学位論文要旨



No 113841
著者(漢字) ウィジャクソノ,アクマド
著者(英字)
著者(カナ) ウィジャクソノ,アクマド
標題(和) インドネシアにおける都市間バスターミナル整備の評価
標題(洋) Evaluation of Intercity Bus Terminal Development in Indonesia
報告番号 113841
報告番号 甲13841
学位授与日 1998.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4238号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 助教授 原田,昇
 東京大学 助教授 城所,哲夫
 東京大学 講師 室町,泰徳
内容要旨

 都市間バスターミナルの立地は、その利用に影響を及ぼす。それゆえ、都市間バスが都市間交通手段において支配的な場合、都市間バスターミナルは都市間と都市内の乗客の乗り換えに重要な役割を果たす。インドネシアでは、都市間バスターミナルの整備主体は地方自治体であるが、最近、地方自治体が既存のバスターミナルを都心から郊外に次々移転させる傾向が見られる。例えば、東ジャワ地区では、37主要都市に配置されている40の主要バスターミナルのうち、半数が過去10年間の間に移転されている。ここで、移転によって乗客のアクセス時間が長くなり、ターミナル利用者の減少を引き起こすことが問題となる。この現象は、乗客が移転されたバスターミナルを使う代わりに、実際には正式でない路上の乗り場を利用することから起こっている。

 都市間バスターミナルの利用者の減少は、重要な需要要因を無視したお粗末な計画によってもたらされていることは明白である。需要要因を考慮しないことについて言及するには、都市間バスターミナル開発計画、特にインドネシアの中都市における配置計画について評価する必要がある。通常、そのような評価は、交通活動と開発に関係する人々の認識を考慮しなければならない。本研究では、都市間バスターミナル整備における3つの重要な利害関係者を選定した。その3つとは、都市間バスターミナルの運営者である地方自治体、都市間バスの乗客、都市間バスターミナルの利用者であるバス事業者である。都市間バスターミナルの配置の評価においては、3つの主要な分析が必要である。

 第一に、都市間バスターミナルの供給に関する必要性と基準の認定である。このためには、都市間バスターミナルの意思決定者の目的と都市間バス事業者の嗜好を検討することが必要である。

 第二に、都市間バスの乗客に、バスターミナルを利用するよう影響を及ぼす要因の把握ある。ここでは、都市間バス乗り場の選択行動について、行動モデルを応用することにより、それらの要因のうち重要なものについて分析する。

 最後に、都市間バスターミナルを配置する際の代替案の設定である。これは、都市間バス開発に関する様々なシナリオを分析することによってなされる。

 ターミナル整備の必要性と基準の認定に際して、7つの州/地方自治体および東ジャワ地区の都市間バス事業者にインタビューを行った。さらにシナリオ分析のため、ケーススタディ地域として、プロボリンゴ市を選択した。同市は東ジャワ地区の中都市であり、1992年に都市間バスターミナルが移転されている。評価基準の関連指標を認定するため、地方自治体から関連するデータを収集した。また、特に乗客の行動モデルを設定するため、RP調査を行った。

 ターミナル整備の必要性と基準の分析を行ううちに、移転政策もまた、地方自治体の歳入の最大化を目的としていることが判明した。理論上では、都市間バスターミナルの主要機能は、乗客に対する乗り換えサービスの提供であるため、地方自治体の歳入の最大化が目的であるというのはいささか適切ではないと思われる。従って、地方自治体は利用者に対してサービスを提供するターミナル機能を最優先にしなければならない。歳入は、バスターミナル近辺の商業活動からの開発フィーの収集によって補填されるであろう。

 乗客行動に関しては、乗車場所としてのターミナル選択及びアクセス交通手段について、行動モデルを作成し、分析した。その結果、都市間バスの乗客はアクセス時間・乗り換え時間・待ち時間・都市間バス乗車時間の違いに敏感であるということがわかった。さらに、短距離旅行者は長距離旅行者に比べて、アクセス時間と都市間バス乗車時間により敏感であることも判明した。この結果は、空港や鉄道駅の選択における先行研究と一致する。

 シナリオ分析では、インドネシアの中都市で適用されうる主要な実現可能な代替案を認定し、現在の移転政策と比較した。ケーススタディの都市ではシナリオ分析の結果、確立されたターミナル配置理論、すなわち利用者の観点から見て、ターミナルは外縁部よりも都心部に配置する方が良いという理論と一致する結論を示した。地方自治体は、土地代を最小に抑え、高い投資効果を得られる最も良い場所に、都市間バスターミナルを配置する。しかし、この決定に対して重大な障害となるのは、都市間バスの乗客とバス事業者が、ターミナルへのアクセス距離が長いことがバスターミナル利用を減少させる要因とみなしていることである。

 それゆえ、このような移転政策は、潜在的に利用者全体の厚生を低下させる。

 都市外縁部に都市間バスターミナルを移転させようとする都市に対し、シナリオ分析の結果は、既存の移転政策の代わりに、他の三つの選択肢を提示している。

 一つ目は、地方自治体は、都心部にある都市間バスターミナルと拡張する可能性を考慮すべきということである。短期間の計画では、いくつか、少なくとも各方面に一つ、バス駅を開発することは、乗客や運営者に高い理解を得られる。

 二つ目は、容量が最大の問題である一方で、既存ターミナルの用地拡大が難しいような場合、実行可能な政策として、都市間距離を基礎として需要を分けることがあげられる。その分け方として、都心部にある既存バスターミナルは短距離の都市間旅行者に、都市外縁部にある新しいバスターミナルは長距離の都市間旅行者にそれぞれサービスを提供するということを提案している。

 三つ目は、主要な都市間の方向別に、ターミナルを整備するといったものである。この計画は、新しい産業施設の立地によって、開発レベルと人口が急速に増加している中都市において適切である。後の二つの選択肢は、建設費用の観点から見ると外縁部に一つ移転するのに比べて高くつくが、乗客の効用の観点から見ると優れている。

 都市間バスターミナル施設の刷新に関する政策の影響を評価することは、将来の都市交通計画にとって重要な要素であり、特に、最善の計画とその実施による都市交通整備の効率および効果を増大させる点において重要である。この点から、本論文は、発展途上国の中都市における都市間バスターミナルの配置を選択する際の需要要因について、意思決定者の理解を促すという点で特に貢献するものである。このように、本研究はまた、今まで議論が欠けている都市間バスターミナル整備に関する、発展途上国における主要な都市施設としての評価についての新たな知見を与えるものと考える。

 本研究では、都市間バスターミナルの制度面および運営面での議論と都市開発における都市間バスターミナルの効果の検討が議論として残っている。都市間バスターミナルの民営化または私企業との提携といった分野について、更なる調査をする必要があるだろう。また、鉄道駅のような他の交通手段のターミナルと都市間バスターミナルとの統合についても、研究の余地があろう。他に、都市間バスターミナルが都市開発に与える影響の重要性についての検討も必要である。

審査要旨

 アジアの開発途上国において、都市間旅客交通の主役はバスであり、経済発展に伴いその利用量は急激に増加している。わが国の経験からみて、開発途上国の地方都市にとって、都市間バスターミナルとその立地は都市交通のみならず、都市計画上も重要な計画要素である。しかし、途上国では、バス事業が多くの民間事業者を主体に行われ、政府の規制なども不十分であるからデータも乏しく、都市間バス交通やバスターミナルの実態、そして都市交通計画との関係についての研究は極めて少ない。

 本論文は、インドネシアの都市では、現在各地で数多くの都市間バスターミナルの移転計画が進んでいることから、その立地計画に対して主として都市交通計画の視点から計画代替案についての分析・評価方法を提案すると共に現在の移転政策の問題点を明らかにして、政策の方向を検討しようとしたものである。具体的には、本研究は次の3つの主要な分析に基づいて進められている。

 第一に、都市間バスターミナルの郊外移転に関するニーズと意思決定基準と要因の把握である。このために、都市間バスターミナルの意思決定者と都市間バス事業者の考え方について、現地ヒアリング調査から得られたデータを基に分析した。

 第二に、都市間バスの乗客について、バスターミナルの利用にかかわる主要因の分析である。ここでは、都市間バス乗り場の選択行動について、新たにデータを収集し非集計行動モデルを適用して主要な要因と行動メカニズムを分析した。

 第三に、移転政策の是非を評価するために都市間バスターミナルの都市内配置にかかわる基本的代替選択肢を検討し、事例調査都市について具体的に代替案を設定したシナリオ分析に基づいて総合的な評価を行った。

 第一の都市間バスターミナル整備のニーズと意思決定基準に関しては、インドネシアでは、地方自治体が整備主体として、交通機能や都市計画の観点よりは、一般財源用の歳入の最大化が大きな目的として進められていること、そしてこのことが、移転計画全体に大きな影響を与えていることがわかった。

 第二の都市間バス乗客の選択行動に関しては、東ジャワ地方の中規模都市プロボリンゴ市(人口約18万人、1992年に都市間バスターミナルの郊外移転完了)を対象として実態調査を行い、乗降場所(バスターミナルおよび路上のインフォーマル乗降地点)の選択行動および乗降場所までのアクセス交通手段の選択行動について、非集計行動モデルにより定量的分析を行った。その結果、都市間バスの乗客はアクセス時間・乗り換え時間・待ち時間・都市間バス乗車時間の違いに敏感であるということがわかった。さらに、短距離旅行者は長距離旅行者に比べて、アクセス時間と都市間バス乗車時間により敏感であることも判明した。

 第三の移転政策にかかわるシナリオ分析では、インドネシアの中都市で適用可能な主要な代替案を設定し、現在の移転政策と比較した。事例調査都市では、一般的なターミナル配置理論、すなわち利用者の観点からみて、ターミナルは外周部よりも都心部に配置する方が良いという理論と一致する結論を示した。現況ではインドネシアの地方自治体は、土地代を最小に抑え、財務的に高い投資効果を得られる場所に、ターミナルを再配置しようとすることから外周部へ移転する傾向が高くなる。このため都市間バス乗客にとってはターミナルへのアクセス距離が平均的に長くなること、ターミナル利用を減少させること、またバス事業者にとっても運行距離が長くなることからこのような移転政策は、潜在的に利用者全体の便益を低下させることがわかった。

 現在の外周部全面移転政策に対して(1)都心部の既存ターミナルの拡張と方面別の路側乗降施設の設置、(2)上記の拡張が困難な場合、外周部バスターミナル新設と既存ターミナルとの併用(この場合、事例調査都市では前者を長距離都市間用、後者を短距離用に使用)、(3)将来都市開発と人口増加が予想される場合には、外周部バスターミナルの主要方面別分散配置、を比較検討すべき代替案として提案している。

 以上、本研究の全体を通して途上国の地方都市にとって都市交通計画上重要な政策課題である都市間バスターミナルの立地政策について、その整備・運営主体、バス事業者、バス利用者の3つの主要な関係主体の意志決定要因が明らかになった。特に、インドネシアの場合、整備運営主体である地方自治体が一般財源確保の手段として認識して移転計画を進めていることから、利用者をはじめ社会全体からみて問題があることが実証的に示されたことの政策的意義は大きい。

 また、定量的な分析評価手法として、都市間バス利用者についての乗降施設選択行動に非集計行動モデルが適用できることを明らかにした点で、この種の行動モデルによる分析の有効性を示した点も有用である。

 よって、本論分は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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