学位論文要旨



No 113843
著者(漢字) ハルン・イスメット・ベルガワン
著者(英字) HARUN ISMET BELGAWAN
著者(カナ) ハルン・イスメット・ベルガワン
標題(和) インドネシアにおける都市開発手法としての区画整理の展望
標題(洋) THE PROSPECT OF LAND CONSOLIDATION AS URBAN DEVELOPMENT METHOD IN INDONESIA
報告番号 113843
報告番号 甲13843
学位授与日 1998.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4240号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 西村,幸夫
 東京大学 助教授 大方,潤一郎
 東京大学 助教授 城所,哲夫
内容要旨 概要

 都市の区画整理(土地の再調整)はインドネシアにおいて16年以上の間行われてきた。だが、わずかな都市の中の極数少ない場所を除いては、それによる都市開発の達成は、意味を成していない。というのも、一つには、区画整理が土地の政策、管理、運営を扱う国家住宅庁の権限や責任のもとに実施されているというように、実施の主な目的が土地管理であるからである。そしてまた、インドネシアは都市計画法を確立しておらず、多くの都市は独自の計画を持っていないからである。更に都市開発に対する影響不足のもう一つの理由は、区画整理を行ってきた都市それぞれにおいて、区画整理はその実施に実験的性格を与えつつ、単一の事業区域で行われているということである。しかし、都市開発や都市計画における土地供給や、インドネシアにおいて急速に成長している都市を悩ませている都市開発問題を解決するための土地供給の機能面から、政府機関や役人の間では、都市開発手法としての区画整理の利用に関心が高まっている。さらに重要なことは、土地所有者優先の開発手法の必要性である。土地収用がインドネシアの都市地域の開発で多くの問題を引き起こしているからである。

 しかし、都市開発の過程で区画整理を利用するには、特定の国の技術や社会経済的・政治的パラメータの長所と短所を考えなければならない。インドネシアにおいて、都市開発手法として区画整理を慎重にかつより幅広く利用するためには、背景的三つの論点に言及する必要がある。第一に、区画整理は、都市開発における市場志向型のアプローチと方針との適合性を検討されるべきであろう。これは、民間宅地開発業者やその都市開発における事業の驚異的増加、開発過程における民間開発業者の強力な役割や影響により明示されている。第二に、区画整理が最も適用されそうな都市周辺部では、殆どの土地所有者が依然と農業活動に従事しており、殆どの土地が田園であるということである。区画整理は、土地所有者を交換するものの、実質的には影響を受けやすい土地所有者に利益と負担をもたらす。第三に、慎重な都市計画手法として利用される区画整理に対して解決されるべき幾つかの制度上の問題がある。それは、都市計画の不在と関係がある。つまり、都市開発の過程における区画整理の利用に関して、都市開発機関の中で責任や権限が不明確であること、そして、多くの周辺地域における土地所有権が不明確であることである。この研究は、民間宅地開発業者の都市開発と区画整理の適合性や区画整理実施に対する土地所有者の反響に重点を置いて、以上の三つの点に言及することを目的としており、充分にまだ研究されていない途上国における区画整理の利用に関する分野に貢献するものである。以上の点を述べると同時に、この研究はまた区画整理の可能な役割や機能を見極めるためにインドネシアの都市開発を再検討し、インドネシアにおける都市開発プロセス過程における見通しを探索する。

 どの点が論及されるかによるが、この研究のために幾つかの手法が使われている。区画整理の特性に対して、民間宅地開発者の業務や成果(事業)の特性を検討するのは、民間宅地開発業者の利益という観点から区画整理実施の展望(と問題)を理解するためである。このため、区画整理実施に対する直接的そして間接的反響が、特別にこの目的のために行われたインタビューやワークショップを通して、人々から、民間宅地開発業者から取り出されている。区画整理実施に対する反響を探索するために、周辺地域における土地所有者にたいするインタビュー調査を通したものを優先的に研究した。既に述べたワークショップと政府役人(とのオープンインタビュー)は、区画整理実施に関する制度上の問題を理解するための情報源でもある。

 国家規模の都市開発は、区画整理の潜在的役割と機能を理解するための視野として受け取られるが、区画整理と民間宅地開発業者による都市開発の不一致の解析は、大都市地域により焦点が当てられる。大都市地域においては、民間宅地開発業者による活動が集中し、民間宅地開発業者によって代表されるフォーマルセクターとインフォーマルセクターの二重開発が存在する。このタイプの二つの地域はまた、土地所有者の反響を解析するために選ばれている。すなわち、フォーマルセクターとインフォーマルセクターの二重開発も行われている代表的ケーススタディとしてのジャカルタとバンダングの周辺地域である。

 二次的なデータと情報を使った解析によると、インドネシアの都市地域の都市化特性は、一般的に、都市のタイプや位置している島/行政区域によって、高度でかつ多様である。並んで、この現象は、大都市地域で解決策が求められている二重開発に特に関連した都市開発問題である。このことは、可能な都市開発手法の一つとして、区画整理の活用が肯定的に合理的であることを暗示しているが、区画整理の活用が都市域の中の都市化に対する様々な性質に触れなければならないこと、そして、区画整理の活用は顕著な二重開発が行われている地域において都市開発する時の土地供給の伝統的な使用を超えているということを提案している。

 しかし、大都市地域の区画整理活用の展望は、民間宅地開発業者の含有や土地収用に基づいた現在の活動を支えるための影響にも依存している。区画整理と民間宅地開発業者による成果の不一致と都市開発活動における区画整理のインパクトは非常に重要であるので、区画整理において民間宅地開発業者を含むことは強い誘因を必要とする。二重開発や急激な地域成長におけるどの区画整理実施も区画整理の活用に刺激を与えるため、そして、宅地開発業者(土地所有者を含む)を含有するために、都市開発と義務的政策、または、開発税のような税金政策と組み合わせた手法について考える必要があるだろう。

 一方、土地所有者は区画整理を支えるであろう。というのも、区画整理は土地収用に対する優れた代替物であるからである。しかし、彼らは、小規模な面積削減やより少ない金銭的負担(そして、極力インフラ整備を小さくとどめること)を要求する簡単な区画整理方法を好む傾向がある。結果として、土地所有者は区画整理の利益に対して同じ傾向を被ることになり、ある程度の区画整理に対する彼らの支持は、都市開発、特に土地所有権の状況の向上とは関係のない誘因によるものであることになる。この傾向は、特に周辺部の農業/田園地域社会で主流である。土地所有者の条件が周辺部でなければないほど、彼らは、より広い面積削減やより洗練されたインフラ整備を伴ったより高度な区画整理方法をとることに寄与するのである。地域社会が周辺部であればあるほど、市場価値よりも土地自身に重きを置くということをこのことは示している。この発見は、実際にその他の研究や政府による現在の実施経験における発見を確証するものである。

 結果的に、インドネシア都市域の開発過程における可能な役割と機能と共に、区画整理活用の展望は、政策が(大都市地域における実施に対して)宅地開発業者の利益を満たすために行われ、(一般的な実施に対して)土地所有者に優先的であるようにたてられるなら、より開けるであろう。このようなことから、区画整理の現在の実施システムと都市開発実施システムとのつながりの制度が確立される必要がある。

審査要旨

 本論文はインドネシアにおいて、これまで16年間にわたって行われてきた区画整理(Land Consolidation、以下イ方式)が、日本をはじめとする他の地域で定着している土地区画整理(Land Readjustment)とは異なるものであることをまず明らかにする。次に、なぜその差異が生じたのか、その差異を維持せしめてきた社会的背景は何か、それは現実にイ方式や都市開発にどのような問題をもたらしているか、それらの問題を克服して、イ方式を都市開発(都市化に伴い必要となる住宅、産業、その他の活動のための用地を適切に生み出す)のための有効な手法とするにはどのような改善が必要かを展望している。

 イ方式は都市開発の達成を意味していないことについて、本論文は3点を論拠としている。第一に、区画整理が土地の政策、管理、運営を扱う国家住宅庁の権限や責任のもとに実施されているというように、実施の主な目的が土地管理であることである。第二に、インドネシアでは都市計画法が確立しておらず、多くの都市は独自の計画を持っていないことである。第三に、区画整理を行ってきた都市それぞれにおいて、区画整理は実験的性格をもっており、一般化されない傾向があることである。

 これらは、イ方式の問題を浮き彫りにするが、その不十分性や問題点はイ国の関係者にも認識されており、改善の可能性はある。しかし、同時に、イ方式が、存在する背景を十分に分析することが、その改善には不可欠とする。その結果、インドネシアにおいて、都市開発手法として区画整理を広範に利用するためには、三点に留意する必要があるとする。第一に、区画整理は、都市開発における市場志向型のアプローチと方針との適合性を検討されるべきである。第二に、区画整理が最も適用されそうな都市周辺部では、殆どの土地所有者が依然と農業活動に従事しており、殆どの土地が田園であるということである。第三に、都市計画手法として利用される区画整理に対して解決されるべき幾つかの制度上の問題がある。とくに、都市計画の不在が大きな問題である。

 とくに本研究では、区画整理の活用者となるであろう民間宅地開発業者の利点という観点から区画整理実施の展望(と問題)を検討した。このため、区画整理実施に対する直接的そして間接的関心が、特別にこの目的のために行われたインタビューやワークショップを通して、地権者や民間宅地開発業者から寄せられた。

 これらの調査及び意見分析の結果、区画整理の成否にとって最も重要な鍵を握る土地所有者は区画整理を支えると展望する。というのも、区画整理は土地収用に対する優れた代替物と認識されているいるからである。しかし、彼らは、小規模な面積削減やより少ない金銭的負担(そして、極力インフラ整備を小さくとどめること)を必要とする簡単な区画整理方法を好む傾向がある。結果として、区画整理に対する土地所有者の支持は、都市開発、特に土地所有権の改善とは直接関係のない経済的なものであり、市場の動向に敏感な対応をとるとも見なせる。この傾向は、特に周辺部の農業/田園地域社会で主流である。土地所有が周辺部であれば、彼らは、より広い面積削減やより洗練されたインフラ整備を伴ったより高度な区画整理方法をとることに寄与するのである。地域社会が周辺部であればあるほど、市場価値よりも土地自身に重きを置くということをこのことは示している。この発見は、実際にその他の研究や政府による現在の実施経験における発見を確証するものである、と指摘している。

 インドネシア都市域の開発過程における可能な役割と機能と共に、区画整理活用の展望は、政策(大都市地域における実施に対して)が、宅地開発業者の利益を満たすために行われ、(一般的な実施に対して)土地所有者に優先的であるようにたてられるなら、より開けるであろう。このようなことから、区画整理の現在の実施システムと都市開発実施システムとのつながりの制度が確立される必要がある、と結んでいる。このように本研究は、イ方式の社会経済的背景を踏まえた、都市開発手法としての有効性を分析し、その問題点を明らかにし、より充実した都市施設を供給する手法としてイ方式を改善していく方向性をも指し示し、優れた成果を上げた。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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