本研究はマウス皮膚多段階発癌過程のメカニズムに基づいた種々の実験系においてコレステロール硫酸(CS)およびその合成酵素であるコレステロールスルフォトランスフェラーゼ(CST)がどのような動態を示すかを明らかにし、その役割と機能の追及、検討を目的としたもので、下記の結果を得ている 1.発癌プロモーター処理されたマウス皮膚のCS量、CST活性、およびTG-1活性は、有意にコントロールに比べ上昇し、かつCST活性の経時的変動パターンはDNA合成の経時的変動パターンと類似していた。 2.イニシエーション-プロモーション法により発生したパピローマおよび扁平上皮癌では、CS量とCST活性が正常組織に比べ全ての腫瘍で有意に上昇していた。TG-1活性には有意な変化は認めなかった。 3.培養ケラチノサイトではEGF、KGF、IGF-1の添加によりCST活性の増加が認められこの増加はDNA合成の増加と一致した。TG-1活性には有意な差は認められなかった。 4.培養ケラチノサイトに対するTPA投与ではCST活性の上昇を認めたが、CHRY投与では認められず、in vivoでの両者のCST活性化機序に違いが存在することが示唆された。 5.ras遺伝子の発現が最も高い新生児期のトランスジェニックマウス(Tg)より分離された皮膚あるいは培養ケラチノサイトでは、CST活性およびDNA合成量が正常マウスに比べ高いが、TG-1活性には有意の差を認めなかった。 以上、本論文は皮膚ケラチノサイトの分化のマーカーとしてとらえられていたCSTが増殖に関連した伝達系においても深く関与していることを示すとともに、rasの過剰発現がEGFrリガンドのアップレギュレーションを介してCST活性を増加させている可能性、ならびにパピローマなどのイニシエートされた細胞では最終分化に到達する能力がブロックされており、そのブロック部位はCS量増加からTG-1活性上昇にいたる活性化経路の間にあると考えられることを初めて明らかにした。本研究は皮膚ケラチノサイトの分化、増殖、ひいては発癌過程の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |