加圧水型原子力発電所の蒸気発生器はこれまで粒界腐食損傷による微小クラックの発生に悩まされ、7年前には、疲労き裂の検出に失敗して細管が破断し微小量の放射能が大気中にもれた。蒸気発生器細管破断事故は世界的に数年に一度の頻度で発生している。これに関連して2つの対策がとられた。検出技術の高度化のための研究開発と旧式の蒸気発生器の取替えである。新型の蒸気発生器では、旧式に比べてクラック発生に対する耐性は一段とすぐれていると評価されている。 本論文は細管の欠陥検査として適用されている渦電流探傷法(ECT:eddy current testing)の高度化について研究したものである。本論文は、5章より構成されており、その概要は以下の通りである。 第1章は、本論文の背景と目的について述べ、渦電流探傷法の原理を簡単に紹介し、蒸気発生器への適用の状況、要件などについて述べている。 第2章では、100以上の論文を調査してECTに関する研究の現況を、数値解析技術、プローブ設計、逆解析手法、信号解析手法及び知的検査システムの開発に着目しながら紹介している。 第3章と4章では、本論文の中心的内容が記述されており、センサーの高度化と逆解析手法の構築に関して独創的な方法が提案・実現されている。第3章では渦電流を媒介として、き裂と検出コイルとノイズの3者の複雑な相互関係に着目し、数値解析結果を援用し、ノイズ抑制効果を考慮しながらECTプローブの最適化を追求している。数値解析は3次元のA-法に基づいている。欠陥は細管中に導入されており、欠陥周りに検出するのに適した渦電流を発生させるため励磁コイルの形状を工夫した。そしてそれに依存して高感度の検出コイル形状を決定している。このような最適化の妥当性は次の第4章で検証されている。 ノイズはさまざまな要因に依存し、それを完全に除去するのは困難であるが、ここでは欠陥の作る磁場の幾何形状を考慮しながら適切なコイルの配置と組み合わせを採用しノイズを極小に押さえている。評価の適正化のため新しい較正法を適用し、世界的に評価の高いセンサーであるプラスポイントに比べて遜色のないS/N比を得ている。 第4章では、高感度センサーとして提案した2つの方法のうち、十時型に組み合わせた励磁・検出コイルを採用した。第4章の主な目的は、回帰法に基づいた逆解析手法を発展させ、ECTの測定データとき裂情報の統計的関係からき裂形状を決定するものである。このとき、ニューラルネットワークを応用する。従って本逆解析手法はき裂のモデルに関する制約条件はなく、自然欠陥の接触問題までも解くことが出来るのが今までのコードにない、大きな特長といえる。多くのシミュレーションの結果が得られており、この種の問題の解析としては良好な結果となっている。実験結果との一致も良好である。また最大25%のノイズを入力データに加えたときにも、良好な結果が得られている。 第5章は結論であり、次のように要約される。 1)渦電流の励磁と信号の検出の結合特性を最適化して、渦電流センサーの設計に応用しその妥当性をシミュレーションによって確かめた。 2)高感度センサーとして2種類提案して、新しい較正法を工夫してノイズを最小化し、高いS/N比を実現した。 3)多重解像化法とニューラルネットワークを組み合わせて新しい逆解析法を提案した。測定結果などの逆解析を実施して良好な結果を得ている。 以上を要するに、本論文は渦電流探傷技術において、高感度センサーの最適設計と自然き裂を含めた欠陥のすぐれた逆解析手法を提案しており原子力工学の発展に寄与するところ大なるものがあると認められる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |