本論文は、メタンの低温酸化反応におけるパラジウム担持触媒の特性と反応機構を検討したものであり、全体で5章からなる。 第1章は、緒言であり、今後のエネルギー源シフトにより重要性を増すことが想定される、メタンの低温酸化反応による排ガス浄化に関する背景を述べ、最も活性が高いとされるパラジウム触媒の特徴的な挙動、活性比較等に関する過去の報告例やその問題点についてまとめている。特に、水などの反応阻害物質の反応速度への影響補正がなされた上で検討された例が殆ど無いこと、活性化が不十分な状態で反応速度が測定されている可能性があることなど、過去の報告例における問題点を指摘し、その重要性に言及した上で、本研究では、これらの問題点解消に特段の注意を払いながら、本反応系におけるパラジウム触媒の特性、挙動に関して改めて検討を行い、これら現象の原因を解明するとともに、反応機構を提唱することを目的とすることを述べている。 第2章においては、未だ統一的な見解が得られていないメタン酸化反応速度のパラジウム粒子の粒径依存性に関し、担持したパラジウム粒子の粒径を系統的に変化させ、反応阻害物質の影響を補正して、メタン酸化反応の速度を比較検討した。その結果、活性化エネルギーは一定のまま、パラジウム粒径が大きくなるにつれて、反応速度が直線的に増大することが明らかとなり、他の解析結果と併せて、Pd-Oの結合エネルギーがその粒径が大きくなるにつれ減少し、反応活性サイトの安定性、濃度が向上したためにこの様な粒径依存性が観察されたと推定した。 第3章においては、未だ具体的な報告が見られない本反応系における反応機構の提唱を目的に速度論解析を行った。その結果、反応速度はメタン濃度の1次、酸素濃度の0次、水濃度の-1次に比例し、過去の報告例と一致することが確認され、パラジウム金属空きサイトとPd-Oサイトからなる表面サイトペアー上へ、メタンが解離吸着する素過程を律速段階とする一連の反応機構を新たに提唱した。本反応機構による一連の反応素過程から導かれる理論式は、確認された実験式と合致し、本反応機構によれば、水、二酸化炭素による反応阻害は、これら物質が上記活性サイトペアーをメタンと競争吸着することによると説明できた。 第4章においては、メタン酸化反応初期に観察される活性向上の原因を、触媒調製法にも注目つつ、種々の解析手法を組み合わせて検討した。その結果、触媒調製の際、触媒前駆体の分解速度を低減して発熱を制御することにより、活性向上挙動を消滅させ、逆に活性低下挙動を示す触媒が得られることを見出すに至った。これら触媒に水素による還元処理および十分な酸化処理を行い、反応初期の挙動を比較検討し、この活性向上挙動は不完全な酸化状態にあるPdOxの酸化進行に起因して発現していると推定した。また、773Kにて24時間にも及ぶ空気焼成処理を施した反応に未使用の触媒表面上において、PdOx表面にPd金属が相当量残存していること、また、メタン酸化反応による活性化処理に伴い表面が徐々に酸化されていることが、吸着COのIR観察により明らかとなり、上記推定を裏付ける結果を得た。更に、この触媒がメタン酸化反応による活性化処理後に見かけの活性化エネルギーが減少していることが判明し、活性化処理によりPd金属上での反応からPdOx上での反応へと推移していく中で、反応機構が変化していると推定した。 第5章では、全体総括を行っており、過去の研究例における問題点を注視しつつ詳細な検討を行うことにより明らかとなった事象がまとめられている。 以上述べたように、本研究は低温メタン酸化反応による排ガス浄化触媒の実用化に向けて重要な知見を与えるものであり、特にパラジウム担持触媒の挙動解明という基礎的な見地から、この分野における今後の発展に寄与すると認められ、高く評価できる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |