本論文は微細穴の計測に関する研究-バイブロスキャニング法の開発と検証-と題し、9章からなる. 第1章では、本研究の背景と目的について述べている.半導体製造プロセスを用いた微小機械の研究がきっかけとなり、マイクロマシンの研究が活発に行われ、このマイクロマシンの実用化を支える重要な技術の一つとして、マイクロ構成部品の寸法・形状精度を正しく評価する技術が必要になる.その技術の歴史と現状に言及し、また近年加工技術の向上により実現されるようになった微細穴を例にとれば、より細く深い穴の内部形状測定は極めて難しいこと、従って、細穴の測定が可能であるような新しい手段の開発を研究の目的としたことを述べている. 第2章では、直径0.5mm以下の細穴の内部形状を測定するため開発されたバイブロスキャニング法(以下VS法と表記)の測定原理、測定アルゴリズムや装置等について述べている. 第3章では、この手法の信頼性を実用レベルまで高めるため、まず触針素材によって繰り返し測定制度が変わることを、統計的手法を用いて明かにし、この手法に適する材料としてどのような性質のものが必要であるかを示している.また、加振波形や周波数についても同様の手法により、信頼性向上に関する具体的な指針を示している. 第4章では、さらに微細限度の拡張を試みる一方、様々の細穴の内部形状測定実験によって、VS法が細穴の測定に対して実用的な手法となりうることを示している. 第5章では、電気的接触信号を基とするため導電性材料のみを対象としたVS法を、不導体の細穴の測定にも適用を拡張するために、2本で一対の触針を用いるツインプローブ式VS法を新たに提案し、マクロモデルのツインプローブで、測定物の材料には関係なく、簡単に穴の形状が測れる可能性の確認に成功している.ステンレスで作ったマクロモデルのツインプローブは、材料的に表面が酸化しやすいし、電気抵抗が大きいので不安定であるが、金を蒸着することにより測定信頼性の向上が得られることを明らかにしている.またプローブと測定面との接触信号を用いる原理は同じだが、測定物の材料などには関係なく、二つのプローブの弾性変形によって、電気接触信号が得られ、従来のVS法と同程度以上の高精度で測定できることが明らかにしている. 第6章では、さらにマイクロ化を実現する必要があるので、ミクロンオーダのツインプローブを作る研究について述べている.マイクロツインプローブを構成する二つのエレメントの先端の間は、およそ5m以下のギャップが必要である.また、二つのエレメントが接触する時以外は、両者が完全に電気的絶縁を保たなければならない.そこで、本体を弾性的特性を持つ単結晶シリコンとし、シリコン酸化膜で電気的絶縁を可能にすることを考え、SOI(silicon on insulator)を用いて、ドライエッチング、ウエットエッチング、メタライゼーション等を組み合わせたシーケンスにより、ツインプローブ式VS法のマイクロ化を実現するための先端幅20ミクロンのカンチレバーの作製をした結果について述べている.シリコンをベースとした3次元的形状加工の具体的な例として、微細なカンチレバーの製造プロセスを提案し、接点部分および信号搬送用の回路部分の作製、そして最終的な機能試験まで行いマイクロ測定に適用できることを確認している.そして、実際に直径0.2mm以下の不導体細穴を測定するのに成功した実施例が紹介されている. 第7章では、さらにアスペクト比で20を超える深穴を測るため、先端幅75m、長さ3mmの長いマイクロツインプローブの製作にについて述べている.プローブの幅や厚さに対し非常に長いため、製作プロセスの中で起きる残留応力の影響を逃がすように各プローブの間にダミー棒を配置する方法を提案して製作に成功している.このプローブを用いて測定精度を高める実験を行い、繰り返し精度はおよそ0.5m以内にあることを確認している. 第8章は、光てこ式変位検出法をVS法に適用する事に関する.マイクロツインプローブVS法の問題点は、各エレメント先端接触面の間の電気的接触信号の安定性とプローブtipをsharpに作るのが難しいことである.そこで、さらに安定性と分解能を高めるため、検出部が尖ったプローブを用いて比較的に高い分解能が得られる光てこ式の接触検出をVS法に適用する事を提案している.先ず、長さ15mmのマクロモデルによる適用性を確認し、半導体製作プロセスによるマイクロシングルプローブの製作にも成功している. 第9章「結論」では、提案した各手法について、この研究で明らかになった特性、特長、問題点についての結論がまとめられている. 以上、本論文は今まで困難であった微細穴の内部形状を測定するために、新しい測定手法を提供し、高速度化、高精度測定を実現し、実用的な応用実験を含めその有用性を明らかにしており、様々なマイクロ加工の分野で製品や部品の評価、加工技術の開発に大きな役割を果すものといえる. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |