1。緒言 電気粘性現象(Electrorheology,ER)とはある流体に電場をかけるとその粘性が変化する現象を示す。特に微粒子分散系のERはその粘性変化が大きく、現在ブレーキやクラッチへの応用研究がなされている。これは分散粒子が強電場下で分極し、電場方向に架橋構造をつくることに起因する。ところで酸化チタンは約3eVのバンドギャップを持つ半導体で紫外光照射によって光電荷分離がおこる。そこでER流体の分散粒子に酸化チタンを用い光照射すると、その粘性に光電気粘性現象(Photoelectrorheology,PER)が現われるものと考えられた。これはER現象を光で変化させるという、新しいERの制御法として意義がある。また酸化チタンは紫外光照射下において強い酸化力を示す。この性質を利用し酸化チタンを使った環境中の悪臭、有害物質の分解、除去が実用化されている。酸化チタンは建材の表面等に薄膜化され用いられるが、微視的には微粒子の集合体である。酸化チタン微粒子上の光電気化学反応は、溶液中に分散した酸化チタン粒子の電気泳動速度の光変化や、検出される光電流より研究され、スラリー電極法として知られている。この方法により、光照射下における酸化チタン微粒子の電位浮遊効果が確認されている。ER現象の起動力は粒子の分極によるものと考えられるので、ER流体に酸化チタン粒子を用いることで、スラリー電極とは異なった酸化チタンの光電気化学反応の知見が得られることが期待できる(光電荷分離能等)。
本研究では酸化チタン粒子をシリコンオイルに分散させた流体を用い自作の粘度計で、印加する電圧や照射光の波長、強度をかえてそのPER効果について調べた。その結果、この流体に紫外光照射すると粘性が増大または減少することを確認した。この効果の違いは粒子中の含水量や光強度、回転粘度計の回転速度に依存した。さらに、電極間の粒子運動を顕微鏡観察し、PERの発現機構について明らかにした。また、流体に2-プロパノールを添加して、酸化チタン表面でおこる光触媒反応とERとの関係を調べ、酸化チタンの光触媒反応の研究にこのPERが応用できることを示した。
公表論文 1)Komoda,Y.;Rao,T.N.;Fujishima,A.Langmuir 1997,13,1371.
2)Rao,T.N.;Komoda,Y.;Sakai,N.;Fujishima,A.Chem.Lett.1997,307.
3)Komoda,Y.;Sakai,N.;Rao,T.N.;Tryk,D.A.;Fujishima,A.Langmuir,submitted.
4)Sakai,N.;Komoda,Y;Rao,T.N.;Tryk,D.A.;Fujishima,A.J.Electroanal.Chem.,to be published.
5)Komoda,Y.;Rao,T.N.;Tryk,D.A.;Fujishima,A,in preparation.
6)Komoda,Y.;Rao,T.N.;Tryk,D.A.;Fujishima,A,in preparation.
(総説)薦田康夫、藤嶋昭、光化学、1997,24,32.