本論文は、超LSIの金属電極・配線形成に必要なWSixおよびCu薄膜のCVD(Chemical Vapor Deposition)プロセスを対象とし、速度論的な解析に基づき反応器を設計する方法について検討したものである。英文140ページからなる本論文は、「Methodology of Reactor Design Using Simple Tubular Reactor Analysis for the WSix and Cu CVD Systems」(和訳:WSix及びCu-CVDの速度論的解析による反応器設計方法論)と題し、全6章から構成されている。 第1章はイントロダクションであり、CVDプロセスの装置設計および開発の現状とその問題点について述べている。今後ますます複雑化するCVD装置の開発においては、最適な装置設計の方法論を確立し、開発効率の向上を図るべきであるとし、実験室規模のCVD反応器を用いた速度論的解析を基に大型反応器の設計を行うという本論文の研究意図および目標を示している。 第2章は、本論文で用いたCVDプロセス反応機構解析手法についてまとめている。まず、円管型反応器を用いた成膜速度分布から、反応機構および律速段階が推察できること、また、2次元流体シミュレーションを併用することによって、成膜種(中間体)を生成する気相反応速度定数や成膜種の拡散係数などの速度パラメータを実験的に評価することが可能であることを示している。さらに、ステップカバレッジ解析法、MMC(Micro/Macro-Cavity)法などの手法を用い、表面反応速度定数の推算や反応機構の検証を行う方法についても解説を行っている。 第3章は、WF6(六フッ化タングステン)とSiH4(シラン)を原料としたWSix(タングステンシリサイド)薄膜形成CVDプロセスの反応機構を、主に円管型反応器を用いて解析した結果についてまとめている。本反応系は、WF6とSiH4の気相反応により活性な中間体が生成し、さらにこの中間体に逐次的にSiH4が反応することによりSi組成の多い中間体が形成されて成膜種となり、生成されるWSix薄膜の組成が変化することが分っている。本論文ではこれらの気相反応速度を円管型反応器内での成膜速度分布および薄膜組成分布から測定することを試みている。実際には細いガラス管(内径2mm以下)を用いて物質移動抵抗の影響を除去し、気相反応律速となる状況で成膜を行い、成膜速度分布と熱流体解析ソフトを用いた2次元シミュレーションとの比較から気相反応速度を正確に定量している。 第4章では、5インチシリコンウェハーを収用できる基板加熱型反応器を作製し、本反応器を用いてWSix薄膜のCVD合成を行った結果を、前章で得られた速度パラメータを基にシミュレーションした結果と比較している。5インチシリコンウェハー内の成膜速度分布、薄膜組成分布の実測値とシミュレーションによる予測値は10%程度の誤差で良い一致を示した。このことから、等温かつ小型な円管型反応器を用いた速度解析を基に、基板加熱型の反応器の性能を予測することができ、効率的な装置設計が可能であることを示している。反応器改善の一例として、ガス排気口を基板フォルダーと同じ水平面内に形成し、鉛直方向に排気するよりも、反応器壁面に排気口を設け、ガスを水平方向に排気することにより、成膜速度分布と組成分布が均一化することを計算により示している。 第5章では、Cu(銅)薄膜形成プロセスについて検討を行っている。超LSIの高集積化に伴って、低抵抗Cu配線の必要性が高まってきていることなど、Cu-CVDの現状と課題についてまとめた後、WSix-CVDプロセスの解析と同様に円管型反応器を用いた解析結果についてまとめている。Cu-CVDの原料ガスには(hfac)Cu(tmvs)(ヘキサフルオロアセチルアセトナート-銅-テトラメチルビニルシラン)を用い、水素をキャリヤーガスとして120〜240℃での成膜を行った。その結果、145℃以上の温度領域では円管型反応器内の成膜速度分布の傾きが反応管径に依存せず、成膜速度の絶対値が管径に比例して増大する現象を見いだしている。これは気相反応による成膜中間体の生成が成膜過程の律速段階であることを示している。一方、120℃以下の低温領域では成膜速度分布の傾きが管径の逆数に比例して変化することから成膜種の表面反応律速であることを見いだしている。これらの情報を基に、気相での中間体生成速度および表面での中間体反応速度を求め、さらに、これらの速度パラメータを基にしてマクロキャビティ内の成膜速度分布を予測するシミュレーションを行った。シミュレーション結果は実験結果と良く一致し、反応機構と速度定数の妥当性を示すことに成功している。 第6章では本研究成果をまとめており、本論文で提案するCVD反応器設計方法論の有効性について論じている。 以上、本論文は超LSI作製に重要なCVDプロセスの反応機構解析方法と装置設計手段の体系化を行ったものであり、化学システム工学の発展に大いに寄与するものである。よって、博士(工学)として合格と認められる。 |