案している手法が、大規模地下空洞の掘削解析に適していると結論づけている。 しかしながら、この解析手法においては、空洞の変形に及ぼすジョイント系が主として、空洞軸と平行方向に走向を持つジョイント系であるという点に着目し、2次元平面ひずみの条件下で解析手法を構築している。つまり、3次元的な掘削による影響は考慮されていない。加えて、ロックボルトやケーブルボルトといった岩盤支保は、空洞を安定させるという点で非常に重要であり、大深度地下空洞の掘削には、欠かすことのできない構造部材である。岩盤補強に関する技術はこれまで数多く開発されてきているが、その効果や適切な支保量に関しては依然として明確となっていない。したがって、本研究では、支保の効果を明確にすべく、堀井・吉田らの提案しているMBCモデルを拡張し、支保の効果を評価できるような構成則を考案し、それを3次元有限要素解析コードに組み込んだ。 MBC解析による掘削に伴う3次元的変形挙動などを評価する目的で、トンネルの掘削を、解析条件を変化させて、解析を行なった。まず、最初に2次元解析と3次元解析を行ない、両者の違いの検討を行なった。その結果、一部を図3、4、5に示すが、これらによると、2次元解析では、掘削相当応力を一度に作用させて、応力解放を行なうため、3次元解析に比べてジョイントが変形する領域が大きく、それに伴って、トンネルの壁面変化量も大きくなっていることがわかる。なお、図3の変位はトンネルの最前面の中心右側の壁面における変位量を示しており、ジョイントは鉛直に切り立つセットを仮定して用いた。 Figure 3: Displacements by 2D and 3D analysesFigure 4: Distribution of fracture elements-2DFigure 5: Distribution of fracture elements-3D 次に、ジョイントの走向を変化させて、解析を行い、前述と同様の箇所で壁面変位を計算し、その結果を図6に示した。本要旨では、紙面の都合上、図を載せられないが、この他にも初期応力などを変化させて解析を行い、解析より得られる結果から、トンネルの掘削に伴うトンネルの3次元的挙動が確認された。 Figure 6: Displacements with different joint strikes さらに、東京電力が建設した葛野川発電所の地下発電所掘削の解析を行なった。発電所建設地点では、空洞軸と直交するジョイント系が著しく卓越しているため、本研究では空洞の妻壁部に着目して解析を行なった。その解析結果の一部として、図7、8に岩盤の壁面変位を及び計測を合わせてプロットした。これらより、解析は計測と良好に一致していることがわかる。 Figure 7: Displacement at measured poinFigure 8: Displacement(3rd arch) 最後に、提案するMBC解析に基づく設計及び施工管理を行なうことを目的として、MBC解析に基づく安全率の定義を試みた。これは従来の安全率とは異なり、岩盤構造物が限界状態に至るまでの余裕の程度を示したものであり、許容応力的なコンセプトに比べ、合理的であると思われる(図9参照)。両者の相異点を調べる目的で先程と同様のトンネル掘削の解析を行ない、両定義に基づく安全率の等高線をそれぞれ図10、11に示した。従来の定義ではモール円の半径と破壊包絡線に至るまでの距離の比であるにすぎず、掘削に伴ってトンネル周辺の岩盤でジョイントが変形し、それによって剛性低下が生じて、応力がこうした領域から堅固な領域へ再配分されるような効果が考慮にいれられない。一方、提案する手法ではそれらの表現が可能であり、より現実に近いものと思われる。 以上に示した解析コードや提案する手法は地下空洞掘削解析に適しているだけでなく、合理的かつ経済的な設計・施工管理を可能にするものと考える。 Figure 9: Definition of safety factor[]stress state before excavation []:released stress due to excavation +1:safety factorFigure 10: Distribution of safety factor(MBC)Figure 11: Distribution of safety factor(current design method) |