本論文は、「Evolutionary Design of Cellular Automata Based Controller for a Decentralized Conveyance System(セルラーオートマトンに基づく分散搬送システムの制御とその遺伝論的設計)」と題し、面状に分布したセンサとアクチュエータを用いて物体を検知し運搬するシステムについて、進化型最適計算を応用して分散コントローラを設計する手法に関して研究した成果をまとめたものであり、英文9章から構成されている。 第1章は「序論」であり、本研究の背景である自律分散システムの概念とマイクロマシン技術によるセンサとアクチュエータのアレイ化について説明した後、本研究の目的が自律分散システムの分散制御器を進化型手法で求めることにあると定めている。 第2章は「セル型部品搬送システム」と題し、センサ、電子回路、アクチュエータを備えたセルを単位として、そのセルを敷き詰めた平面上で物体を搬送する分散搬送システムの特性、遂行できる作業、および応用が期待される分野について述べている。 第3章は「セルラーオートマトンに基づく制御器」と題し、従来のセルラーオートマトン理論を拡張し、外界との物理的相互作用のあるシステムの制御器として用いる方法について論じている。 第4章は「機械的モデル」と題し、制御ルールを進化型計算で最適化するときの評価に必要な物体搬送の動力学的モデルの構築について述べている。 第5章は「進化型アルゴリズム」と題し、様々なルールを持つ制御器の候補をその制御特性で評価し、さらにルールを擬似的な遺伝子とみなして交叉や突然変異によってルールを試行錯誤的に改善することで制御器を最適化する方法について説明している。このとき制御ルールを決定木で表し、探査空間を構造化することで最適化の効率を著しく向上できることを示している。 第6章は「シミュレーションシステムの実装」と題し、上記の最適化手法を分散搬送システムの制御器の設計に適用するための計算環境の実装について述べている。 第7章は「実験結果」と題し、シミュレーションにより得られた結果から、上記手法を用いて分散制御器の設計が可能であることを示している。 第8章は「設計方法論」と題し、分散搬送システムの設計で得られた知見を一般化し、ある与えられた目的を遂行するように、自律分散システムの分散制御器を設計する手法を論じている。 第9章は「結論」であり、本研究の成果が要約されている。 以上これを要するに、本論文はセンサ、電子回路、アクチュエータを備えたセルを単位として、そのセルを敷き詰めた平面上で物体を搬送するシステムの分散制御器を、設計者が進化型最適計算の支援を受けつつ設計する手法を提案し、その有効性を計算機シミュレーションによって検証したもので、情報工学上貢献するところが少なくない。 よって、本論文は東京大学工学系研究科情報工学専攻における博士(工学)の論文審査に合格と認められる。 |