学位論文要旨



No 113848
著者(漢字) 金,範埈
著者(英字)
著者(カナ) キム,ボムジュン
標題(和) 微細穴の計測に関する研究 : バイブロスキャニング法の開発と検証
標題(洋) A study on microhole measurement : Development and verification of Vibroscanning Method
報告番号 113848
報告番号 甲13848
学位授与日 1998.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4245号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 助教授 高増,潔
 東京大学 助教授 川勝,英樹
内容要旨 1.はじめに

 最近、半導体製造プロセスを用いた微小機械の研究がきっかけとなり、マイクロマシンの研究が活発に行われ、様々のマイクロ加工技術が注目を浴びている.このマイクロマシンの実用化を支える重要な技術の一つとして、マイクロ構成部品の寸法・形状精度を正しく評価する技術が必要になる.様々なマイクロ加工の中で、細穴を例にとれば細穴加工は、精密機械部品,マイクロノズル,プリント基盤の穴あけなど多くの分野で必要とされ、放電加工やドリルによる直径100m程度の穴はすでに容易に加工できる範囲にある.

 しかし、より細く深い穴の内部形状測定は、極めて難しい.従って、細穴の評価は、入口・出口形状の測定および、ピンゲージを用いた直径検査のみが行われている.そして、加工された直径0.5mm以下の細穴の内部形状を測定を行なう手法として、バイブロスキャニング法(以下VS法とする)が開発された.従来使われている触針式形状測定法では、触針の変位や触針にかかる荷重の変化を検出する方法をとっている.このため、荷重や変位を大きくとれない微細な穴の内部測定は困難で、直径1mm以下の測定はほとんど行われていない.また、非接触式の各手法も、微細穴に挿入できるような細い測定プローブを用いることができる方法がなく、唯一可能なSTMでは、極めて小さな探針間隙を保ちながら測定するため厳しい測定環境の制限と、長い測定時間が必要となる.本研究の方法は、電気的接触により壁面を検出するのでSTM同様非常に細い触針を用いることができ、接触させながら測定しているので、STMのようなデリケートな装置および環境を必要とせず、測定速度も格段に大きくすることができる.この細穴内部形状測

 本研究はVS法の高精度化のために、VS法の信頼性の向上を一つの研究の目的とする.そのために、いろいろな材料のプローブを製作し、各触針の駆動波形、周波数等を変えて精度にどのような影響を与えるのか特性を調べた.また、さらに微細限度の拡張を試みた.

 一方、VS法による測定法の問題点として、測定対象が導電体に限定される点があった.

 そこで、不導体の穴でも測れるようにVS法を応用する新しい技術を開発することが次の目的である.従来のVS法のプローブと違ったスイッチ式のツインプローブを考え、測定物の材料には関係なく、プローブと測定物の接触を電気信号として検出する"ツインプローブ式VS法"を考案し、マクロモデルによる不導体の穴の測定に成功した.

 さらにマイクロ化を実現する必要があるので、ミクロンオーダのツインプローブを作る研究を行った.シリコンをベースとした3次元的形状加工の具体的な例として、微細なカンチレバーの製造技術開発を行った.接点部分および信号搬送用の回路部分の作製、そして最終的な機能試験まで行いマイクロ測定に適用できることを確認した.そして、実際に直径0.2mm以下の不導体細穴を測定するのに成功した.

 さらにアスペクト比で20を超える深穴を測るため、先端幅75m、長さ3mmの長いマイクロツインプローブの製作に成功した.測定精度を高める実験を行い、繰り返し精度はおよそ0.5m以内にあることを確認した.

 最後に、もっと測定の分解能を高めるため、尖った部分を持つsingleプローブを用いて光てこ測定法をVS法に適用する事を試みた.マクロモデルによる適用性を確認し、半導体製作プロセスによるマイクロシングルプローブの製作にも成功した.

2.VS法と測定アルゴリズム2-1.VS法の基本原理

 図1に示すように、触針を穴内部に挿入し、被測定面に対して垂直方向に一定周期、数m振幅で微振させながら触針と被測定面間には電圧Eを加えておくと、面近傍で触針が面に周期的に接触、非接触を繰り返すようになる。振動周期Tに対する出力電圧eがEとなる接触時間のデューティー比(接触時間/触針の振動の周期,以下DFとする)より触針-表面間の距離を計算して表面形状を求める方法がVS法である.

図1. VS法の概念図
2-2.VS法の測定アルゴリズム

 表面形状測定にはこの方法で、次々に表面上の点を測定すれば求められる.この連続して点の座標を求めていくアルゴリズムには、2つのアルゴリズムが考えられる.ひとつは、デューティー比一定制御法(以下CD法とする)である.デューティー比一定すなわち、触針-被測定面間の距離が一定になるように凹凸にあわせて触針の位置を制御し、表面上を移動させる.触針の移動軌跡によりが表面の凹凸を知ることができる.利点はデューティー比が指定値になるまで同一点で繰り返し間隔を修正して測定するので,精度が良い点である.

 もう一つの方法は、ステップスキャニング法(以下SS法とする)である.触針は穴の軸方向に直線的に移動させデューティー比の変化より凹凸を計算する.凹凸が振幅の範囲を超えたときのみ凹凸方向に触針を移動させる.基本的には測定点1点につきデューティー比の測定が1回なのでデューティー比一定制御法に比べてデューティー比の測定回数を減らすことができる.

 本実験ではCD法(DF=0.5)で、測定を行った.

3.VS法の信頼性の向上のための実験3-1.触針材料の差異による影響

 タングステン、モリブデン、ハステロイC-276、SUS316、超硬合金、白金パラジウムの6種類の触針をWEDG(Wire electrodischarge grinding)で作製した.この触針を100Hzの三角波で振動させながら表面粗さ標準片(Rmax6.3m.形削り加工)の長さ500mの同じ場所(2.5m間幅で200 point)を測定した.測定精度の評価方法として、各5回測定を繰り返し、その測定値のばらつきの標準偏差を計算してばらつきの程度で精密さを調べた.結果的には、化学的に安定で、低接触力でも接触信頼性が優れている白金パラジウム、硬い超硬合金及びMoが良好な安定したデータを示した.

3-2.駆動波形による影響

 本実験ではモリブデン、超硬合金、白金パラジウムの触針に、50,100,200Hzの周波数と正弦波、三角波、変形三角波(定電圧ダイオードの電圧リミッタ回路により三角波頂部をカットしたもの)の三種類の波形を加え、DF=0.5で上と同じ標準試片を測定した.測定の信頼性を向上させるために25℃の一定温度で、5回以上同じ条件で測定した.各種材料の触針を用い加振条件を変えて測定実験を行った結果、以下のことが明らかとなった.

 1)酸化しにくい材料である白金パラジウムの場合、正弦波での精度が最も良い.

 2)超硬合金、タングステン、モリブデンのような硬い材料では200Hzまで比較的安定である.

4.不導体へのVS法の応用

 ここまでのVS法では測定対象が導電体に限られたが、不導体の細穴の測定にも適用を拡張するために、簡単なVS法の測定原理に基づく、新しい形のツインプローブ式VS法を開発した.まず、マクロモデルのツインプローブで、測定物の材料には関係なく、簡単に穴の形状が測れることを確認した.

4-1.ツインプローブ式VS法

 不導体の場合は、触針と測定対象の間に電流が流れないため、そのままVS法を測定に用いることができない.したがって、導電性が悪い材料の細穴を測定するには、スパッタリングで細穴内部側面に金属薄膜をコーティングするなどの表面処理などが必要である.

 上記で述べた問題点を解決するために、センサー自体がスイッチを持つツインプローブによる方法を提案した.図2に、ツインプローブ式VS法の計測システムの原理を試作した先端幅1mmのマクロモデルを例にとって示す.絶縁体のホルダーの溝にワイヤ放電加工で作った導電体の二つのエレメントを入れ固定した.各エレメント間に電圧Eを加えておく.ツインプローブにはホルダーを介し、加振器によりX軸方向に微小振幅(約4m)の振動を与える.エレメントの一方が測定面に接触すると、弾性変形により他方のエレメントと接触する.これにより、ツインプローブと被測定面の接触を間接的に電気的ON,OFF信号として取り出すことができる.この接触電気信号を得るために、ツインプローブ先端の間の距離(ギャップ)が重要である.振動振幅が4mなのでエレメントに過大なためみを与えないため、ギャップは小さいほど良い.ベークライトのホルダーに付けてあるねじを締めて、ギャップを10m程度に調節した.ねじを締める前、各エレメントをホルダーに入れたままの状態で、ギャップは100mである.

図2. ツインプローブ式VS法の測定原理
4-2.測定実験(1)予備実験

 ツインプローブ式VSが実際に不導体の穴測定に適用できることを確かめるために、基礎的特性を調べた.VS法において重要なプローブのX軸方向の移動量とDFの関係を求める実験を行った.振幅4m、三角波の100Hzで加振されているツインプローブ(1次モード共振周波数実測値:約0.95kHz)を、平面の測定物に近付けながら(X軸方向に0.02mづつ)、プローブの位置とDFを測定した.測定結果を図3に示す.図中に実線で理論曲線を示してある.

図3. プローブ移動量とデューティー比の関係

 この結果によれば、DFが小さい部分での理論値からのずれが大きくなっているが、およそ0.5m以内である.DFが小さいときには測定力も小さいので、エレメント間の接触が不安定であると考えられる.これにより、ツインプローブ式VS法で測定が可能であることがおおむね確認できた.

(2)測定結果

 実際に、測定の精度の検証として、JIS B0659表面粗さ標準片を測定した.振動周波数100Hz、三角波形の振幅4mでツインプローブを振動させながら、Z軸の500mにわたり2.5m間隔で、片面の測定を行った.得られた結果をみると、従来のVS法で得た結果より安定に測定されることがわかる.もっと安定し正確な電気的接触信号をツインプローブより取るため、各エレメント先端の接触面の部位にクロム(Cr)15nmと、金(Au)130nmの皮膜を順に蒸着した.ステンレスで作ったマクロモデルのツインプローブは、材料的に表面が酸化しやすいし、電気抵抗が大きいので、金の蒸着されたツインプローブにより測定信頼性の向上が期待できる.このプローブを用いて、上記と同様の測定を行った.

 駆動周波数と波形が測定信頼性に与える影響を調べるため、振動周波数200Hz、500Hz各々に、三角波と正弦波形の振幅2.5mでプローブを振動させながら、同じ場所でそれぞれ5回の測定を行った.そして、200点の位置におけるそれぞれの測定値の標準偏差を計算し、その分布を図4に示した.図からわかるように、200Hzの正弦波では測定値ばらつきの標準偏差がおよそ0.7m以下であることがわかった.500Hzの三角波の場合は、装置の一部が加振波形に含まれる高周波成分により共振したため、このマクロモデルのツインプローブでは使用不能に近い状態であった.各条件での実験で、一定方向に毎回およそ2mつづのドリフトが発生した.この理由はプローブホルダーでのギャップ調節で起こる内部応力と周囲温度の影響であると考えられる.図5では各測定値のドリフトを補正して示した.

図4. 各測定条件における標準偏差のヒストグラム
4-3.マクロツインプローブ式VS法の実験結果

 ツインプローブ式VS法の不導体材料測定への適用性が確認できた.プローブと測定面との接触信号を用いる原理は同じだが、測定物の材料などには関係なく、二つのプローブの弾性変形によって、電気接触信号が得られ、従来のVS法と同程度以上の高精度で測定できることが明らかとなった.

5.マイクロツインプローブの製作と測定結果

 マイクロツインプローブを構成する二つのエレメントの先端の間は、およそ5m以下のギャップが必要である.また、二つのエレメントが接触する時以外は、両者が完全に電気的絶縁を保たなければならない.そこで、本体を弾性的特性を持つ単結晶シリコンとし、シリコン酸化膜で電気的絶縁を可能にすることを考え、SOI(silicon on insulator)を用いて、ドライエッチング、ウエットエッチング、メタライゼーション等を組み合わせたシーケンスにより、VS法(マイクロ穴内部の形状測定法)のマイクロ化を実現するための先端幅20ミクロンのカンチレバーの作製をした.

 図5に製作のプロセスを簡単に示す.接触電気信号を得るためにシリコンプローブにクロムと金を蒸着する.図6に製作された、長さ300mのマイクロツインプローブを示す.

図5. 製作プロセス1.Nitride(Si3N4)layer deposition 2.Patterning of Cr mask structure 3.Backside opening by KOH etching 4.Reactive ion etching 5.Releasing the probe図6. シリコンマイクロツインプローブ

 マイクロツインプローブの測定精度を調べるため、<100>シリコン面上の一点を繰り返し測定して、その測定値のばらつきを調べた結果、およそ1m以内にあることが分かった.ばらつきが大きかった原因は測定温度や、マイクロツインプローブとそのホルダを含む加振系の構造にあると考えられるので、新しいホルダを設計し、精度を高めることにも成功した.

 実際にこのマイクロツインプローブを用い、直径127mの不導体穴の内部面を深さ150mまで測った結果を図7に示す.その後、より深い所まで測るために、長さ3mmまでのマイクロツインプローブを製作した.プローブの幅や厚さに対し非常に長いため、製作プロセスの中で起きる残留応力の影響を逃がすように各プローブの間にダミー棒を配置する方法で製作に成功した.図8に製作された長いマイクロツインプローブをしめす.長いツインプローブの機械、電気的特性を調べ、さらに、実際測定も行った結果、繰り返し精度を0.5m以内に保つ事に成功した.

図7. 細穴断面形状の測定結果図8. 長いマイクロツインプローブ
6.光てこ式VS法の開発

 マイクロツインプローブVS法の問題は、各エレメント先端接触面の間の電気的接触信号の安定性とプローブtipをsharpに作るのが難しいことである.そこで、さらに測定の分解能を高めるために、尖った部分を持つsingleプローブを用いて比較的に高い分解能が得られる光てこ式の接触検出をVS法に適用する事を考えた.マクロモデルによる適用性を確認した後、半導体製作プロセスによるマイクロシングルプローブを製作した.VS法のように、プローブの共振周波数よりかなり低い周波数でプローブを微振させながら、測定物に接触した時のプローブの変位を直接に検出し、DFを取る.プローブを穴の内部に挿入するため、マクロモデルのカンチレバーの先端ではなく、振動させる固定部分にレーザを照射し、4分割型フォトダイオードからDF信号を得た.さらに長さ2mmまでの尖った部分を持つシリコンマイクロカンチレバーの製作にも成功した.

7.まとめと今後の課題

 ○直径0.5mm以下の穴内部の形状測定のため、バイブロスキャニング法(VS法)を開発し、高速度化、高精度測定を実現し、細穴の測定に対して実用的な手段を提供した.

 ○この方法は測定対象が導電体に限られていたため、不導体の細穴の測定にも適用することができるツインプローブ式VS法を開発した.スイッチ式マクロモデルのツインプローブにより、測定物の材料には関係なく、不導体の穴でも測れることを確認した.

 ○半導体製造プロセスによるマイクロツインプローブを製作し、直径0.2mm以下の不導体細穴を測定するのに成功した.なおアスペクト比が大きい細穴を測定するため、さらに長い(3mm)マイクロツインプローブも製作し、繰り返し精度が0.5m以下にあるのを確認した.

 ○さらに測定精度や感度を高めるため、光てこ式VS法の開発に取り組み従来VS法のようにDF比を用いて変位を取れる可能性を確認し、sharpnessを持つマイクロプローブの製作に成功した.

 より長い微細プローブを作り、光学的interferometerを用いれば、深い細穴の内部形状や表面の3次元的な形状測定が正確に行えるようになるであろう.様々なマイクロ加工の分野で製品や部品の評価、加工技術の開発に大きな役割をすると思われる.構造が非常に簡単で測定時間も早いので、実際の現場ですぐ利用できる.

 測定だけではなく、位置決めなどにも応用が考えられる.また、table-stageの改善、データ処理システムの導入により、一般の微細三次元的形状を精密に測定する手法となることが期待できる.

審査要旨

 本論文は微細穴の計測に関する研究-バイブロスキャニング法の開発と検証-と題し、9章からなる.

 第1章では、本研究の背景と目的について述べている.半導体製造プロセスを用いた微小機械の研究がきっかけとなり、マイクロマシンの研究が活発に行われ、このマイクロマシンの実用化を支える重要な技術の一つとして、マイクロ構成部品の寸法・形状精度を正しく評価する技術が必要になる.その技術の歴史と現状に言及し、また近年加工技術の向上により実現されるようになった微細穴を例にとれば、より細く深い穴の内部形状測定は極めて難しいこと、従って、細穴の測定が可能であるような新しい手段の開発を研究の目的としたことを述べている.

 第2章では、直径0.5mm以下の細穴の内部形状を測定するため開発されたバイブロスキャニング法(以下VS法と表記)の測定原理、測定アルゴリズムや装置等について述べている.

 第3章では、この手法の信頼性を実用レベルまで高めるため、まず触針素材によって繰り返し測定制度が変わることを、統計的手法を用いて明かにし、この手法に適する材料としてどのような性質のものが必要であるかを示している.また、加振波形や周波数についても同様の手法により、信頼性向上に関する具体的な指針を示している.

 第4章では、さらに微細限度の拡張を試みる一方、様々の細穴の内部形状測定実験によって、VS法が細穴の測定に対して実用的な手法となりうることを示している.

 第5章では、電気的接触信号を基とするため導電性材料のみを対象としたVS法を、不導体の細穴の測定にも適用を拡張するために、2本で一対の触針を用いるツインプローブ式VS法を新たに提案し、マクロモデルのツインプローブで、測定物の材料には関係なく、簡単に穴の形状が測れる可能性の確認に成功している.ステンレスで作ったマクロモデルのツインプローブは、材料的に表面が酸化しやすいし、電気抵抗が大きいので不安定であるが、金を蒸着することにより測定信頼性の向上が得られることを明らかにしている.またプローブと測定面との接触信号を用いる原理は同じだが、測定物の材料などには関係なく、二つのプローブの弾性変形によって、電気接触信号が得られ、従来のVS法と同程度以上の高精度で測定できることが明らかにしている.

 第6章では、さらにマイクロ化を実現する必要があるので、ミクロンオーダのツインプローブを作る研究について述べている.マイクロツインプローブを構成する二つのエレメントの先端の間は、およそ5m以下のギャップが必要である.また、二つのエレメントが接触する時以外は、両者が完全に電気的絶縁を保たなければならない.そこで、本体を弾性的特性を持つ単結晶シリコンとし、シリコン酸化膜で電気的絶縁を可能にすることを考え、SOI(silicon on insulator)を用いて、ドライエッチング、ウエットエッチング、メタライゼーション等を組み合わせたシーケンスにより、ツインプローブ式VS法のマイクロ化を実現するための先端幅20ミクロンのカンチレバーの作製をした結果について述べている.シリコンをベースとした3次元的形状加工の具体的な例として、微細なカンチレバーの製造プロセスを提案し、接点部分および信号搬送用の回路部分の作製、そして最終的な機能試験まで行いマイクロ測定に適用できることを確認している.そして、実際に直径0.2mm以下の不導体細穴を測定するのに成功した実施例が紹介されている.

 第7章では、さらにアスペクト比で20を超える深穴を測るため、先端幅75m、長さ3mmの長いマイクロツインプローブの製作にについて述べている.プローブの幅や厚さに対し非常に長いため、製作プロセスの中で起きる残留応力の影響を逃がすように各プローブの間にダミー棒を配置する方法を提案して製作に成功している.このプローブを用いて測定精度を高める実験を行い、繰り返し精度はおよそ0.5m以内にあることを確認している.

 第8章は、光てこ式変位検出法をVS法に適用する事に関する.マイクロツインプローブVS法の問題点は、各エレメント先端接触面の間の電気的接触信号の安定性とプローブtipをsharpに作るのが難しいことである.そこで、さらに安定性と分解能を高めるため、検出部が尖ったプローブを用いて比較的に高い分解能が得られる光てこ式の接触検出をVS法に適用する事を提案している.先ず、長さ15mmのマクロモデルによる適用性を確認し、半導体製作プロセスによるマイクロシングルプローブの製作にも成功している.

 第9章「結論」では、提案した各手法について、この研究で明らかになった特性、特長、問題点についての結論がまとめられている.

 以上、本論文は今まで困難であった微細穴の内部形状を測定するために、新しい測定手法を提供し、高速度化、高精度測定を実現し、実用的な応用実験を含めその有用性を明らかにしており、様々なマイクロ加工の分野で製品や部品の評価、加工技術の開発に大きな役割を果すものといえる.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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